ウーバーはなぜシリコンバレー最悪の倒産になりかねないか

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2017年03月13日 22:23  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<1年前まで輝く星だったウーバーは、今やトラブル続きで評判はガタ落ち。GMを上回る時価総額は、逆にIPOを妨げ、資金調達もままならない。このまま行けば、自ら創造した配車サービスというビジネスの形だけ残して消える可能性もある>


わずか1年前、アメリカの配車サービス大手ウーバーはまるで万能の魔法使いのようにIT業界に君臨していた。だが化けの皮が剥がれた最近のイメージといえば、狂ったように車のレバーを引く不機嫌な酔っ払いのようなCEOが、救いを求める従業員に向かって拳をふるうような粗暴さだ。


【参考記事】乗客レイプのUber運転手に終身刑で、問われる安全性


今のウーバーは、何もかもが裏目に出る。事故にあった原子炉のようにメルトダウンして、シリコンバレーの中心に巨大な穴を開けるのでは、と懸念が高まっている。オンデマンドで車を手配するウーバーの革新的なサービスは、世界中で多くの人々に愛され、需要は高まる一方だ。市場が成長するのは間違いない。だがその成長には、ウーバーがいなくても支障なさそうだ。


腐敗した企業文化、不運なメディア露出


ウーバーの問題の根幹にあるのは粗野な企業文化だ。昨年12月に退職した元エンジニア、スーザン・ファウラーは、在職中に上司から受けたセクハラを受け、人事部に何度も訴えたが、まともに取り合ってもらえなかった。会社は機能不全に陥っていると、先月ブログで公表したことで、ウーバーの社内事情が世間に知れ渡った。職場は冷酷だったと批判したファウラーは、ブログにこう綴った。「管理職は、昇進を巡って同僚と争うか、直属の上司の揚げ足を取ることしか考えていなかった」


【参考記事】ウーバーと提携したトヨタが持つ「危機感」


数日後には、ロータスの創業者ミッチ・ケイパーと、労働環境を専門にする妻のフレアダ・ケイパーが、ウーバーの経営陣に公開書簡を送りつけた。設立初期に出資したケイパー夫妻は、ファウラーの告発に対する対応に誠意がないことに不満を抱き、「破壊的な企業文化」にうんざりしていると書いた。「我々が今こうして声を上げるのは、ウーバーに幻滅し怒りを覚えるからだ。社内からの変化を待つだけでは限界だと感じた」


1週間後、トラニス・カラニックCEOがウーバーの運転手を罵倒するビデオが公開された。ウーバーが運賃を下げ続けるせいで収入が減ったと、運転手は不満を訴えた。「あなたのせいで私は破産だ」と言われたカラニックは激昂し、運転手をののしった。ブルームバーグがビデオを入手し配信すると、カラニックはまた謝罪する側に立たされ、同社のホームページに「リーダーとして根本的に変わり、成長しなければならない」という短文を掲載した。わかりきっていたことだ。


【参考記事】安くて快適な「白タク」配車サービス


ネガティブな宣伝効果


ウーバーにはネガティブな話題がつきまとう。イスラム圏7カ国からの入国を禁止したドナルド・トランプ米大統領の大統領令に抗議するタクシー運転手がニューヨークのJFK国際空港でストを行った先月は、ウーバーの運転手がスト破りをして営業を続けたことで抗議者側と衝突した。スマホからウーバーアプリの削除を呼びかける「#DeleteUber」運動がツイッターで広まり、同社は火消しに追われた(いくつかの推計によると、約20万人のユーザーがアプリを削除したもようだ)。


その半年前には、サウジアラビアの政府系ファンド「公共投資ファンド」から35億ドルの出資を受けた。女性に運転を禁じ、同性愛者を刑務所に入れる外国政府の片棒を担ぐ印象になった。ある出資者はこの資金調達について、米フォーチュン誌にこう語った。「これで(CEOの)カラニックがどういう男かがわかる。誰にどう見られようと意に介さない」


そして今は、インターネット検索大手グーグルを傘下に持つアルファベットから、技術泥棒と名指しされている。ウーバーは昨年、米自動運転車開発ベンチャーのオットーを6億8000万ドルで買収。従業員の多くは、アルファベットの自動運転車プロジェクト部門が独立したウェイモの元従業員だ。アルファベットは元従業員の一部がウェイモから技術情報を盗んだと主張し、自動運転車開発の差し止めを求めてウーバーを提訴した。


ウーバーはかねてから、自分たちの未来は自動運転車にかかっていると言っていた。うるさい運転手たちに利益を分配して済むからだ。もしアルファベットが勝訴すれば、ウーバーはかなりの確率で、また一から自動運転技術の開発を始めるか、大金を叩いて他社の技術を買い入れる必要がありそうだ。


不満を抱く運転手と厳しい懐事情


自動運転車という漠然とした未来を当てにするウーバーも、当面は16万人の運転手を満足させねばならない。だが先日のカラビックのビデオを見る限り、運転手たちは不満を抱えているようだ。彼らはウーバーのアプリでチップがもらえるようにしてほしいが、会社側は認めない。福利厚生を求める運転手からの訴訟も起きている。


運転手の年収を実際より多く見せかける求人広告を掲載したとして連邦取引委員会(FTC)に訴えられた裁判では、2000万ドルの罰金を払わされた。ライバルの米リフトは、ウーバーの運転手に対するひどい待遇を揶揄する広告を流して運転手を囲い込もうとしている。良心的なユーザーは運転手に優しいリフトを選ぶべき、というわけだ。


戦略面では、次々に新しいことに手を出し過ぎたようだ。配食サービス「UberEats(ウーバーイーツ)」で、中東風のコロッケを頼んだ人が何人いるだろう? 自動運転車のオットーを買収した翌月には、NASA(米航空宇宙局)の科学者を雇い入れて「空飛ぶ車」を開発すると宣言した。


【参考記事】都会の空を「空飛ぶタクシー」でいっぱいにするウーバーの未来構想


アメリカは中国に負けてばかり、というのはトランプの口癖だが、ウーバーは準備不足のまま中国市場に参入し、トランプの正しさを証明した。昨夏、ウーバーは中国の配車サービス最大手「敵敵出行」との合弁事業から事実上撤退した。これを機に、世界市場でも敵敵出行がウーバーを追い落とすことになるかもしれない。もしアメリカのユーザーが外出時に「ウーバーする」のではなく「敵敵する」というフレーズを使い始めれば、トランプは発作を起こすだろう。


苦境に追い打ちをかけるのが、ウーバーの財政事情だ。ウーバーは未公開企業だが、経営状態を示す数字がいくつか流出している。ブルームバーグは同社が2016年の第3四半期に8億ドルの損失を計上したと報道した。去年1年間の損失は30億ドルに上ったという憶測も飛ぶ。


IPOを拒む真の理由


ウーバーのビジネスモデルを維持するには、とにかくコストがかかる。より多くのユーザーに利用してもらうには、運転手を多数確保して、多額の報酬を払う必要があるからだ。大量生産でコストを削減するという、規模の経済はここでは通用しない。リフトやタクシーなどとの競争にさらされているため、料金を上げる力もほとんどない。それにも関らず、投資家から資金を募るたびに株価は上がり、時価総額は700億ドル近くに達している。既にゼネラル・モーターズ(GM)の時価総額を上回る。誰が見ても過剰評価だろう。


天を突く時価総額は、ウーバーの首を絞める可能性がある。創立8年目のウーバーは、多くのITベンチャーがIPO(新規株式公開)を行う時期にさしかかっている。それにも関らず、カラニックが頑なに株式公開を拒んでいるのは有名な話だ。


彼はまるで市場を必要としない異端児のように振る舞うが、本当の理由は、今のウーバーの財務状況でIPOを行っても既存の投資家に損をさせない高い株価が付かないからだとも言われる。もしそれが事実なら、ウーバーは窮地だ。小学校6年生レベルの算数ができる人なら誰でも、投資してもらうのは不可能だ。


時間を稼ぐにしても、救ってくれる忠実な顧客層はいない。顧客はウーバーでなければならない、というこだわりを持っていないからだ。ウーバーには得意客への割引制度も支持すべき社会的な価値もない。顧客と運転手の間に絆が生まれることは好まない。ウーバーの常連だからといって誇りを持てるわけでもない。


希望する価格で目的地まで連れて行ってくれる限り、人々はウーバーを利用するだろう。だがもっと良質なサービスや低料金を掲げる事業者が表れれば、さっさと乗り換えるはずだ。


2010年代版のドレクセル?


ウーバーが潰れた後の惨状は、想像するのも難しい。ベンチャーキャピタルやケイパーのような個人投資家からマイクロソフトやシティグループなどの大企業に至るまで、多くの関係先が同社に出資している。従業員は1万1000人(運転手を除く)で、大半がシリコンバレー周辺に集中し、新オフィス建設のために2億5000万ドルを注ぎ込むところだ。それらがすべてパアになれば、昨年の大統領選で民主党が味わったのと同じくらい強烈な自尊心への鉄拳が、今度はシリコンバレーを襲うかもしれない。


ウーバーは短期間で見事な仕事を成し遂げた。オンデマンドの配車サービスという新しい市場を創造し、定義を作り、今も独占している。人々の暮らしを変え、都市交通の未来に対する考え方を一新した、歴史に残る重要な企業だ。その功績を、カラニックや彼の仲間から奪える者などいない。


配車サービスは不滅


だがウーバーは企業としての欠陥も露呈した。これに匹敵する前例といえば、カラニックがまだ小学生だった1980年代に(なんと彼はまだ40歳だ)米証券ドレクセル・バーナム・ランバートの事件だ。


伝説の投資家マイケル・ミルケン率いるドレクセルは、債券市場でジャンクボンド(高利回り債券)を開拓して市場を支配。ウォール街と企業の関係を永遠に変えた同社は、スーパースターになった。だが異常なまでに成果を求める企業体質が災いし、従業員は最終的に刑事訴追されるほどのリスクを取った。結局同社は、ウォール街の頂点を極めてから数年で倒産に追い込まれた。ミルケンは証券詐欺の罪で刑務所に入った。


ドレクセルが作り上げたカテゴリーは健在だ。同社が姿を消した現在も、ジャンクボンドは1兆ドル規模で取引されている。


ケイパー夫妻はウーバーを存続させるため、企業文化を創り直すようカラニックに圧力をかけている。もし同社が約束を実行し、アップルやアマゾンのような企業に肩を並べられるなら素晴らしいことだ。だが不祥事を積み重ねるたびに、ウーバーは2010年代版のドレクセルに似てくるようだ。



ケビン・メイニー


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