書店に「コンドームが並んでいる!?」と話題に 主婦の友社が仕掛けた“黄金”パッケージの真意

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2017年02月24日 17:04  新刊JP

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『大山式 for MEN ZERO』(主婦の友社)
黄金に輝くパッケージ。
目立つ「ZERO」「つけるだけ」という言葉。

今、この商品が書店に並んでいるのを知っているだろうか?
その正体は、主婦の友社から刊行されている『大山式 for MEN ZERO つけるだけ 歩くだけでやせる最強のパッド』だ。

主婦の友社が出版している「魔法のパッドシリーズ」は、足指につけることで足裏や指間を刺激し、姿勢矯正やダイエットにつながる「足指パッド」がついた“付録つきムック”でこれまで累計137万部を突破する人気シリーズだ。

この『大山式 for MEN ZERO』はその名の通り、シリーズとしては初めてメンズ向けの「足指パッド」となる。

足のサイズは28センチまで対応可能なので、おおよその男性がこのパッドを使うことが可能だ。指にはめてみると、ゴムのような質感でとても気持ち良い。そこまで抑えつけられる感覚もない。

ところが、パッドをつけたまま歩くと、足の指が浮かなくなり、つま先からかかとまで使って着地をする感覚を得る。これによって、現代病ともいえる「浮き指」で歪んだ身体の重心を整え、足裏全体の筋力アップにつながるという。

足指に直に装着できるので、このパッドを使えばこっそりと、そして普段の生活に支障なくダイエットできるというわけだ。ちなみに年明け早々、自己最高の体重をマークした記者は個人的に足指パッドを使っているが、冬でも汗をかくことが多くなった。

そんな『大山式 for MEN ZERO』だが、別の部分でも話題になっている。

■その大きさとパッケージはオキテ破りである

SNS上では本商品の画像とともに、「コンドームのパッケージに見える」といった主旨のコメントがアップされている。

キラキラと輝くパッケージは、確かにコンドームと見間違えてしまう。大きさもちょうどそのくらいだ。名刺ケースと比べてみると、その商品の小ささが分かるはずだ。



同シリーズから出ている『足指パッドつき つけるだけ 歩くだけでやせる魔法のパッド PRO』と比べても、『大山式 for MEN ZERO』の小ささが際立つ。

『魔法のパッドPRO』の大きさはA5サイズなので、通常の単行本のサイズである「四六判」よりも一回り大きいのだが、それと比較しても『大山式 for MEN ZERO』のコンパクトなパッケージが目立つだろう。



■斬新すぎる黄金パッケージはどのようにして生まれたのか?

“付録つきムック”の世界で際立った存在感を見ている『大山式 for MEN ZERO』。そもそもこれは本なのか? という疑問も浮かぶだろう。

しかし、この商品はISBNが付いている、れっきとした「出版物」である。だから、Amazonランキングでは「本」のジャンルにランクインするし、書店にも並ぶ。

一体どのような考えから、この「本」が生みだされたのだろうか? 気になった新刊JP編集部は、この商品の仕掛け人であり、『魔法のパッド』シリーズの編集を担当する主婦の友社取締役第3事業部長 前田起也氏にお話をうかがった。



――黄金に輝くインパクトの強いパッケージはどのようにして生まれたのですか?

前田:男性向けの商品ですと、激戦区の趣味やスポーツ・エクササイズといったコーナーになるので、そこでどう目立っていくのかを考えたときに、ゴージャスに悪目立ちするくらいのつもりでパッケージ作りをしました。

読者の皆さんに「なにこれ?」と思っていただき、この「金の延べ棒」を1本手に取ってもらう。そうなれば勝ちだなと。「ああ…眩しいっ!!」「ザワザワ…」そして、レジへ進むという、『カイジ』風なリアクションに至るストーリーをイメージしましたね(笑)。

――目立つための工夫というわけですね。

前田:そうです。金のパッケージに関しては加工のPPと紙の相関関係で、どういう角度からどう光るのか、紙質や加工方法に徹底的にこだわっています。

また、書店で、このパッケージが「大きな販売箱」の中に入れられて、売られているのをご覧になった方も多いと思います。あの販売箱には12個のパッケージが並べられるようになっているのですが、並べる個数の組み合わせと角度は、資材担当や販売担当者とも繊細に考えた部分ですし、季節ごとに看板POPを差し替えていけるような仕様にもなっています。これは書店さんに飽きられないようにするための工夫です。



――先ほど激戦区の棚で置かれても目立つようにこのパッケージにしたとおっしゃっていましたが、具体的にどの棚に置かれるかはイメージされていましたか?

前田:そもそも市場にない商品ですし、書店さんの規模や、棚の作り方、担当の方のお考えによっても置かれる場所は変わります。だから、「男性向けの棚」でも「雑誌」でも「スポーツ」でも「エロ」でも、どこに置かれても対応できるということは考え抜きました

■“ムックから冊子を抜いた”革新的な商品が生まれた理由

この商品には「ムック」がついてないのだ。ほとんどの付録つきムックの場合、ページ数は少ないながらも冊子がついている。

『魔法のパッドPRO』にも32ページの冊子がついており、足指から姿勢を正す重要性や「魔法のパッド」の使い方とその働きについて説明をしている。

しかし、『大山式 for MEN ZERO』にはそれが存在しない。パッケージを開封すると、「足指パッド」とともに4つ折りの紙が封入されており、そこでは使い方が説明されている。その裏には「検索:大山式 for MEN 使い方」という文字。そのキーワードで検索をかけると、本書の解説ページが出てくるのである。

つまり、これまでムックで説明した解説を、ウェブに移行した形になる。見える冊子を抜いたのだ。



――今回はこれまでのような冊子がつかない、いわゆる「本ではない」商品となっています。そこで「パッド」をムックの付録にせず「マルチメディア商品」として売りだした理由を教えて下さい。

前田:付録つきの商品(ムック)を作るとき、我々が当たり前ですが中身を無意味なものにしたくないという気持ちで真剣に作っています。ここに手を抜くことはありません。でも『大山式 for MEN ZERO』で、はじめて「見える冊子」を抜きました。

その目的は3つあります。ひとつは、3年前、パッドの女性向けのムック(A5サイズ)がものすごく売れたとき、ある九州の書店さんに言われたひとことがきっかけでした。

その言葉を要約すると、「大きなムックばっかり送られても困るし、最近はさらに大型化している。その点、これ(魔法のパッド)は小さくて売れるからありがたい」と。

我々はスペースあたりの売上(坪単価)まで考えられずに、大きな付録つき商品を大部数で送り込み、書店さんに迷惑をかけていたと気付いたんですね。『魔法のパッド』は単純に商品が小さいため、読める冊子をつけてA5サイズにしたのですが、読める冊子をつけなければもっと小さくなるんだと。

――それが一つめのきっかけなんですね。

前田:『魔法のパッド』がシリーズで100万部を超えたら、今度は坪単価をさらに意識した商品を作ろうと思っていました。

『魔法のパッド』を共同開発しているイースマイル社がドラッグストアで販売しているパッドは、箱が本当に小さいんです。しかも、冊子つきより価格も高く、箱は小さい。

今回の『大山式 for MEN ZERO』の12個入り販売箱が売場でしめるスペースはほぼ雑誌と同じサイズ(A4)です。このスペースで、弊社の雑誌比でいえば約50冊分の利益が上がる計算になるんです。それならば書店さんにも喜んでもらえるのではという考えがありました。

――書店の坪単価を考えた上で、高い利益が上がる商品を提供したかった。

前田:そうです。そして二つめは、市場的にも電子書籍が普通化したことで、思い切って冊子を外して、使い方などをデジタルデバイスで読めるようにしたかったということです。

特に男性向けですから、そもそも説明書なんてあまり読まないんですよ(笑)。弊社にいただく読者からのお電話でも「冊子は最初に捨てた」とおっしゃるお客様はほぼ9割男性です。

でも、やはり正しく使っていただきたい。であれば、冊子ではなく、ウェブ上できっちり説明を読めるようにしようと。そこで、特設ページを制作して、パッケージの中に最低限の説明を書いたペラ紙を入れて、誘導するようにしました。

――では、三つめの理由は?

前田:三つめは少し大げさな話になってしまうのですが、この商品をきっかけに「補充システム」を構築したいと思っていました。

私の最終的な目標は、「直販・直送」です。直接販売を箱ごとしたうえで、弊社の倉庫から一つずつでも商品を自動的に補充のために「直送」するのが理想形です。

ひとつ面白かったのは、Amazonランキングで上位に上がったとき、見た目がまったく本ではない長方形の「金の何か」が、村上春樹さんの新刊や話題の本である『夫のちんぽが入らない』に並んで表示されていたときですね。流通形態の面白さを、逆の意味で実感することができました。

『大山式 for MEN ZERO』を数えるときは、「冊」なのか「個」なのか? 私たちは流通形態によって本音と建前をわけている場合ではありません。本の流通や流通形態、そして書店という「売り場」にはさまざまな可能性があると思っています。



「コンドームに似ている」と評されるパッケージには、実はこれまでの本の出版の常識を打ち破る考えが詰め込まれていた。この『大山式 for MEN ZERO』は、出版、流通を大きく変えるきっかけになるのだろうか。

(新刊JP編集部/割井洋太)

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