トランプはなぜメディアを敵視し、叩き続けるのか? - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2017年02月21日 16:03  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<まるで選挙期間中のようにラリーで演説を行うトランプ。そこにはメディアを「敵」に仕立ててトランプ劇場を続けざるを得ない事情が>


先週以降、トランプ政権の周辺は大荒れになっています。マイケル・フリン大統領補佐官(国家安全保障担当)が13日に辞任し、その後大統領自身が単独記者会見に臨んだものの、メディアとの確執がエスカレートするばかりの結果に終わりました。


先週末は「プレジデント・デイ」という国民の祝日で、多くの職場や学校は3連休になりました。そこで、というわけかどうかは分かりませんが、トランプ大統領はこの週末もフロリダ州の「マー・ラーゴ」リゾートで過ごしました。


この、週末ごとのフロリダ滞在は、移動の費用をはじめ、警備の費用もバカにならないようで、これまでの3回の合計が1000万ドル(約11億3000万円)という莫大な経費がかかっていることから大きな批判を浴びています。そんな中、今週は「大統領がゴルフをしたかどうかは秘密」というコメントがありました。ホワイトハウスとしては、何とか批判を沈静化したいようです。


安倍首相の訪米は、この「政権が一気に批判にさらされる」前に行われたことで、極めてラッキーであると共に、はるか昔のような感覚さえあります。


批判を沈静化したい政権側は、ここで奇抜な策に出ました。トランプ大統領は、まるで2015年〜16年のような「選挙戦」を再開したのです。


【参考記事】トランプ「メディアは国民の敵」、独裁につながる=マケイン議員ら


まず先週17日の金曜日、大統領はサウスカロライナ州のノースチャールストンにあるボーイング社の工場を訪れ、それこそ選挙戦のような演説を行いました。「自分はアメリカの雇用を最優先にすると約束して当選した。だから国内雇用を改善する。工場を海外に移転したら罰する」などと威勢よくブチ上げたのです。


また19日の日曜には、フロリダ州のメルボルンという大西洋岸の街に登場して演説会を開催しました。場所はオーランド=メルボルン空港という地方空港で、そこの格納庫を借り切って大勢の支持者を集め、その横の格納庫の大扉は開けておいて、そこに「エアフォースワン」を駐機させるという趣向でした。


昨年の選挙戦の時は「TRUMP」というロゴを派手にペイントしたボーイング757でしたが、大統領になって「専用機」にアップグレードしたというわけです。ですが、演説のスタイルは昨年と同様で、全くのアドリブ、しかも一方的にメディアを攻撃する「コア支持者だけ」を対象としたものでした。


中でも物議を醸したのは「スウェーデンで何かが起きた」という言い方で、まるでスウェーデンでテロ事件が発生したかのように思わせぶりなコメントをした部分です。これについては、スウェーデンの外交当局が抗議するなどの騒ぎとなり、ホワイトハウスは「北欧でイスラム系移民の流入増加によって様々な問題が起きている」という「FOXニュースの報道について言及しただけ」だと、火消しに躍起になっていました。


このように本人の発言に「フェイク」がかなり入っているのにも関わらず、演説の中では「多くのメディアはフェイク」であり「国民の敵」だというメディア攻撃を相変わらず繰り返しています。


この演説スタイルですが、何が目的なのか、実はよく分からないのです。なにしろ2020年に再選を目指す選挙戦を始めるには全くもって早すぎます。また2018年の中間選挙を目指すにしても、こんないい加減な演説を、しかも巨額の公費を使ってやられては、共和党の議員たちからすればいい迷惑だと思います。事実、共和党の議員団からは、大統領のメディアとの確執について厳しい批判が出ています。


昨年11月まで続いた選挙戦の期間中は、多少事実に反することや政敵への徹底した攻撃が入ったとしても、基本的に敵味方の「戦いの勢い」という枠組みから理解することができます。ですが、実際に合衆国大統領に就任した現在もなお、事実かどうか怪しい話を含めて、アドリブで面白おかしくメディアを叩くような演説を行うのは、一体何のためにやっているのか、という疑問が湧いてきます。


【参考記事】トランプのアメリカで反イスラム団体が急増


一つは、選挙戦の時と同じように「敵」を叩いてコアの支持層を熱狂させれば、その支持がジワジワと拡大していく、そのような効果を狙っているという可能性です。選挙戦の際には憎い敵としてオバマ&ヒラリーという具体的な存在がありました。その「敵」が消えた現在、大統領もコアの支持層も熱狂を続けるためには新たな敵が必要で、それがメディアだというわけです。


例えば、入国禁止となって困っているイスラム圏からの旅行客や強制送還措置で引き裂かれる不法移民の母子といった、公約の実現した光景を見て、心の底から「良かった」とか「もっとやってくれ」という感情を抱くほど、トランプのコア支持者は歪んではいないと思います。そのような不健康で嗜虐的な感性は、さすがに大統領自身にも支持層にもないと思います。


そうではなくて、あくまで「敵」を作ってそれを叩く、しかもその敵は「強ければ強いほどいい」という中で、今は、大手メディアを敵に回しているということなのでしょう。


本来は、一刻も早く人事と組織を固め、連邦議会と相談しながら着実に政策を実行するという実績を積み上げることが、支持率アップ、そして中間選挙勝利へのシナリオであるはずです。ですが、「それが簡単にできない」現実の中では、劇場型の政治を続ける必要があり、そこには「敵」が必要で、現在はメディアとの確執を演ずるしかないということなのだと思います。



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  • ホワイトハウスに直接ミサイルが飛んで来ない限りは、現実を見ないだろうな……
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