オランダ極右党首に巨額献金する「トランプ一派」の思惑とは

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2017年03月15日 16:03  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<欧州の注目選挙の先陣を切って実施されるオランダ総選挙を前に、トランプ政権と親密な米保守派が極右党首のウィルダースに巨額の献金をしていたことが発覚>


15日にオランダで実施される総選挙に注目が集まっている。


なぜかと言うと、まず昨年6月にイギリス国民が国民投票でEU(欧州連合)からの離脱を決め、続いて昨年11月にアメリカの大統領選挙で、排他的で内向き志向のドナルド・トランプ大統領が誕生したからだ。


今年欧州では、オランダ総選挙、フランス大統領選、ドイツ連邦議会選挙と注目選挙が続く。イギリスやアメリカで見られたEU懐疑論や反エスタブリッシュメント(反既得権益層)感情、さらに移民をめぐる不安感を利用するポピュリズム(大衆迎合主義)といった「潮流」が欧州にも波及するかどうかが注目されている。


その最初の試金石となるのが、このオランダ総選挙だ。


そして欧州では、昨年から今年にかけて、選挙にからんだある懸念が持ち上がっている。国外勢力による選挙への介入だ。


国外勢力の選挙介入には、昨年の米大統領選の前例がある。プーチン大統領率いるロシアの政府機関が、米民主党にサイバー攻撃を仕掛け、トランプを「援護射撃」する目的で介入したとされている。大統領選に敗れたヒラリー・クリントン陣営も、このサイバー攻撃が敗因の一つだったと述べている。


また当時トランプ陣営が、ロシアとつながっていた可能性も浮上し、それがきっかけとなってトランプ政権のマイケル・フリン大統領補佐官が先月13日に辞職している。


こうした状況下でオランダは大丈夫か――と懸念する声があったのだが、総選挙を目前に控えて、オランダではサイバー攻撃とは違う別の「介入」問題が話題になっている。


アメリカの右派がオランダの選挙に干渉している事実だ。


【参考記事】極右政治家ウィルダースはオランダをどう変えるか


いくつかの大手メディアによれば、アメリカ人の「右派活動家」であるデービッド・ホロウィッツが、オランダの選挙で台風の目になっている極右政党・自由党のヘールト・ウィルダース党首に多額の寄付をしていたことが判明した。その額は、2015年から合計15万ドルにも上り、2015年だけを見るとオランダ国内の個人寄付としては最高額だった。


ホロウィッツとは一体何者なのか。彼は数多くの著作がある保守的な作家・評論家で、自分の名前を冠したシンクタンクの理事を務めている。特筆すべきは、トランプ政権の側近らと、極めて親密な関係にあることだ。


例えば、トランプを裏で操る人物とすら言われているスティーブン・バノン首席戦略官兼上級顧問や、現在偽証疑惑で窮地にあるジェフ・セッションズ司法長官、さらに政策担当のスティーブン・ミラー大統領補佐官とは自らその蜜月ぶりをアピールしている。ミラーについては、自分が彼を育てたと言わんばかりだ。


また、バノンがトランプ陣営に加わる前に運営していた極右サイト「ブライトバート」に今も頻繁に寄稿している。


反イスラム移民など排他主義的な言動で騒がれていたウィルダースを、わざわざアメリカから支援するのは、ホロウィッツにしてみれば自然なことだったらしい。もともと公然と排他的な立場を取ってきたホロウィッツは、ウィルダースの極右路線に共鳴している。


以前のインタビューでホロウィッツは、「ウィルダースは、欧州のポール・リビアだ」と称賛し、「言論の自由を守るという現代の最も重要な戦いにおいて、彼こそが時代の英雄だ」と述べている。(ちなみにポール・リビアとは、アメリカの独立戦争前に、ボストンでイギリス軍の奇襲を監視した愛国者として語り継がれる人物)


ホロウィッツ側は、寄付金は政治活動のための支援金ではなく、ウィルダースがヘイトスピーチなどで裁判になっていた件の費用を援助するためのものだったと言い訳をしている。


ただ政治資金として記録されている以上、この言い訳には無理があるし、逆に怪しさが残る。ちなみにイスラムに対して否定的な他の有名アメリカ人歴史家も、裁判費用としてウィルダースに金を援助していることが分かっている。


他国の選挙に干渉するというのは、言うまでもなく主権侵害だ。アメリカの偏った思考の人たちが他国の政治家を金銭面で支援するのは、2016年の米大統領選を操作しようとサイバー攻撃を行なったロシアと、根本的には同じ考え方だと言えるだろう。オランダは政治資金の規制が緩いために、こうした事態が起きているという指摘もある。


【参考記事】欧米で過激な政党が台頭する本当の理由


では、目前に迫ったオランダ総選挙で、ウィルダースは議席をどこまで増やせるのか。


もともとオランダではいくつもの小規模な政党による連立政権になることが多く、今回の選挙でも、150議席をめぐって、8つの小さな政党がそれぞれ10議席程度を獲得すると見られている。


現状ではウィルダースの自由党と連立政権を組みたい政党がないために、仮に自由党が議会で第1党になっても、政権を取る可能性は低い。他の政党が連立を組んで過半数の議席を獲得してしまう見通しだからだ。


それでも、自由党がこれまでにない躍進を見せるだけでも、昨年からの「潮流」が続いている証となり、4月に控えているフランス大統領選に勢いを引き継ぐ可能性はある。


そうなれば、アメリカのトランプ一派がほくそ笑むことになるだろう。



山田敏弘(ジャーナリスト)


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  • オランダの極右とは、何を目指すんだ? とりあえず、異教徒排除か?
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