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【「本屋大賞2017」候補作紹介】『蜂蜜と遠雷』――天才ピアニストたちがしのぎを削る青春小説

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2017年03月27日 18:14  BOOK STAND

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写真『蜜蜂と遠雷』恩田 陸 幻冬舎
『蜜蜂と遠雷』恩田 陸 幻冬舎
 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2017」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは恩田陸著『蜂蜜と遠雷』です。

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 ピアニストたちが各々の才能を国際ピアノコンクールで発揮し合い、優勝を目指して奮闘する極めてシンプルな筋書きの本書。しかしながら、コンクールに挑む緊張感を追体験できるほど、登場人物たちの葛藤や人生といった複雑な背景がリアルに描かれています。

 本書の舞台は、「ここを制した者は世界最高峰のS国際ピアノコンクールで優勝する」といわれる、3年毎に開催される芳ケ江国際コンクール。近年の覇者は"新たな才能"として音楽界を揺るがす存在となっているだけに、何としてでもその座に就きたい若き天才たちがぶつかり合います。主要メンバーは4人。あなたは誰に感情移入して応援しますか?

 本書の主人公である16歳の風間地理。養蜂家の父を持ち、各地を転々としていたため自宅にピアノを持っていない特殊な境遇でありながら才能は抜群で、関係者に付けられた愛称は"蜂蜜王子"。学歴、コンクール歴がないにもかかわらず、伝説的なピアニストだった亡きユウジ=フォン・ホフマンに見いだされ、コンクールの推薦状では風間の演奏を「劇薬」と称しており、「『ギフト』か『災厄』か」と言わしめたほどです。

 続いて、かつて"天才少女"として名を馳せた栄伝亜夜、20歳。国内外のジュニアコンクールを制覇し、CDデビューするほどの実力を持ちながら、13歳のとき母の死をきっかけにピアノを弾けなくなり、長らく音楽界から姿を消していました。そのため名字の"栄伝"を「栄光を伝える」ではなく「栄光を断ったピアニスト」として"栄断"と揶揄されていましたが、母の死を受け止め、指導教官の勧めで再び表舞台に立つことを決意したのです。

 そして、優勝候補と目されるペルー日系3世のマサル・カルロス・レヴィ・アナトール、19歳。名門ジュリアード音楽院に通い、その完璧な演奏技術と音楽性から「VICTORY(マサル)とDUST(塵)じゃ最初から勝負あった」と審査員から評価されるほど。そんな、マサルがピアノと出会ったのは日本。そこで「キラキラした大きな目に長い真っすぐな黒髪」の女の子からピアノのレッスンに誘われたことがきっかけでした。その女の子の正体とは...。

 他の人物たちとは対照的な存在として描かれる高島明石、28歳。図抜けた天才少年だったというわけではありませんが、音大出身でそれなりに将来を嘱望され、現在は妻子持ちのサラリーマン。「音楽のみに生きる者だけが尊敬に値するのか」「生活者の音楽は、音楽だけを生業とする者より劣るのだろうか」とかねてから疑問を抱えてきた彼は、音楽家として最後のキャリアとなる今回のコンクールにすべてをぶつける戦いに挑みます。

 こうしたキャラクターたちが抱える思いや魅力がそれぞれ際立ちながら、第1次から3次予選、そして本選までの熾烈な戦いが繰り広げられることになります。ただし、本書の魅力はそれだけではなく、文字で音楽を表現する試みも挙げられます。

 「森のどこかで斧を打ち込む音が響く。規則正しく、力強いリズム。叩く。叩く。腹の底に、森の中に響く振動。心臓の鼓動。太鼓のリズム。生活の、感情の、交歓の、リズム。」(本書より)

 とはいえ、多くの人にとって文字だけでは楽曲をイメージすることは難しいことでしょう。作中で登場人物たちが奏でるバッハやモーツアルト、ベートーベンなどの楽曲が実際にプレイリストとして公開されているので、合わせてチェックすると理解が深まるはずです。

 "四者四様"の生き様が交差する物語。誰がコンクールを制覇するのかまったくわからないワクワク感と緊張感を味わうためにも、決して"ラスト1ページ"だけは先に開かないことをオススメします。


『蜜蜂と遠雷』
著者:恩田 陸
出版社:幻冬舎
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