ジェームズ・マティスは、米国防長官として初めて参加したNATO(北大西洋条約機構)国防相理事会できっちり仕事をしてみせた。1日目には相手を安心させるような公式声明を出しながら、非公開の場でアメリカのNATOに対する「関与を弱める」可能性について警告するなど、揺さぶることも忘れなかった。年末までの防衛費支出の負担拡大を加盟国に求め、これに応じない場合はアメリカはNATOへの「関与を弱める」と警告した。
公式声明はなかなかの出来だった──実際、冷静にして実務的、また率直で、NATOの意義を理解するために欠かせない歴史的出来事にも言及している。マティスが、NATOに対する知識と親近感を持っているという安心感を持たせるには十分だろう。
ではこの「関与を弱める」という発言に隠された意図は何か。前後の文脈を通せば微妙だが、かなり明確な最後通牒だった。前任者のロバート・ゲーツは2013年にブリュッセルで行った有名なスピーチで、同盟国のさらなる貢献がなければ、NATOの未来は暗く憂鬱なものになると言った。
マティスはそこから一歩踏み込んでいる。要するにマティスが告げたのは、ゲーツが警鐘を鳴らした政治的に容認できない事態が、ここにきてドナルド・トランプという形をとってワシントンに降臨したということだ。
ルビコン川を渡った
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トランプ米大統領は、加盟国の防衛費をGDP(国内総生産)比2%にするよう求めている。達成しているのは加盟28カ国中でアメリカを含む5カ国だけだ。「応分の負担をせよ」と、マティスは言ったわけだ。もし年末までに達成できなかったらどうなるのか?
こうした越えてはならない一線(少なくとも越えないほうがいい一線)を設定すると、後に引くのは難しくなる。一部の加盟国ではGDP比2%の軍事費を達成できる見込みはゼロで、大きな伸びを期待できる国などあったとしてもごくわずかだ。その場合はどうなるか。アメリカは関与を弱めるのか。それはいったい何を意味するのか。1年以内に直面するその時から、うまく逃れることは許されないだろう。逃げれば、最低でも張り子の虎と評されることになる。
「関与」を弱めるのではなく「参加」を弱めるのだとマティスが言明していれば、まだ柔軟に対応できる余地はあった。NATOへの関与を弱めることは、加盟国に対する攻撃は全加盟国への攻撃とみなすというNATO条約第5条の集団防衛の弱体化につながる。トランプはともかく、マティスの意図するところではあるまい。アメリカの「参加」を弱めるのなら、アメリカの拠出分を減らすなど、第5条に影響しない別の道が開けたはずだ。
「公平な負担」の定義には、調整の余地があるかもしれない。時として重要なのは拠出する額ではなく、何に出すか、どれだけ進んでカネを出すかだ。いずれにせよ、私たちはルビコン川を渡った──NATOに対するアメリカの関与が争点になってしまったのだ。
マティスの警告は、同盟国に多くの自問を迫ることになる。脅されたと感じれば、マイナスの反応が出てくるかもしれない。脅してしつけるのは5歳児には通用するかもしれないが、主権国家の場合はそうもいかない。
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大半の同盟国がすぐには2%目標に届かないと判明した場合、トランプ政権が有言実行を迫られるのは明白だ。同盟国が期待に応じなかった場合はどうするのか、その落とし所をきちんと考えている人間がトランプ政権にはいるのだろうか。
From Foreign Policy Magazine
ジム・タウンゼンド
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