自宅の被害状況も健康に関与
東日本大震災からまもなく6年。被災地では今も、さまざまな復興事業が展開されています。東北大学と岩手医科大学が主体となった「東北メディカル・メガバンク計画」もそのひとつ。被災者の健康状態を把握し、個別化予防・医療の実現を目的としたもので、2013年から長期健康調査を実施しています。
今回は、2013〜2015年度に宮城県内および岩手県内で特定健診を受けた男女63,002人分(平均年齢60.8歳)の調査結果を分析。調査方法は、採血・採尿とともに、調査票による質問に回答してもらう形で、宮城県37,175人、岩手県25,827人が分析対象となりました。
分析の結果、男性のメタボリック症候群のリスクについて、自宅が被害を受けていない人と比べ、自宅が全壊した人で1.29倍、大規模半壊した人は1.26倍と高く、自宅の被害状況が関連していることがわかりました。また、喫煙(1日20本以上)や飲酒もリスクの上昇に関わっており、特に女性は喫煙で1.98倍、飲酒で1.67倍高くなっています。
4人に1人が「抑うつ症状」あり
心の健康については、抑うつ症状がある人が26.4%と最も多く、次いで、不眠23.0%、心理的苦痛6.0%、PTSR(心的外傷後ストレス反応)2.7%の順でした。注目したいのが居住地による違いで、内陸部よりも甚大な津波被害を受けた沿岸部の方が、心理的苦痛、抑うつ症状、不眠、PTSRの全てで割合が高いことが判明しました。
最も高かったのが、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症につながるPTSRで1.57倍。不眠1.15倍、抑うつ症状1.14倍、心理的苦痛1.08倍となっており、大津波や長期化した避難生活による精神的ショックが、いかに大きかったかがうかがえます。抑うつ状態のハイリスク者や、PTSRのため日常生活に支障をきたすと答えた住民には、必要に応じてカウンセリングを実施し、医療機関への受診を勧めたり、情報提供をしたりする支援活動も行なっており、昨年末までに1,380人が支援を受けています。
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特定健診会場での調査のほか、宮城県内7か所の地域支援センターと、岩手県内4か所に設けたサテライトまたは矢巾センターへ地域住民が来所する形での調査も進めており、今後はこちらの傾向も分析する予定。一部の情報は公開データーベースとして研究に役立ててもらうとともに、住民たちの追跡調査も実施し、健康状態の推移を把握していきます。(菊地 香織)
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