『カードキャプターさくら』が男性ファンも獲得したワケ 誕生から20年、劇場版リバイバル上映に寄せて

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2017年01月26日 06:02  リアルサウンド

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(c)CLAMP・ST・講談社/バンダイビジュアル・マッドハウス

 2016年秋の深夜アニメは魔法少女を題材にした作品が数多く放送された。元々このジャンルは、女の子向けだったが、昨今では男性向け深夜アニメとしても1ジャンルを形成しており、双方の市場で根強い人気を誇っている。『魔法少女まどか☆マギカ』のような社会現象とも言えるようなヒット作も生み出し、アニメの定番のジャンルのひとつと言っていいだろう。


参考:魔法少女アニメなぜ激増? 『魔法使いサリー』から『魔法少女育成計画』に至る系譜を読む


 女の子の夢や願望を反映したかわいい世界観では必ずしもない深夜アニメの魔法少女ものは、『魔法少女育成計画』などの残酷描写を多数含むものあり、お色気描写がふんだんに盛り込まれた作品も多いが、こうした男性向けにチューニングされた魔法少女ものが生まれたのは、『カードキャプターさくら』の影響が大きいと言われる。その『カードキャプターさくら』の劇場版が現在リバイバル上映されている。


 原作漫画は少女漫画雑誌『なかよし』での連載で、基本的には女の子向けの可愛らしいタッチの作品。実際に多くの小学生女子に支持されたが、男性ファンをも数多く獲得した作品として知られていて、男性ファンにも支持された先行例である『セーラームーン』と並んで、女子向け作品の窓口を男性アニメファンにも広げた記念碑的作品だ。


 1996年の連載開始から20年が経ち、社会が大きく変化しても変わらず愛され続ける本作。その後に続く作品や視聴者にどんな影響を与えたのだろうか。


■かわいいとカッコいいが同居した“さくら”という主人公


 『カードキャプターさくら』が多くの男性ファンを獲得するに至ったのは、キャラクターのかわいさもさることながら、巨大な敵と戦うストーリー展開にもあった。


 エブリデイ・マジックと言われるような、日常の出来事を魔法の力で解決して、素敵な男の子と結ばれるという初期の魔法少女ものとは一線を画し、本作は、巨大な敵や運命に立ち向かう女の子を描いた作品だった。ある意味では少年漫画的要素を取り入れた作品であり、これは少年向け戦隊ヒーローの要素を取り入れた『セーラームーン』と同様の方向性を示している。


 かつての女の子向けの漫画やアニメといえば、恋愛ものが定番だった時代がある。それが『セーラームーン』や『カードキャプターさくら』のような、それ以外の価値観も提示するような作品が生まれていったのは、時代の変化により価値観が多様化し、女性の社会進出が進みつつあったこととも呼応するだろう。


 本作のテレビ放送が開始された1998年は、ディズニーも戦うヒロイン『ムーラン』を公開した。女の子の憧れはアメリカでも日本でも多様化していったのだ。


 そうした多様な価値観を含んだ作品を子どもの頃に観て育った世代は、先行世代よりもさらに多様な価値観を持って成長しただろう。企画書に「女の子だって暴れたい」と書かれたプリキュアシリーズの人気も、これに続く流れだ。


 20年経った今も愛される『カードキャプターさくら』だが、なぜ今リバイバルの機運が高まっているのか。流行20年周期説ではないが、子どもの頃、さくらを観て育った世代が社会に出て、企画する立場になっていることとも関係するのだろう。


 バズフィードの、講談社ライツ事業部の川添千世氏へのインタビューによれば、『カードキャプターさくら』の盛り上がりは2013年頃からはじまっているようだ。



――新シリーズスタート、ファンのひとりとしてうれしいです! 連載開始よりずいぶん前から、グッズ展開は少しずつ増えていたように感じるのですが。


そうですね、2013年頃から急にお問い合わせが増えた印象です。2014年にさらにぐっと増え、現在はさらに……ですね。


――それは何かきっかけがあったのでしょうか。


具体的に何かがあったわけではないんですよね。本当に、自然発生的に。これは推測ですが、小さい頃にさくらを好きだった女性たちが商品企画をする側になったんじゃないかなと思っています。いただく企画書も、熱意があるものが多いです。



 こんな風に『カードキャプターさくら』を見て育った世代が社会に進出し、企画を仕切る側になっているということ自体、女性の社会進出が進んだことの現れなのかもしれない。男の子のヒーローのように敵と戦い、活躍するさくらの姿に勇気づけられた女の子たちが当時たくさんいたのだろう。


 さくらという主人公はかわいいだけでなくカッコいい存在でもあった。キメ台詞の「絶対だいじょうぶだよ」に象徴されるように、常に前向きで勇気を持って行動していく。そんな男前な部分に憧れた女の子たちも多かったのではないだろうか。


■さくらの「誰に対しても優しいまなざし」


 本作の劇場版がリバイバル上映されているが、改めて見返してみると、エブリデイ・マジック的な要素を持ちながら、現在の深夜アニメの魔法少女に萌芽となるような要素が多いことに気付かされる。さくらの口癖「ほえ〜」や「はにゃーん」などの萌え要素は言うにおよばず、劇場版では強調されないが、さくらと親友・知世の百合っぽい関係、さくらの兄とその親友、月城雪兎とのBLっぽい関係などなど、いくつものポイントを挙げることができる。さくらが片思いをする、香港からやってきた男の子の小狼(シャオラン)は、年上の男性・雪兎に憧れを抱いたりもする。


 こうした人間関係の描写は現在の深夜アニメでは珍しいものではない。少女漫画でありながら、こうした描写をした理由を原作者のCLAMPは「マイノリティに優しい作品にしよう」と考えたからだとインタビューで語っている。(参照:カードキャプターさくら メモリアルブック)


「『さくら』に関しては、この表現が正しいかどうかわからないんですが、「マイノリティに対して優しい作品にしよう。」ということを最初から話していたんです。知世ちゃんのさくらへの想いにしても、見方によっては<アブナイ>という言い方をされてしまうような想いですよね。雪兎と桃矢に関しても、読んだ方が友情と取ってくれてもいいし、それ以上の感情と取ってくださってもいい」


 こうした多様な価値観と「普通に」接する主人公が活躍する物語が、小学生に広く受け入れられたことは画期的なことではなかっただろうか。こうした価値観は、深夜アニメや漫画の萌え表現を多様にし、そこから『なのは』や『まどマギ』のような傑作が誕生した。そしてもう一方では、今の社会を生きる女性たち、男性たちに、世界には多様な生き方や恋愛の形があることを教えてくれたのではないだろうか。


 この20年で、LGBTなどのマイノリティに対する社会の価値観は大きく変わっただろう。しかし、まだまだ充分ではないかもしれない。昨年からは『カードキャプターさくら』の連載が再開され、2018年にはテレビアニメの放送も始まる。1998年当時小学生だった人が、今では家庭を持っていたりもするのだろう。親子そろって放送を楽しむ家庭もあるかもしれない。『カードキャプターさくら』の「誰に対しても優しい眼差し」は、そうやって親から子へと受け継がれていくのかもしれない。(杉本穂高)


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