飛行機での出張はVR導入でどれだけ快適になる?

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2017年02月13日 13:03  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<機内食メニューや搭乗手続きを事前に疑似体験、空港ラウンジでくつろぎながらフライト情報入手、機上でネットフリックス鑑賞や資料作成......。バーチャルリアリティがビジネスパーソンの旅行を変える>


1991年のインターネットの登場は、旅行業界にとっても画期的な出来事だった。では、その次は何が来るのか。2016年にはバーチャルリアリティ(VR=仮想現実)装置が市場に出回るようになった。旅行業界は再び大きな変化に直面するのか。とくに、ビジネスパーソンの出張はどのように進化するのだろう?


オンライン旅行予約サイト、エクスペディアの最近の調査によると、イギリスのミレニアル世代(1980年代から2000年ごろまでに生まれた世代)のうち約42%が、SNSにアップされた写真をもとに旅行先を決めている。


この結果からわかることはいくつかあるが、もっとも明白なのは、より真実に近い共感できる体験を求める人が増えているという事実だ。旅をしようと思ったときに、まるでレンガのように分厚い旅行パンフレットをめくらなければならない時代は終わりを告げたのだろう。


21世紀の旅行パンフレットはVRに置き換えられていくに違いない。今や人々の旅心を刺激するのは、旅行パンフレットに載っている数カ月(あるいは数年前)の写真ではなく、リアルタイムに近い画像や映像だ。それらはたいてい、SNSをはじめ、ネット上にある。こうした傾向に旅行業界が反応しないわけがない。


2016年の初めにユナイテッド航空は、ある制作スタジオと連携して3Dバーチャルツアーのシステムを作り上げた。同社が刷新したビジネスクラスでの旅を体験できるもので、オキュラスリフト(米オキュラス社が開発したVR専用のヘッドマウンドディスプレイ)を使って楽しめる。同社はこのシステムを用いて、見込み客に空港のゲートを通過してからの空の旅を、きわめてリアルに疑似体験させることができる。


この3Dバーチャルツアーで顧客は、自分が選んだ席、機内食のメニュー、搭乗ゲートの手続き、そして空港の雰囲気などがどういうものなのかを体験できる。旅行会社はVRをプロモーションに欠かせない効果的なツールとして位置づけることが可能だ。


エクペディア・ワールドワイドの上席副社長で販売部門を統括するゲイリー・モリソンは、「テクノロジーは人々の旅心と探求心を今後いっそう喚起していくだろう」と述べている。


VRがどんなものかを知るのに高額を支払う必要はない。15ドルほどの「グーグル・カードボード」のような簡易式VRゴーグル(ダンボールとレンズだけで構成され、自分で組み立てることもできるVRビューアー)で十分だ。初めて体験する人は、それだけでも驚異的な没入感を味わえる。


【参考記事】リアルなVRの時代がついに到来


残念ながら一般消費者向けの販売は中止になったが、グーグル・グラスは現実を拡張するデバイス技術の方向づけをしてくれた。おかげで我々はVRに関して、共通のイメージを持ちながら話ができるし、仕事や娯楽に役立てられる。


同一規格で誰もが同じように使え、(誰も子どもじみたものと思わない)ユニバーサルなVRデバイスが登場する可能性は、今はまだ高くないかもしれない。それでも今あるVR装置で十分にビジネスでの顧客体験をより良いものにできる。


カンタス航空は業界初の機内VRサービスを試験導入


想像してみてほしい。あなたはビジネスクラスの空港ラウンジでリラックスしながらVRヘッドセット(オキュラスリフトのようなVRデバイス)を装着している。すると、そこから一歩も動くことなく、フライト時刻の変更や搭乗案内などの情報、メールなどを受け取ることができる。しかも好きなテレビ番組を観ながら。


変更になったフライト時刻を確かめるために、掲示ボードの前まで走る必要はない。イスとVRヘッドセットさえあれば、必要な情報を受け取りそびれることなく、フライトまでゆったりと過ごせるのだ。旅行情報サイト「ツヌーズ(Tnooz)」の編集デスク、ケビン・メイは「現代の旅行者はモバイル機器で得られる無駄のない経験を求めている」と語っている。


出張族のビジネスパーソンにとっては、「連絡が途切れない」ことが肝要だ。VRを使えば、出張でたびたび会社を留守にする人でも、電話会議やビデオチャットで、どこにいようと同僚や上司とつながることができる。VRで会議を開くことだって可能だ。


2015年、カンタス航空は業界初の機内VRサービスを試験的に導入した。乗客はサムスン製のVRヘッドセット「Gear VR」を装着することで、3Dの映画を鑑賞したり、目的地の観光スポットのバーチャルツアーに参加できた。3カ月限定のこのサービスを利用した乗客たちは、近未来にどんなことが実現されうるのか、そのさわりだけでも感じられたのではないだろうか。


飛行機での出張が多いビジネスパーソンならわかると思うが、機内での行動は、仕事の遅れを取り戻すか、くつろぐかのどちらかだ。主にくつろぐ方を選択した場合、前席の背もたれの裏側についているビデオスクリーンを眺めるのが一般的だ。


近未来には、VRデバイスがそんな旧式の娯楽にとって代わるだろう。個々のデバイスが、各々のパーソナルなビデオコレクションにつながり、好きなコンテンツを楽しめる。ネットフリックスのような定額制動画配信サービスを利用すれば、普段から楽しみにしている連続番組の続きを観ることも可能だ。


こうしたサービスの実現可能性と品質の保証は、航空機メーカーがどれだけ高速で接続品質のよいWi-Fi回線を民間航空機に組み込めるかにかかっている。


パワーポイントでプレゼン資料を作成したい場合は? あるいはどうしても会議に参加しなくてはならないときはどうするか。もうまもなく、VRは仮想空間を提供できるようになるはずだ。そこでは、ゲームで使われているようなアバター(分身)同士が会話している。


これは「AltSpaceVR」というスタートアップが開発中のものだ。いずれ我々は3D空間にオフィスの自分の机を、現実そのままのかたちで持つようになるかもしれない。


VRが出張ビジネスパーソンの役に立つ例は他にもある。たとえば、高級レンタカーでの活用。レンタカーを借りるとき、通常はウェブ上の静止画像や、当日に実際に見て車種を選ぶ。VRを使えば、レンタカー会社が所有する全車種を「物理的に」試乗できる。車内のスペースはどうか。乗り心地は? 空港のビジネスラウンジでVRゴーグルを装着するだけで、仮想店舗でどんな車も選び放題だ。


イギリスの自動車会社の雄、ジャガー・ランドローバーは自動車のデザインと販売にVRを活用している。見込み客に新車をVRで体験させ、内装のデザインをいくつかの選択肢から選ばせているのだ。同社は、VRについて「信じられないほど販売促進に効果を上げている」と高く評価している。


出張は、自動車に続く新しいテクノロジー活用の場となるかもしれない。


【参考記事】バーチャル・ポルノがリアルな市場に:2025年の推計値は10億ドル


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※当記事は「Dialogue Q1 2017」からの転載記事です




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2005年創業。厳選した書籍のハイライトを3000字にまとめて配信する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を提供。国内の書籍だけではなく、エグゼクティブ向け教育機関で世界一と評されるDuke Corporate Educationが発行するビジネス誌『Dialogue Review』や、まだ日本で出版されていない欧米・アジアなどの海外で話題の書籍もいち早く日本語のダイジェストにして配信。上場企業の経営層・管理職を中心に約6万人のビジネスパーソンが利用中。 http://www.joho-kojo.com/top





トニー・ドノホー(エクスペディア社CTO) ※編集・企画:情報工場


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