2045年、労働者は全人口の1割程度の可能性も 人工知能は経済をどう変える?

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2017年03月10日 15:04  新刊JP

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『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』(文藝春秋刊)
人工知能(AI)の議論が上がると、まずは「自分の仕事が奪われるんじゃないか」ということを思うのではないか。

事実、自動運転車やAIを搭載したドローンによる配送はタクシーやトラック運転手などの失業を招く可能性があるだろう。また、スーパーのレジ係やホテルのフロント係といった仕事が消えるのではとも言われているし、最近では、ニュースメディアでも人工知能が導入されている。

実際のところ、現代に至るまで様々な仕事が技術的進歩によってなくなってきた。20世紀初頭には経済学者のケインズが「技術的失業」という言葉を使って、警鐘を鳴らしている。

しかし、なくなる仕事があれば新しい仕事が生まれるものだし、雇用は単純に技術的進歩のみに左右されるものではなく、経済状況による影響の方が短期的に見れば大きい。ケインズがこの言葉を提唱してからすぐに世界恐慌が起き、多くの失業者が生まれ「技術的失業」どころではなくなる事態となった。

世界恐慌が終わったらどうなったのか? 次にやってくるのは第二次世界大戦による特需であり、1950年代、60年代の資本主義黄金時代へとつながっていく。

20世紀の様子はつかんだ。でも、気になるのは今後である。私たちのこれからだ。一体どうなるのだろうか?

『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』(文藝春秋刊)は、人工知能と経済学の関係を研究するパイオニアとして知られる井上智洋氏が、人工知能が経済に及ぼすであろう影響を分かりやすく説明している。2016年7月に出版された新書だ。

■中小企業からは従業員がいなくなる…



雇用はどうなるのか? 「AIはそう簡単に仕事を奪えない」と思っている人は、残酷な未来が待っているかもしれない。

本書によれば、2030年にAI技術の発展による「第四次産業革命」が起こると書かれている。そのきっかけになるのが、その年に開発の目処が立つと言われている「汎用人工知能」の登場だ。

「汎用人工知能」は人間のように様々な知的作業ができるAIのことで、経済や雇用に対して大きな影響を及ぼすことが考えられる。

例えば、音声を通して要望を伝えると応えてくれる「パーソナル・アシスタント」の機能は飛躍的に向上し、決算書作成やウェブサイトの構築、報告書のとりまとめといった、「今は人間しかできない作業」をしてくれるかもしれない。

事務作業はAIが担うことになり、現在の20〜30人ほどの規模の会社は社長一人で運用できるようになる未来がやってくるのだ。

となると、残る人間の仕事は以下の3つの分野になるという。

・クリエイティヴィティ系(Creativity、創造性)
・マネージメント系(Management、経営・管理)
・ホスピタリティ系(Hospitality、もてなし)
『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』P160-161より引用

いずれも「他者の心を深く考える仕事」といえる。しかし、こうした領域以外の仕事に就いている人たちは仕事が奪われてしまうのか?

■2045年、労働者は全人口の1割程度の可能性も



井上氏は「今から30年後の2045年くらいには、全人口の1割ほどしか労働していない社会になっているかもしれません」(同書P166より引用)と述べる。残るといわれている仕事の3つの分野の中でも、AIはある程度仕事を肩代わりする。レストランは、「無人に近い格安レストラン」と「人間が応対する高級レストラン」に分かれる可能性があるだろう。

そして、汎用AIが生産活動に全面的に導入されるような経済を「純粋機械化経済」と呼んでいる。

18世紀半ばに起きた第一次産業革命から、2030年の第四次産業革命までの「労働の効率化」が続けられていた時代は終わり、汎用AIは一気に仕事を人間からひきはがしていく。そして待ち受けているのが、2045年の「労働者は全人口の1割程度」という経済構造の大転換点である。

問題は、AIの台頭によって仕事を失った人たちはどのように生きていくべきか? ということだ。普通に考えればAIを使う側に立つ資本家と、AIに仕事を持っていかれた労働者側の格差が極端に広がるディストピアになるだろう。

井上氏はこの課題に対して、「ベーシックインカム」導入の可能性を指摘している。こちらの詳しい議論は『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』を参考にしてほしい。

さまざまな文献や研究結果を引用しながら、AI社会の到来と私たちの未来を論じた本書は、「ちょっと悲観的ではないか」と思う部分もあるかもしれない。しかし、そのような未来が待っている可能性もありえるということは頭に入れておくべきだろう。

「まだ遠い未来だから」と話せるほど、2030年、そして2045年は遠くない。

(新刊JP編集部/金井元貴)

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