「民泊で裸を盗撮」の罰が、たった1万円未満の軽犯罪法違反?

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2017年03月06日 22:01  citrus

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住宅の空き部屋を有料で観光客に貸す「民泊」の利用者が日本でも増え、それに伴い問題も浮上しています。民泊のホストによるゲストの盗撮も、そのひとつ。民泊のために訪れた家で小型カメラが設置してあるのを発見したという報告がネット上で見受けられ、利用者を不安にさせているようです。そして、犯人は民泊のホストであったとして、逮捕されたとしても、その場合の刑罰の軽さも疑問視されています。ベリーベスト法律事務所の弁護士がその実情を解説します。

 

 

■「民泊でのホストによる盗撮」→「軽犯罪法違反」→「1000〜9999円の科料」という現実

 

民泊時のホストによる盗撮は、軽犯罪法1条23号に抵触する可能性があります(以下、この記事での軽犯罪法はこの条文を言います)。軽犯罪法では「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」は「拘留又は科料に処する」と定められています。

 

拘留とは、1〜29日間、拘置所等の刑事施設に拘置(捕らえて閉じ込めておくこと)する刑罰。科料とは、1000〜9999円の金銭を強制的に徴収する刑罰です。軽犯罪法違反に対しては、拘留か科料のどちらかの刑罰が下されるわけですが、実際に拘留が下されるのは日本全体で対象のすべての犯罪で年に4、5件と特殊なケースのみで、ほとんどありません。基本的には科料が下されることになります(科料は年に2000〜3000件、法務省ホームページ検察統計表より)。

 

ゲストの裸を盗撮した民泊ホストに対して下された刑罰が数千円の科料だけということもあったようで、一般的な感覚と刑罰の重さに乖離が生じているのでないかという議論も起きています。以下では、民泊のホストがその個人宅内にカメラを設置し、ゲストの裸を盗撮したという事例をもとに考察していきます。

 

 

■民泊での盗撮は「迷惑防止条例」でも処罰できない?

 

どうして本事案の盗撮はそれほどまでに刑罰が軽いのでしょうか。実は、一口に盗撮といっても事案によって適用される罪が異なり、それにより刑罰も異なるのです。一般的に盗撮で適用される可能性がある主な罪は次のものがあります。

 

・児童ポルノ製造罪(3年以下の懲役又は300万円以下の罰金)

・住居侵入罪(3年以下の懲役又は10万円以下の罰金)

・迷惑防止条例違反(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)※東京都の場合

 

いずれも軽犯罪法より重い刑が定められています。刑罰の対象となった民泊のホストは、上記の3つの罪には当たらないと判断されるため、軽い軽犯罪法違反で裁かれることになると考えられます。では、前述の3つの罪が適用されるのはどのような場合なのでしょうか。説明していきます。

 

1. 児童ポルノ製造罪

盗撮の対象が児童(18歳未満)である場合が対象となります。児童ポルノの定義の1つとして、「衣服の全部または一部を着けない児童の姿態で性欲を興奮させるものの姿態」であることが要件となっています(いわゆる児童ポルノ法2条3項3号)。ここから、児童を盗撮しても衣服を全部着けたものであれば、児童ポルノには当たらないでしょう。

 

前述の民泊ホストの事例では裸を盗撮しているので、対象に児童が含まれていれば、児童ポルノ製造罪(児童ポルノ法7条3項)で裁かれていたでしょう。なお、盗撮者が盗撮対象に児童が含まれていることを認識していなかったとしても、児童が含まれる可能性があることを認識していれば、児童ポルノ製造罪が成立する可能性があります。

 

2. 住居侵入罪

刑法130条では「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物──に侵入し──た者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」と定められています。盗撮目的での侵入は「正当な理由がない」とされるでしょうから、盗撮目的で人の家や商業施設等のトイレ、更衣室等に侵入した場合は、住居侵入罪(建造物侵入罪)が適用されます。ただし民泊のホストの事例では、自分の家なので住居侵入罪が適用されることはないでしょう。

 

3. 迷惑防止条例違反

条例とは、都道府県や市区町村単位で定められる法です。日本全国のすべての都道府県に迷惑の防止等を目的とした条例が定められており、条例の名称は都道府県によって異なりますが、一般的に総称して迷惑防止条例と呼ばれています。

 

何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって──公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること──をしてはならない

 

東京都の迷惑防止条例ではこのように定められています(5条1項2号)。この条例により盗撮が処罰されるのは、東京都の場合、次の場所で行為が行われた場合に限ります。

 

・公衆の便所、浴場、更衣室など、公衆が通常、衣服の全部もしくは一部を着けない状態でいる場所

・公共の場所、乗物

 

つまり、東京都迷惑防止条例の対象場所は、公共の場所といえるかがポイントです。そして、条例の対象場所を「公共の場所」とする都道府県が多いです。東京都の場合、民泊に使用する民家はこれらのいずれにも当たらないので、民泊での盗撮を条例で処罰することも難しいでしょう。

 

 

■刑罰は軽くても加害者への社会的制裁、民事上の損害賠償請求がなされる可能性がある

 

現在、民泊におけるホストの盗撮が軽犯罪法違反として扱われたとしても、前科には違いありません。性犯罪に対する世間の目は大変厳しいので、知られてしまうと社会的な信用を大きく損なうことが考えられます。逮捕、勾留されて取り調べを受けているあいだ、仕事を休むこともあるでしょうし、勤務先に知られ職を失う等の社会的制裁を受けることも考えられます。

 

また加害者は、起訴されることを避けたり、裁判でも処分を寛大なものとしてもらうためには、被害者と示談交渉することが考えられますが、示談金として必要な慰謝料が高額になることもあるでしょう。被害者側としても、民事上の損害賠償請求をすることが考えられます。

 

監修:リーガルモール by 弁護士法人ベリーベスト法律事務所

 

※情報は2017年2月23日時点のものです

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