シボレー・カマロが帰ってきた!

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2017年02月15日 11:03  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<一時は生産中止になった往年の人気車種カマロが映画とソーシャルメディアで大復活。永遠のライバル、マスタングとの競争は続く>


シボレー・カマロは、火山の中で生まれた車だ。半世紀前に初めて放映されたテレビCMで、このパワフルでゴツい車は、激しく噴火し炎と溶岩流を吐き出す火山の火口から姿を現した。


アメリカの消費者を最初にとりこにしてから50年。カマロは人々に熱烈に愛された後、一時はすっかり寵愛を失ったが、今はソーシャルメディアの「人気者」になっている。


現在、テレビCMは放映していない。製造元であるゼネラル・モーターズ(GM)のシボレー部門は、主にソーシャルメディアでこの車のマーケティングを展開している。13年、カマロのフェイスブックページは、ユーザーとの絆の強さを表す指標において、すべての自動車ブランドのなかで最高を記録した。


ソーシャルニュースサイトの「レディット」上にカマロをテーマにしたオンラインフォーラムがどれだけあるかをグーグルで検索すると、なんと63万3000件もヒットする。


15年には、自撮り好きのスーパーモデル、ケンダル・ジェンナーが1969年型カマロSSコンバーチブルの運転席からホームレス男性にサンドイッチを手渡している(とされる)動画が話題になった。YouTubeにアップされたこの動画の視聴回数は85万回以上に上る。


カマロの50年の歴史は、フォードのマスタングとのライバル関係の歴史だった。そもそもマスタングがなければ、カマロが火山の火口で産声を上げることもなかっただろう。


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運命を一変させた映画


1964年、フォードはニューヨーク万国博覧会で手頃な価格のクーペを発表した。それがマスタングである。この名前は、第二次大戦時に活躍した戦闘機にちなんだものだ。この年、映画「007」シリーズの新作『007ゴールドフィンガー』に登場したことで人気が沸騰。発売初年度の売り上げは42万台近くに達した。


マスタングの成功を目の当たりにして、GMも後に続いた。幹部のピート・エスティーズが主導して、デトロイトのシボレーのデザインスタジオで極秘の開発プロジェクトが進められた。


66年6月、ついにカマロがお披露目された。エスティーズは1955年の仏英辞典を引用し、カマロとは古いフランス語で「よき友人」という意味だと説明した。オーナーのよき友人になれる車、というわけだ。


これに対してフォードは、カマロとは「エビのような生き物」という意味の言葉だと主張。その後、スペイン語では「下し気味のおなか」という意味だとの指摘もされた。エスティーズも言われっ放しではなかった。カマロは「マスタングを食べる邪悪な小動物」だと反論した。


カマロとマスタングのライバル関係は今も続いている。自動車専門誌カー・アンド・ドライバーは今日でも、自動車の性能レポートで両者を比較している。昨年9月には、このタイプの車種の売り上げランキングでカマロがほぼ2年ぶりにマスタングを引きずり降ろしてトップに立ったが、11月にはマスタングが首位を奪還している。


カマロは半世紀の間にどん底も経験した。デビュー年の売り上げはマスタングの半分に届かなかったが、売り上げ競争よりもっと大きな名誉を手にした。同年の自動車レース、インディ500のペースカーに選ばれたのだ。77年には、初めて売り上げでマスタングを抜いた。


しかし、80年代後半になると徐々に人気に陰りが見え始める。92年にはカリフォルニア州バンナイズの工場が閉鎖され、カナダに生産が移された。売り上げ低迷はその後も続き、02年にはついに生産が打ち切られる。


それでも、カマロは帰ってきた。カムバックのきっかけになったのは、07年のSFアクション映画『トランスフォーマー』だった。巨大ロボットが自動車に変身して戦う映画だ。


監督のマイケル・ベイはシボレーのデザインチームと協力して、黄色いカマロをベースにしたロボット「バンブルビー」を生み出した(バンブルビーの宿敵は、マスタングをベースにした自動車に変身する「悪の警官」ロボットだ)。


映画を機に、それまで超低価格で売買されていた中古の74年型カマロの価格が一挙に跳ね上がった。この人気を背景に、08年第4四半期、第5世代カマロの生産が開始された。


復活した最初の年、早速売り上げでムスタングを上回った。非営利団体の全米保険犯罪局(NICB)の統計によれば、第5世代カマロは09〜12年に最もよく盗まれた「スポーティー」な自動車だ。


生産拠点もアメリカに戻ってきた。カナダでの生産は15年に終了し、現在はミシガン州ランシングにあるグランドリバー工場で組み立てられている。


ただし、この工場は最近800人をレイオフした。幹部たちは季節的な売り上げ減を理由として挙げるが、エンジニア部門責任者のアル・オッペンハイザーによれば、大統領選の影響もあるという。「経済の先行きに不安を感じているとき、人は高性能車のような新しいオモチャの買い物を控える傾向がある」


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50年後も打倒マスタング


新しいカマロには、007映画も顔負けの機能や装備が満載されている。「ティーンドライバー・モード」は、親が子供の運転時のスピードとオーディオスピーカーの音量をコントロールできるようにする機能だ。


運転記録を残して後で再生する機能を備えたモデルも登場している。「高級レストランの玄関前でキーを預けた際、係員が車を駐車スペースに移動させるときに乱暴な運転をすることを防げる」と、オッペンハイザーは説明する。


近くショールームに登場する新モデルの名前は、「クリプトン」。クリプトンといえば、スーパーマンの力を奪う謎の鉱物の産地だ。なぜ、新モデルにこの名前を付けたのか。


オッペンハイザーは、50年前のエスティーズさながらにライバル意識をむき出しにして言った。「マスタングのパワーを奪う車だからだよ」



[2017.2.14号掲載]


ゴゴ・リッズ


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