「人生にムダはない」 93歳作家・佐藤愛子をつくってきた言葉とは?

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2017年02月09日 10:04  新刊JP

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『それでもこの世は悪くなかった』(文藝春秋刊)
小説家・佐藤愛子氏。

93歳となった今でもなお、彼女の小説、エッセイは絶大な人気を博している。事業に失敗した夫の莫大な借金を背負い、苦労しながらも強く生きてきた、そんな佐藤氏に影響を与え、彼女をつくった言葉とはどんなものなのか。

『それでもこの世は悪くなかった』(佐藤愛子著、文藝春秋刊)では、佐藤氏がどのようにできあがったのかを初の“語りおろし”で紹介している。

では、佐藤氏はどんな言葉に影響を受けてきたのか。第一章の「私をつくった言葉」から2つ取り上げさせていただく。

■「どうしてもせんならんということが、世の中にはおますのやで」(P16より)

佐藤氏は、作家である父・佐藤紅緑氏が50歳のときの子供。だからか、とても可愛がられて育てられ、「嫌なことはしなくていい」と何でも許されていたそうだ。

そして、小学校に入った佐藤氏は、あれは嫌だ、これは嫌だと、登校拒否のような状況になってしまう。もちろん、父親は佐藤氏に対して強くは言えない。そこで彼女を叱ったのが、育ての親である乳母だった。

「なんぼお嬢ちゃんやかて、大きゅうなったらどうしてもせんならんということが、世の中にはおますのやで」はその乳母に言われた言葉である。大人になったら、どうしてもしなくてはいけない。この一言に納得した佐藤氏は小学校に通うようになったという。

佐藤氏はこの言葉について「人生で最初に与えられた教訓だったんじゃないかと思います」と回想している。

■「女に小説は書けないよ。女はいつも自分を正しいと思っている。そしてその正しさはいつも感情から出ている。だからダメなんだ」(P32より)

佐藤氏が小説を書き始めた頃は、新人賞というものもなく、持ち込みが主体だった。しかし、そう簡単には掲載されない。そこで、新人作家たちの間では、自分たちで雑誌を作ってお互い切磋琢磨する文藝誌を作ることが流行していた。

『文藝首都』といった同人雑誌に参加していた佐藤氏は、『平世界』という同人誌の創刊号に載せた小説がきっかけで吉田一穂という難解な詩を書く詩人と出会う。吉田の書く詩は難しくてよくわからなかったが、「女に小説は書けないよ。女はいつも自分を正しいと思っている。そしてその正しさはいつも感情から出ている。だからダメなんだ」といった一言は身に沁みたそうだ。

作家としての性根が入ったのは、この一言を発した吉田氏のおかげだという。

 ◇

強く生きてきた佐藤氏も、一人で生きてきたわけではない。多くの人の言葉から学び、気付いて、成長してきた。

「人生にムダというものは何もないですよ。ムダのようで心にとまったことは、いつか自分の血の中に入ってくるんです」(P7より引用)

これは佐藤氏が「はじめに」で述べていること。きっと本書に書かれた佐藤氏の言葉の中から、心にとまるものがあるはずだ。

(新刊JP編集部)

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