<12日の新型ミサイル発射実験の成功に続いて、北朝鮮の金正恩が放った矢は、異母兄弟の金正男の暗殺だった。国内向けには独裁体制の強化、そして対外的には国連の安保理での非難決議など意に介さぬ姿勢をアピールした>
北朝鮮の金正恩の異母兄弟である金正男がマレーシアで暗殺された、という報道は14日夜、瞬く間に世界中を駆け巡った。
韓国メディアで単独スクープとしてこの事件を伝えたのはTV朝鮮だった。
TV朝鮮の速報 TVCHOSUN 뉴스 / YouTube
それによれば、「金正男がマレーシアで北朝鮮のスパイに毒殺されたものと見られる」と複数の政府関係者が明らかにした。金正男は、昨日の午前9時マレーシアのクアラルンプール空港の出入国審査近くにあるショッピングエリアで倒れ、空港から病院に緊急搬送の途中に死亡した。2人組の女たちに毒針で殺害されたと見られ、この容疑者の女たちは犯行直後タクシーに乗り逃走した。
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現地のオンラインメディア、スターによると、セランゴール州の犯罪調査局副局長が事件について明らかにした。
「金正男が現地時間で13日午前9時頃、クアラルンプール国際空港で1時間後の午前10時マカオ行き便に搭乗しようとして待っているときに事件にあった。金正男は、出発待ちデスクのスタッフに、『誰かが後ろから押さえつけ、顔に液体を書けた』と言いながら助けを求めてきた。すぐに空港内診療所に移送された」
「金正男は、頭痛を訴えて気絶しかけており、診療所に搬送されたときには軽い発作も見られた。担架に乗せられてプトラジャヤ病院に運ばれた時に死亡宣告を受けた」
「北朝鮮大使館から遺体を引き取るという要請も受けたが、しかし、我々は遺体を引き渡す前に検視のため解剖する計画だ。15日には検視が行われる」
「現在、警察は空港内の防犯カメラの映像を入手して、金正男に接近した朝鮮人と見られる女性を見つけた。鮮明な顔を得るために映像を分析している」
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空港にいた金正男は「キム・チョル」という名前の1970年10月生まれのパスポートを持っていたという。
金正男は、北朝鮮の金正日の長男でかつては後継者と目されたこともある人物だ。金正日と成恵琳の間に1971年に生まれた。1980年、スイスのジュネーブに留学し、80年代後半ジュネーブ大学で政治外交学を専攻。ここで開放的思考を身につけたとみられる。90年代、北朝鮮に帰ってきた後には後継者としての教育も受けたと伝えられた。
しかし、開放的な考えを持ったことや、実母・成恵琳が金正日と正式に結婚していない関係だったことも障害物になった。さらに、2001年5月には息子と2人の女性と一緒に偽造パスポートで日本に不法入国しようとして強制送還された事件を起こして、金正日に見放されたという噂が出回った。
異母弟である正恩が後継者となって以降は、北朝鮮には戻らずにアジアを中心に海外を転々としていた。最近では内縁の妻がいると知られているマレーシアとシンガポールを行き来しながら過ごしていることが知られている。
なぜ今、暗殺されたのか?
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独裁体制を強固なものにした金正恩が、なぜ海外に長く逗留し、北朝鮮とはまったく関わらなくなった金正男を今、暗殺したのか?
韓国メディア京郷新聞によると、金正男の暗殺はこれまでにも何度も計画されたが失敗していたという。実際に金正恩が権力の座に上がった直後の2010年、金正男は北京で北朝鮮の工作員により暗殺されそうになったという事件があった。また2012年病気療養のためシンガポールを訪問した叔母の金敬姫から「北朝鮮による暗殺工作の可能性がありますので、注意してください」という警告を受けたとも伝えられている。
ここまで、金正恩が敵視するのは「血統コンプレックス」が大きく作用したようだ。正恩の母である高英姫は元在日朝鮮人帰国者で、金正日の3番目の妻である。一方、金正男は、金正日の長男で、父と祖父の金日成から目をかけられて育った正統の血統なのだ。北朝鮮情勢の専門家は「血統を重視する北朝鮮内部の権力機構の中では劣等感を持った金正恩が成長の過程で異母兄弟に反感と恐れを持つようになったのは当然だ。最高権力者の座を交換することができる唯一の正統の血統をもつ男が、自分の手の外で活動しているということ自体が、金正恩には大きな脅威だ」と分析する。
金正男の死は悪化している北朝鮮と中国の関係とも無関係ではないという指摘も出ている。金正恩が最高指導者になってから5年が過ぎたが、まだ中国との首脳会談は行われていない。ミサイル発射実験などに対して近年国連の制裁措置に追随するようになった中国との関係は悪化する一方だ。金正恩は、中国が金正男を掲げ、いわゆる「傀儡政権」を樹立する可能性を最も恐れている。比較的オープンで柔軟な思考を持ち、親中派とされる金正男は、中国が金正恩を見限る際に利用する"カード"として一番可能性が高い存在だったからだ。
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部
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