組織論の名著『失敗の本質』が、今再び脚光を浴びている理由とは?

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2017年02月18日 18:33  新刊JP

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『失敗の本質』(中央公論新社刊)
■政治家から大企業の経営者まで愛読する『失敗の本質』の魅力とは?



孫子の兵法や戦国武将の戦略観から、組織論やビジネス戦略を語る書籍は多い。

そのなかで、今再び脚光を浴びている本がある。
『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎著、中央公論新社刊)だ。

本書は、1984年にダイヤモンド社から刊行された単行本が中央公論新社によって文庫化されたものだ。その書籍が30年以上経った今、売れ筋ランキングに舞い戻ってきているのだ。

その理由のひとつには、小池百合子東京都知事の影響がある。
昨年、豊洲移転問題に絡む記者会見の場で、本書を「座右の書」として取り上げた。熾烈な駆け引きが行われる政界で、戦略的に事を運ぶ小池氏の愛読書を読んでみたい、と思った読者が多かったのだろう。

さらに近年では、サントリーホールディングス、ブラザー工業、三菱地所など、さまざまな大企業の経営者が愛読書に挙げていることでも知られている。

そんな本書は、第二次世界大戦(大東亜戦争)のノモンハン、ミッドウェー、ガダルカナル、インパール、レイテ、沖縄における日本軍の戦いを検証し、大敗を喫した「失敗の本質」を分析した一冊だ。

その内容が、ビジネスパーソンや政治家から絶賛されるには、相応の理由がある。

軍隊は組織論を語る上で恰好のモデルケースだ。秩序だった組織形態、上意下達のシステム、結果の明確さ。さらに言えば、本書は古典に比べて近代的な組織がモデルケースになっている点も、現代の戦略観にマッチしているのかもしれない。

■何が組織的な失敗を引き起こすか?



本書では、6つの戦いを検討し、日本軍の「失敗の本質」はどこにあったのかを分析している。

そのなかで、どの戦いにおいても「作戦目的に関する全軍的一致を確立することに失敗している」ということを挙げている。簡単に言えば、「作戦の主目的の認識がバラバラだった」ということだ。

これを現代のビジネスで考えてみると、次のようなものになるだろう。

経営陣が「次の商戦では、A社に打ち勝ち、前年比売上10%増を目指す!」という方針を掲げたとする。

この場合、トップの方針には「A社に打ち勝つ」と「前年比売上10%増」という二つの目的が含まれている。もちろん、「A社に打ち勝つこと」が、結果的に「前年比売上10%増」を達成させることになるかもしれない。

ところが、「A社に打ち勝つ」ための戦略と、「前年比10%増」のための戦略が必ずしも一致するとは限らない。

そうなると、現場は、どちらの方針を優先すべきか判断に迷うだろう。プロジェクトが大掛かりになるほど関わる部署も増える。すると、部署毎に違う方針を「優先事項」と認識して動き出す可能性がある。
これでは組織としてのまとまりに欠け、成果が得られないのは自明の理だ。

トップが方針を明確にしないと、現場は乱れる。経営者は「これで方針は十分に伝わっているはずだ」と油断せず、チームが同じ方向に進んでいるのかを、逐一確認していく必要があるだろう。

■戦いは「コミュニケーション」が成否を分ける

日本軍大敗の要因はさまざまにあった。兵力や火力の不足、補給線や情報網の脆弱さ、戦略デザインの不徹底――。そのなかで特に際立つのが、組織における「コミュニケーション」だろう。

たとえば、インドのインパールの戦いでは、大本営と戦線現地での間に、作戦の認識に大きな食い違いがある。その原因は、現地の一将校の無謀とも言える作戦立案を、同じく現地の人間が諌めることができなかったこと。「作戦変更の進言をしても無駄」という空気が蔓延したことなどが挙げられる。

現代に置き換えれば、本社の意向を曲解した現場責任者が、自分の考えを押し通して無理な戦略で行動に出て、ビジネスが破綻してしまうようなものだ。

トップがきちんと方針を伝え、現場はそれを齟齬なく受け取る――。
これは組織戦略の成否を分ける生命線だ。そこに食い違いがあると、上と下、またはチーム間で感情的な軋轢が生まれる。

組織は個々の人間の集まりだ。感情によって判断を誤ったり、戦略上必要な連携がとれなくなったりすることもある。
そんなとき、いかに適切なコミュニケーションが取れるかは、何よりも大切だ。

どれだけ戦略に必要なリソースが足りていても、それを扱い、動かすのは人間である。時代が変わっても、人間の失敗の本質は変わらない。本書からは、現代でも通用する普遍的な「本質」を学べるだろう。

(新刊JP編集部/大村佑介)

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