「出産後3カ月無収入なぜ?」アン・ハサウェイが国連で訴え

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2017年03月11日 09:53  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<実はアメリカは産休・育休制度の後進国。先進国の中で唯一「有給の産休制度」を取り入れていない。アカデミー女優の切実な訴えはトランプ政権に届くか>


先進国アメリカが、世界の中で驚くほど後進的な分野がある。産休・育休制度だ。


「どういうわけか私を含めてすべてのアメリカの親たちは(子供が生まれてから)3カ月間、無収入で休んだ後に通常の生活に戻るものだと想定されている」


アカデミー助演女優賞の受賞者で国連親善大使でもあるアン・ハサウェイは「国際女性デー」の3月8日、ニューヨークの国連本部でスピーチを行い、アメリカの産休・育休制度の改善を訴えた。ハサウェイ自身、昨年第1子を産んだ「アメリカのワーキングマザー」だ。


【参考記事】「国際女性デー」全世界の女たちは勇敢に戦った


男女平等と女性の地位向上などを目指す会合で、各国からの出席者を前にハサウェイは自分の言葉でこう語った。「アメリカの母親の4人に1人は、休んでいる経済的余力がないため、出産後2週間で仕事に復帰している。この現実を聞いて、私は胸が痛くてたまらなくなった」


ハサウェイのスピーチが国連本部で行われたことは、アメリカにとっては皮肉だったかもしれない。人権や平等といった問題に特に敏感で、国連を含め常に国際社会をリードする立場にあるアメリカが、先進国の中で唯一「有給の産休制度」を取り入れていない。


93年に施行された連邦法「Family and Medical Leave Act(FMLA)」は従業員が産休を取得する権利を規定しているが、FMLAが事業主に義務付けているのは「従業員が出産後、もしくは養子を得てから12週間、休暇を取得する権利を認めること(解雇してはいけない)」であり、産休中の給与は全く保証されていない。


しかもこの権利が認められるには、「勤続年数1年以上」や「従業員が50人以上の会社」など複数の条件をクリアする必要がある。FMLAはそもそも出産や育児、介護など「家族を理由とする」休暇の取得について規定しているが、条件を満たせずにこの法の恩恵を受けられない労働者はアメリカ全体の40%に上るという。「産休取得」は、アメリカでは誰にでも保障されている権利ではないのだ。


連邦レベルで進歩が見られないなか、州レベルでは少しずつだが「家族を理由とする有給休暇の取得」に乗り出す動きが見られ始めた(支払われる給与は全額ではなく一部)。


全米ではカリフォルニア、ニュージャージー、ロードアイランドの3州の法律が順にそれぞれ6週間、6週間、4週間の有給休暇を規定。ニューヨーク州も2018年1月から家族を理由とする8週間の休暇取得を権利として認め、週の給与の50%を払うよう定める法律を段階的に施行予定で、2021年の時点で最終的に12週間、週の給与の67%の支給が実行されれば、全米で最も先進的な産休・育休制度になるという。サンフランシスコ市のように自治体単位で同様の制度を取り入れているところもある。


もちろん、法律で義務付けられていなくとも有給の産休・育休制度を設けている企業はある。ここ数年でアマゾンやネットフリックス、マイクロソフト、スターバックス、フェイスブックなど、特に西海岸の大企業でより寛大な制度を設ける動きが加速しており、なかには父親に有給の育休を認める企業も出てきた。


それでも、CNNによれば全米で有給の産休・育休を認めている企業は全体の20%に満たない。CNNの記事は、ある調査で父親の36%が職場でのポジションが奪われる怖さから育休は取得したくないと答えたことも紹介している。


ハサウェイは国連でのスピーチで、育児や家事が「女性の仕事」とされるステレオタイプから変えていかなければならないと訴えた。そうすることは、父親の存在価値をもっと尊重することでもある、と。


「産休制度に限らず、性別をベースにした政策というのは見かけが良いだけの鳥かごだ。......こうした政策は、女性は職場にとって不便な存在だという見方を生む。男性は、限られた生き方にがんじがらめにされているように感じるだろう」と、ハサウェイは語った。「女性を解放するためには、男性を解放しなければならない。......父親を軽視して母親に過剰な負荷をかけることを、どうして続けていかなければならないのか」


ハサウェイは、「お父さんが2人という家族にとって、『産休制度』は何の意味を為すのか」とも指摘した。アメリカでは養子縁組や同性婚、シングルマザーやファザーなど、家族の形態も多様化してきている。


ドナルド・トランプ米大統領は昨年、選挙キャンペーン中に「6週間の有給の産休制度」を公約したものの、その対象は「出産した女性」に限られており、父親や養子縁組で子供を設けた家族は適応外としていた。国際女性デーに男性の権利についても訴えたハサウェイの声は、トランプ政権に届いただろうか。


【参考記事】トランプにブーイングした「白ジャケット」の女性たち




小暮聡子(ニューヨーク支局)


このニュースに関するつぶやき

  • いやいや、トランプタンが先ず掲げている公約を実行させることから始めないと。ハードルを高くするとオバマケアの二の舞ですよ
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