英語やプログラミングより「ファイナンス」を始めなさい

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2017年02月01日 18:13  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ファイナンスは錬金術ではないが、それでもその習得は必要不可欠だと、若き実業家の正田圭氏。習得に必要なのは「本気のぶつかり稽古」だ>


今はさながら「ファイナンス」のプチ・ブーム。ただし、ファイナンスについては3つの大きな勘違いが流布していると、正田圭氏は言う。


1つ目は「ビジネススクールで知識として学ぶもの」、2つ目は「数式ばかり出てくる難解なもの」。正田氏によれば、いずれも正しい捉え方ではない。そして3つ目の勘違いについて、彼はこう述べる。


「ファイナンスは、それだけわかったからといってお金を生み出せるような錬金術ではない」


であれば、ファイナンスとはいったい何なのか。1986年に生まれ、15歳で起業。現在、M&Aの最前線で活躍する若き実務家である正田氏は、新刊『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。』(CCCメディアハウス)でまずファイナンスを定義づけし、その後、ファイナンスに関する考え方や技術をわかりやすく解説している。数式を使わずに、ファイナンスの本質を明かした一冊だ。


ここでは本書から一部を抜粋し、4回に分けて掲載する。第3回は「第2章 ファイナンスに関するよくある勘違い」より。


『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。』


 正田 圭 著


 CCCメディアハウス


※第1回:「使えるファイナンス」をもつ人材が日本に足りない


※第2回:ファイナンスは教養、「物の値段」を考えること


◇ ◇ ◇


ファイナンスは「ぶつかり稽古」でしか身につかない


 私はM&Aなどの案件に携わるようになって、投資銀行の人たちと共に案件を進める機会が多くなりました。私は当初、彼らはすごく仕事ができるのだろうと考えていました。確かに、彼らは分厚い資料を短時間で作成する能力やエクセルを使う能力に長けています。でも、私は彼らの仕事にとてつもない違和感を覚えました。


 投資銀行の人たちの多くは、企業や事業が実際のところ何をやっているのかとか、この事業の収益の源泉になっている部分はどこかとか、そのようなことを一切考えずに仕事をしているのです。


 あるいは、そのような思考がすごく苦手なのです。


 今思えば、彼らは実際の事業の運営に当事者として取り組んだことがないからだとはっきりとわかります。彼らの大部分は、ファイナンスの数式を暗記しているのと、あとはエクセルのショートカットキーや資料にどの色を付ければ見やすくなるか等のテクニックに長けているだけで、何か新しい付加価値を創造する能力はなかったのです。


 誤解のないように申し上げておきますが、投資銀行家がみな優秀でないと言っているわけではありません。当然ながら、投資銀行家の中には大変優秀な方もいらっしゃいます。300人に1人くらいではありますが、投資銀行の側から、しっかりと事業を理解して、企業に莫大な価値を創出している方もいらっしゃいます。


 私のファイナンスの師匠に当たる人も、その一人だったと思います。


 私がここで言いたいのは、投資銀行家がどうこうという話ではなく、ファイナンスだけわかっていても、事業家として大成しないということです。事業家として成功するには、ファイナンスを用いて事業の本質を見極め、新たな利益を創造していく能力が必要なのです。そして、そのような能力は、数式だけエクセルで追いかけていても身につくものではありません。ビジネスの当事者となり、ファイナンス×事業の「本気のぶつかり稽古」を行って初めて身につけることができるものなのです。


 ここで3つ目の大きな勘違いについてまとめておきましょう。


「ファイナンスは、それだけわかったからといってお金を生み出せるような錬金術ではない」


 ファイナンスを勉強したからといって、お金持ちになれるわけではありません。ファイナンスはお金に対する考え方を教えてくれるものであり、お金儲けが上手になるためのツールではないのです。


 むしろ、世の中に錬金術などというものは存在せず、お金というものにロジカルにきちんと向き合っていけるようになることがファイナンスを学ぶ意義なのです。そして、その考え方を事業に活かしてはじめて、ファイナンスを学んだ意義が出てくるのです。もちろん、お金を稼ぐ、あるいは事業を行って利益を出すにはファイナンスの知識は必ず必要になってきます。


 先述のソフトバンクアカデミアの話に戻りますが、社長室在籍で、実際にアカデミアのランキングで首位にいた方は「ファンドマネージャーの資質がない人は、ソフトバンクの後継者には100%なれない」と断言しています。


 M&Aなどの大きなディールで莫大な利益を出そうと思えば、ファイナンスの知識なしに実現することは不可能です。


 ただ、ファイナンスは優秀な事業家になるきっかけにはなり得ますが、ファイナンスを習得するだけでその域に到達することはできません。


 またもやウォーレン・バフェット氏の言葉になりますが、「事業家であるがゆえにより良い投資を行うことができ、投資家であるがゆえによりよい事業を行うことができる」のです。


 ファイナンスと事業、両方そろってはじめて意味を成すのです。


今から始めるのなら「プログラミング」より「ファイナンス」


 ここまで本書を読み進めてみて、みなさんはどのような感想をお持ちでしょうか。


 今まで思っていたことと今聞いたファイナンスはまったく違うな、と感じているかもしれません。


 特殊スキルだと思っていたファイナンスが、実はただの教養である。ややこしいと思っていたものが実は単純なものである。ファイナンスを理解したからといって、それだけでは良い事業家になるには不十分だ。


 これまでのイメージと大きく異なることに驚きを隠せない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私が今述べてきたことは、紛れもない事実なのです。


 では、ファイナンスを学ぶ意義はどこにあるのでしょうか?


 ファイナンスはただの考え方であると述べてきましたが、私たちがファイナンスを学ぶ目的はどこにあるのでしょうか?


 果たして、ファイナンスを学ぶことはビジネスの世界で生きていくうえで有意義なのでしょうか?


 私は、ビジネスの世界で生きていくなら、ファイナンスの習得は必要不可欠なものであり、今後ますますファイナンスを理解する意義は大きくなっていくと考えています。


 わが子に小さいうちから学ばせたいものとして、よくプログラミングや英語などが挙げられますが、私ならどれか一つと言われれば、迷わずファイナンスを選びます。


 今からビジネスの世界で戦おうとしている人に、何から学べばよいか相談された場合も同じです。私はプログラミングよりもファイナンスをおすすめします。


 ビジネスというものを考えるとき、まずはじめに考えなければならないのはお金です。お金がなければ何も始まらないわけで、ビジネスを運営しようと思えば、まずお金について知っておくことが非常に重要なこととなります。


 これが、私がファイナンスを必要だと考える最も大きな理由です。


 それと同時に、お金に振り回されないための考え方を知っておくことも重要です。それを知らないと、将来ビジネスで大きなお金を動かすときに、お金に引きずられることになってしまうかもしれません。それを避けるためにも、お金についての知識を蓄えておくことは非常に大切なことです。


 IR(インベスター・リレーションズ。投資家向け広報)をする際も、ファイナンス的な視点は常に頭の片隅に置いておくべきです。


 新規事業を立ち上げたり、新製品を開発したりする際にも、ファイナンスの知識を駆使する必要があります。


【参考記事】一文無しも経験したから言える「起業=投資論」


 ファイナンスというのは、お金全般に関する幅広い考え方のことで、これだけ知っていれば完結するというものではありません。しかし、ファイナンスの知識を少しでも多く持っていると、お金とのつきあいが上手になり、お金に振り回されることが少なくなっていくのです。


 事業家として大成するには、ファイナンスの習得は避けては通れないものなのです。


※第4回は2月2日に掲載予定です。


『ビジネスの世界で戦うのならファイナンスから始めなさい。』


 正田 圭 著


 CCCメディアハウス




ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


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