習い事、やめる? ――就学を控え、自由とやめグセのあいだで

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2017年02月10日 09:33  MAMApicks

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「入り口でストライキ。結局見学」

ある日の土曜日、いつものように水泳教室に長男を送っていった夫から短いLINEが入る。

「あー、またか……」

このストライキ、実は初めてではない。
今年度の後半から顕著なのだ。


共働き家庭で夜も遅いので、子どもになにかを習わせるとすると、必然的に土日が埋まる。土曜の英語と日曜のダンスは本人が乗り気で行っているのだが、土曜の英語の前にスケジューリングされているプールがどうにも難関だ。

はじめは時間の早いクラスだったが、保育園のクラスメートたちと同じ時間がよかろうと思い、時間変更届を出した。それが受理されて数ヵ月後、年齢で区切っているクラスなので6歳の誕生日とともに進級したのだった。この、幼児クラスから学童クラスへの切り替えが彼にとって大きな負担となっていたようだ。

これまでは「できたねスタンプ」をたくさん集めると上のクラスにあがれていたところ、今後は数字で級が分けられ、月に一度検定が行われる。これが、なかなか受からない。そして保育園の同級生たちはどんどん進級して行く。
(あたりまえなのだ、長男の入会はダントツで遅かったのだから)

なにがいや?と聞くと、「プールが深い」だの「水遊びの時間が少ない」だの言い訳をする彼だが、コアな理由は“自分だけ置いていかれた気分”なのだろう。

■よみがえる“体育会系コンプレックス”
このところ夫にばかり任せていたプールの送りを、私が行くならプールにいってもいい、と長男が言ったので、その日は同伴した。

当日、午前中には保育園の大きな行事があり、終わったあと家族で食事をし、そのままプールに向かった。

「とりあえず、水に入るところまではやろう。」
「うん、そうだね!」

……ここまではよかったのだ。

私はプールを見下ろせる位置で同級生のママたちと謝恩会の打ち合わせなどしていた。その中のひとりが気づく。

「ねえ、なんか泳いでなくない?」

よくみると、プールサイドに腰掛けて泳がずにいる長男が見えた。

≪ああ、歯が抜けそうなのが気になってそれどころじゃなくなったな……?≫

極端なまでにシングルタスクな長男である。
今は「歯がぐらぐらして気になる」のプログラムが走っており、ほかの作業を全部止めている状態だ。

そこまではいつものこと、と思ってみていたが、突然コーチが長男に近づき、ガッとつかんで揺すった。

「もしかして、コーチに怒られてない?」

そうだね、と返事をし、しばらく様子を見ていた。ふてくされた長男はビート板を蹴飛ばし、それをコーチに見つかって連行されてきた。

「お母さんですか? ちょっとよろしいですか?」

ここのプール教室はコーチ面談等がなく、実はこの日が初対面であった。コーチが言うには、泳ぐ意志がなく、プールサイドに座って友だちに水をかけていたと。なるほど。何もしないならともかく、邪魔をしていたということか。

「普段はこんなことないんですけど、なにかありましたか?」

ときかれたので、思いつくだけのことは告げた。今日は午前中に一仕事終えてきたこと、そもそも進級してからモチベーションが下がっていること、今日は歯が気になっていること。

理由を考えているあいだ、ひとつだけ気になっていたことがある。「私が叱ってやりましたよ!」という態度に見えるコーチのことだった。たとえるなら、“熱血指導”というフレーズがしっくり来るような……。

≪熱血かあ。一番苦手な言葉だったな。体育会系のノリで来られると、ドン引きするんだよな……≫

筆者の中の“リトル筆者”が顔を出す。
推定年齢13歳の“リトル筆者”は私にこういった。

≪こんなところ、やめちまえよ!≫

現実に戻ると、目の前にいる、ずぶぬれで怒りをこらえて無表情になっているコーチが、

「あまり厳しくしないほうがいいですかねえ!」

と声を荒げた。

私は淡々と「そうだと思いますよ」といい、頭を下げてその場を後にした。

■“ドロップアウト先輩”からひとつだけ言いたかったこと
息子を水泳選手にする気はさらさらないし、本人にモチベーションがないならやめていいのではないかと思っている。毎月6,000円ほどの月謝も浮く。

しかし、通いはじめて1年ちょっと。今ここでやめてしまっていいのだろうか? ひとつ辞めたら、なにも続かない子になったりしないだろうか。

「今日、ダンス行かない」。

心配する私の予想は、早くも翌日当たってしまった。

長男と少し話をすることにした。

「私はいやなことがあるとすぐ逃げちゃって、幼稚園や学校を何度も長くお休みしたし、学校やめちゃったりした。結果として今は会社でいい立場につくことができないし、仕事はできたとしても、もらえるお金は少ない。やめるくせがついてしまうと、人生で選べる範囲が狭くなってしまう」

そんな話をしているうちに、なぜだか私は泣いていた。それを見ていた長男もまた泣くのだ。

二人とも泣くのが落ち着いたころ、長男はポツリと話しはじめる。

「忙しすぎるんだよね。児童センターいけないし」

プールは進級に伴い、1時間後ろだおしになっていた。すると、次の習い事の時間がギリギリになり、したくが遅い長男はずっと追い立てられながら移動することになった。

習い事をする前は毎週土曜、近くの児童センターに通っていたが、タイムトライアルのような生活になり、児童センターで遊ぶ時間が取れなくなっていた。

なんてことはない普通の児童館なのだが、心のオアシスになっていたのだろうか。


……ふと、幼少期の自分を思い出すのだった。

1週間は7日なのに習い事が9つあり、ダブルヘッダーの日は移動の車中で仮眠をとっていた。なにも用事がなく遊んでいる近所の子にうらやましさも感じた。

そのうちバレエと英語の2つを残して、小学校高学年までにほかの習い事をやめるのだが、向いているものに集中させるのは悪くない。

きびしい習い事が10年続いても、ちょっとしたきっかけで学校を中退することだってあるだろう。ただ、習い事はやめても困らないが、学校は途中でやめるとあとが大変なことが多い。そのことは事前に知っておくと、なにか違うのだとは思う。筆者はそれを、学校を辞めたあとになって知ったのだから。

■園での異変→そして休会へ
「お母さん、ちょっとよろしいですか?」

お迎えのとき、長男の担任に呼び止められた。

このところ友だちへの態度がきつく、気になるレベルなのだという。家で変化はなかったか?ときかれ、しいていえば……と、プールでの話を伝えた。

「園でも年度の後半は毎週イベントが続いてしまうし、合唱のときも、お歌じょうずだもんね、ってプレッシャーかけすぎちゃったかな?っていう思いもあるんですけど、おうちでも、習い事減らすとか、ちょっとゆったりめに過ごしていただけたらなって思うんです」

ごもっともですね!と思いながら帰宅したのだが、「園が忙しいから習い事減らして欲しい」ってそれ先生のロジックとして正しいか?というのが気になってしまった。

だいたい幼保小交流事業が年度の後半に多すぎるのが問題なのであって、4月から分散させればよくない……?

ひとりで怒っていたら、長男が「そうだそうだ!」と声を上げ、家の中でちょっとしたデモが行われた。次男は録画の“ワンワン”に夢中で、夫はひたすら対応に困りながら、夕飯の餃子を焼いていた。

いい機会だから、習い事について今後どうするか、もう一度長男と話すことにした。英語もダンスも続けたい、しかしプールに関しては首をかしげる長男にこう提案した。

「別の、もっときびしくないプールに変えて、時間も朝早くにして、児童センターにもいける時間を作ったらどう?」

少し考えて、彼はニヤリと笑う。

「……いいねえ」

筆者が見つけたそれは、区の団体が主宰している教室で、隔週かつ4月から半期だけの開催だが、“おぼれない程度に泳げればいい”というニーズにマッチし、曜日も時間も金額も希望通りである。抽選に当たれば、の話だが……。

「そもそもさ、冬にプールとか意味わかんないし!寒いし!」

……調べた先の教室は、長男の希望とも一致するようである。

人の気持ちは変わるし、もしまた行きたくなったときに困らないように、辞めるのではなくお休みにしよう、と話をした。

「このまま顔も見せないでお休みするのはずるずるしちゃうから、どうどうと『お休みします!』って言いにいこうな?」

私は長男と二人、休会手続きに行った。期間は本人が3ヵ月と決めた。

珍しく二人きりで出かけたので、そのままご飯を食べに行った。長男は、もうプールに行かなくてよくなった開放感と、弟が生まれて以来、久しぶりの“母親とのデート”でニコニコしていた。

……これでよかったのだろう。


帰宅すると、まもなく2歳になる次男がすり寄ってくる。すると、うつぶせになった次男が「ばたばた〜」と言いながらバタ足をするではないか。しかも、息継ぎのように私のほうをちらちらと見て、ドヤ顔しながら……。

たまにしか喋らないが、日本語の大半は理解している次男である。家で起きている出来事を察知し、“ぼくならできる!”とアピールしているのだろう。次男の泳力が長男を上回る日は、そう遠くないのかもしれない。

ワシノ ミカ
1976年東京生まれ、都立北園高校出身。19歳の時にインディーズブランドを立ち上げ、以降フリーのデザイナーに。並行してWEBデザイナーとしてテレビ局等に勤務、2010年に長男を出産後は電子書籍サイトのデザイン業務を経て現在はWEBディレクター職。

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