フリン補佐官失脚が意味する、トランプ政権の抱える脆さ - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2017年02月16日 15:13  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<フリン辞任の背景には様々な憶測が流れているが、米メディアはこれをきっかけにトランプ政権の「ロシア・スキャンダル」を本格的に追及する構えだ>


トランプ政権のマイケル・フリン安全保障補佐官が週明けに辞任したニュースには、衝撃が走りました。基本的には補佐官に就任する前の昨年12月にロシア大使に電話して経済制裁の解除問題について相談したという疑惑、そしてこの件に関してペンス副大統領にウソをついたのが理由だとされています。


ですがこの辞任劇、いろいろとよく分からない点があります。1つの問題は、これは政争なのかという疑問です。フリン氏の背後には、草の根のトランプ支持者がいる一方で、今回の失脚劇には、CIAやFBI、さらには民主・共和両党の「上院情報委員会」の存在がチラついているという見方があります。


さらに言えば、フリン氏が失脚する数時間前になっても「大統領はフリン氏に全幅の信頼を寄せている」と話していたコンウェイ大統領顧問など、トランプ周辺のグループの権力が低下し、その代わりにペンス副大統領を筆頭にした共和党本流が前面に出てきたという解説もあります。


【参考記事】「ロシアが禁止ミサイル配備」にも無抵抗、トランプ政権の体たらく


そんな中で、コンウェイ大統領顧問に関してはテレビの中継で「視聴者に向かってイバンカ・ブランドの商品を買うように」と訴えた「事件」について、同顧問を「処分する」ように迫る動きが出て来ているほか、また労働長官の候補だったバズダー氏を「守りきる」ことができず同氏が「辞退」に追い込まれるなど、大統領の周囲に求心力の低下が見られることも事実です。


では、これが「大統領周辺の草の根支持層派」対「共和党本流」の真剣な政争であり、それこそ「トランプ辞任」で「ペンス安定保守政権へ」という流れの始まりなのかというと、そこまでの動きにはなっていないようです。ただし、注意して見ておくに越したことはありません。


2つ目の疑問は、なぜ「このタイミング」なのかという問題です。一つには北朝鮮がミサイルを発射したことなどで国際情勢が緊迫してきたため、CIAを中心とするアメリカの「インテリジェント・コミュニティ」が「このままではアメリカの情報管理が危険にさらされる」という危機感を持ったという説があります。


一方で、保守派の間で囁かれているのは、CIAやFBIの中に残る「親オバマ派」が新体制の中で自分たちの勢力を維持するために、具体的には人事を有利に運ぶためにこのタイミングで「アンチ・トランプ」に動いたというストーリーです。


3つ目の疑問は、外交はどうなるのか、具体的には対ロシア政策はどうなるのかという問題です。今回のフリン失脚劇と並行して、ロシアの情報収集艦船がコネチカット州の沖に出没していることが問題視されるなど、対ロシア外交に関してかなり雰囲気が変わって来ているのは事実のようです。


例えばトランプ大統領は、今週15日に「ロシアはクリミアを奪った」という反ロシア的なツイートをしていますし、ここへ来て「ロシアとの関係改善政策」という姿勢から豹変しつつあるのかもしれません。


その一方で、15日には国防総省筋から「シリア領内におけるISIS掃討作戦にアメリカは地上軍を派遣する用意がある」というニュースが流れたりもしています。仮にそうだとすると、選挙戦の当時からトランプ氏の主張していた「シリアはアサド政権とロシアに任せる」という方針が崩れ始めているのかもしれません。


【参考記事】トランプの「迷言女王」コンウェイ、イバンカの服宣伝で叱られる


このように今回のフリン補佐官辞任劇は、さまざまな憶測を呼ぶものではあるものの、現時点では今後の方向性はまだ見えてきていません。そんな中、CNNやNBCなどリベラル寄りのメディアは、一斉に政権追及の動きを強めています。


一つのターゲットはフリン氏に関して、具体的な法令違反があったのかどうか、そして、仮にそうだとして司法省が強制捜査に踏み切るかどうかという問題です。また、その次の段階としては、フリン氏だけでなく、選挙戦を通じてトランプ陣営が「組織ぐるみでロシアと癒着していた」可能性を追及する構えです。


こうしたメディアの追及が、どこまで「効いてくる」かも現時点では分かりません。ただ、ここへ来てトランプ大統領自身が「フリン氏は(FBIやCIAなどの)違法なメディアへのリークによって辞任に追い込まれた」と発言するなど、大統領自身が「ダメージコントロール」について、ブレーンと緻密なすり合わせを「していない」気配も濃厚に漂ってきています。


特に今回の「ロシア・スキャンダル」に関しては、政界もメディアも従来とは真剣度が違う中で「もう一つの真実」的な言い逃れはできない雰囲気が出てきています。そうなると、この政権が「守勢に回った際」には「意外な脆さ」を見せる可能性も感じられます。アメリカ政治は日替わりで局面が変化する流動的な情勢となってきました。



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