免疫グロブリンと結合した「マクロTSH」
睡眠の質が甲状腺刺激ホルモン(TSH)の構造に影響を及ぼすことを、兵庫医科大学内科学講座の角谷学助教、小山英則主任教授らの研究グループが発表しました。この発見で、睡眠障害と肥満や糖尿病などの生活習慣病をつなぐひとつの道筋が明らかになり、新薬開発に結びつくことが期待されます。
TSHは、血液中の甲状腺ホルモン値に応じて脳下垂体から分泌されるホルモン。甲状腺機能低下症で甲状腺ホルモン値が低下すると分泌量が上昇し、反対に甲状腺機能亢進症では減少します。まれなケースとして、免疫グロブリンと結合した血清TSHが代謝を受けずに高濃度で血中に滞留する「マクロTSH血症」という病気があります。従来、マクロTSHはマクロTSH血症患者にしかないと思われていましたが、今回の研究でマクロTSH血症ではない患者の血清にも多く含まれていることが明らかになりました。
同大学では2010年から、睡眠や疲労、自律神経機能といった神経内分泌学的機能が糖尿病やメタボリックシンドロームなどの発症にどのように関与しているかを明らかにするため、コホート研究を行っており、現在1,000人以上の患者を追跡しています。研究グループは、このうち甲状腺疾患がない314人の血清TSHを解析しました。
睡眠障害のバイオマーカーに
解析の結果、血清TSH値が正常範囲にもかかわらず、ほぼ全ての患者の血清にマクロTSHが含まれていることがわかりました。さらに別の解析法により、マクロTSHはほかのタンパク質と結合していない遊離型のTSHと比べて、糖鎖構造が大きく異なることも判明しました。
また、マクロTSHの高値は、アクティグラフで評価した睡眠の効率や質の悪化を表す指標と有意な関連を示すこともわかりました。このことは、睡眠障害がTSH分子の糖鎖構造変化に影響し、血清でマクロTSHを形成する可能性を示しており、高次脳機能がTSHを調節するメカニズムに影響している可能性も示唆しています。
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マクロTSHが睡眠の質と深く関連していることがわかったことで、マクロTSH値が今後、睡眠障害を判断するバイオマーカーになることも考えられます。研究グループでは「血清TSH値の評価に甲状腺機能だけでなく、睡眠障害などの影響を考慮する必要があることも示しており、神経内分泌学的見地だけでなく、内分泌臨床においても極めて重要な知見」としています。(菊地 香織)
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