未発表研究が示す「大胆で進歩的な」財務担当者の時代

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2017年03月13日 19:53  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<「財務担当者といえば保守的で堅実、慎重派」が相場だったが、全米CFO連盟の研究によれば、新たなタイプの財務プロフェッショナルが登場し始めている>


企業のファイナンス部門は、ビジネスにおいて思い切った大胆な戦略をとることが滅多にないと言われる。財務担当の経営幹部は慎重派で迎合的、リスク回避型の戦略を立案しやすいとみなされており、チャンスに賭けるよりも、せせこましく細部にこだわり、目の前の問題解決にフォーカスして思考しがちな人種と思われている。


だが、そんな時代は終わりを告げるかもしれない。なぜなら、幅広い視野で大局的に物事を考えられる新種のCFO(最高財務責任者)が現れはじめた兆しがあるからだ。


Dialogue誌が独占的に入手した未発表の研究成果がその証拠。商才に長け、ダイナミックで進歩的な思考のできる財務リーダーの草分け的な一群が登場したことを示している。守旧派になりがちだったこの職種に新しい息吹をもたらしつつあるのだ。


この現象は、職業団体である全米CFO連盟による研究で見出されたものだ。GC Indexを使用する専門家によって裏づけられた研究だが、GC Indexは組織の現在形を切り取る優れたツールとして知られている。


その研究は、米国企業3社から選ばれた、職位の高い20人の財務プロフェッショナルを綿密に分析したものだ。3社は、住宅建材、資産管理、ソフトウエアという、それぞれ異なる産業に関わる企業からピックアップされている。


GC Indexのデータベースは、幾分かは従来の財務担当幹部のステレオタイプを示した。実利優先で、定型的なタスク処理にフォーカスした戦略立案をする、大局的な見地から商機を捉えるよりも目の前の問題解決に注意を向けがち、といった特徴だ。


しかし一方で、少数ながら、ダイナミックで進歩的な考え方のできる財務プロフェッショナルがいることもわかった。彼らは自ら所属する組織に変革をもたらしていた。


「彼らはビジネスに、これまでとは大きく異なる商業的価値を加えられるでしょう。社内でその能力が認められて生かされ、彼らのアイデアを実現する機会が与えられるならば、の話ですが」と、GC Indexの首席心理分析官でディレクターのジョン・メルヴィン=スミス博士は話す。


財務において戦略的思考は重要だ。新たに現れた進歩的な考え方のできるCFOは、自ら分析したデータをもとに企業全体がどこに向かうべきかを割り出し、CEOや他部門のトップにアドバイスできる。実際の取引データとその数値分析を確固たるベースにして、ビジネスの戦略的な方向性を提案するのが最良の財務リーダーといえよう。


経営幹部の役割の5つの要素


だが、財務プロフェッショナルがそのように変化していくまでには、いくつかのプロセスが残っている。GC Indexは経営幹部の役割を次の5つの要素に分類している。


【参考記事】頭が良すぎるリーダーの、傲慢で独りよがりな4つの悪い癖


(1)プレイメーカー:未来に向けて組織を"まとめる"人


(2)ゲームチェンジャー:未来を"変える"人


(3)ストラテジスト(戦略家):未来を"描く"人


(4)ポリッシャー:未来を"磨く"人


(5)インプリメンター(実行者):未来を"築く"人


全米CFO連盟の研究では、対象の財務プロフェッショナルたちの中では(3)のストラテジストの要素がもっとも薄かったそうだ。


このストラテジストの要素が少ないという結果は、際立ったものだった。20人の対象者の中で、はっきりとストラテジストの役割を志向する人は1人もいなかった。ストラテジストの要素を示すスコアが7(満点は10)より大きかったのは、たった1人だった。GC Indexの創設者であるネイサン・オット氏によれば、この結果は、財務の専門家に限っては決して驚くものではないという。


オット氏はDialogue誌のインタビューに次のように答えている。「すべての職種を対象にした場合、20人いたならば、たいていはそのうち4人か5人はストラテジストのスコアが7以上になります。しかし、今回、財務のプロフェッショナルに絞った場合にはそうはなりませんでした。似たような立場の別の20人を連れてきたとしても、結果は変わらないと思います。私たちのこれまでのデータや、さまざまな組織と関わってきた経験から、それははっきりしています」


今回、対象となった財務プロフェッショナルのグループにストラテジストの要素が欠けていることから、どんなことが言えるのだろうか。全米CFO連盟のニック・アラコ・ジュニアCEOは次のように指摘している。


ストラテジストが必要となるような課題が生じるかどうかは、業務次第である。つまり業務によっては、これまで、ビジネス上の機能を全体的に見渡す必要がなかったために課題が生じなかった。かつては財務がそうだった。だから、財務の分野では戦略的思考の必要性が感じられることも、実際に育まれることもなかった。


「私は、財務幹部にストラテジストが不足しているという推論にはあまり同意できません。不足しているのではなく、必要とされてこなかったのです。今ようやく、財務プロフェッショナルたちが戦略的なマインドセットを示すことが歓迎されるようになってきました。その機会も増えています。財務分析をベースに方針や根拠を考えていくことは、企業の成長戦略を策定・実行する上で役に立ちます。おそらく、多くの企業がそのことを認識するようになってきたのでしょう」と、アラコ・ジュニアCEO。


「それは、すなわち財務が、かつてサイロ化(部門間などで互いに連絡・連携することなく独自に業務を行う様子)しているとみなされた各業務の壁を越えていこうとしているからにほかなりません。財務プロフェッショナルの戦略的な能力は、企業全体の意思決定において重要な役割を果たすようになってきているのです」


【参考記事】ロボット化する社員が企業の倫理的問題を招く


財務プロフェッショナルに多い志向性は?


楽観的に考えれば、財務は、会社全体のために思考することに、プロフェッショナルとしての自負と大きな喜びを感じられるのではないか。また、今回の研究対象となった3社のうち、少なくとも2社の社員については、それぞれの志向性にばらつきがあった。これは、伝統的に財務のプロに求められるコアな能力よりも幅広い力を発揮できる可能性を示しているといえる。


今回の研究対象グループの志向性はバラバラだった。ただし、タスク・ベース(アイデア・ベースに対して、実際に業務を行うことが主になる)の役割であるプレイメーカーとインプリメンターを志向する人がやや多いという傾向は見られた。


注目すべきは、何人かがゲームチェンジャーの志向性を強く持っていたことだ。これは、物事をかき混ぜて、会社を前進させる新しいやり方を考えられる人材が財務部門にいることを示している。


「忘れてはならないのは、GC Indexは、あくまで人々の現在の志向性を測るものだということです。可能性ではありません」とメルヴィン=スミス博士。「会社が戦略的思考に価値を置くようになっていくことを、CFOが財務部門の部下たちに保証できるようになれば、財務のメンバーの志向性も変わってくるはずです。市場は戦略的アプローチにより大きな評価を与えるようになってきているからです」


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※当記事は「Dialogue Q1 2017」からの転載記事です




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2005年創業。厳選した書籍のハイライトを3000字にまとめて配信する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を提供。国内の書籍だけではなく、エグゼクティブ向け教育機関で世界一と評されるDuke Corporate Educationが発行するビジネス誌『Dialogue Review』や、まだ日本で出版されていない欧米・アジアなどの海外で話題の書籍もいち早く日本語のダイジェストにして配信。上場企業の経営層・管理職を中心に約6万人のビジネスパーソンが利用中。 http://www.joho-kojo.com/top





ベン・ウォーカー(Dialogue誌編集長) ※編集・企画:情報工場


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