R&D系オフィスの新潮流、マイクロソフトのBuilding 44に潜入!

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2017年03月31日 19:23  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ワシントン州シアトル郊外、マイクロソフト本社のBuilding 44には同社のクラウドサービス部門が入居している。そこは「ネイバーフッド」の概念が持ち込まれ、部署単位で最適化されたオフィス。チームごとの個性を最大化する、そのワークスペースを訪れた>


マイクロソフトが試みる「ネイバーフッド」の現在[Microsoft]


[課題]  独創的なサービスを生み出す


[施策]  部門ごとの個性を活かしたネイバーフッド


[成果]  フレキシビリティと革新性を持った新しいラボへ


ワシントン州シアトル郊外、レドモンドの街にあるマイクロソフト本社は、さながら 1つの街だ。約72万平方メートルもの広大な敷地に100棟を超える大小のオフィスビルが立ち並び、社員たちは皆シャトルバスで移動する。


今回取材したのは、なかでも同社クラウドサービス部門が入居する「Building44」。「独創的なサービスを作るためのオフィスはどうあるべきか」という問いに対するマイクロソフトの答えが、ここにはある。


キーワードは「ネイバーフッド」。一言でいうなら部署単位で最適化されたオフィスだ。2004年以来、同社はワールドワイドで「ワークプレイスアドバンテージ」に取り組んでいる。これはビジネスの変化に適した働き方を実現するオフィスのグローバルスタンダードだ。


R&D部門は顔を合わせて仕事をしたほうが成果が出る


結果「フリーアドレスを導入することでオープンスペース化し、部門間のコラボレーションを促す」スタイルのオフィスが各地に誕生、ワークプレイスの世界的な潮流となった。しかし「ネイバーフッドは、それとは完全に異なるモデルです」と同社グローバル・ワークプレイス・ストラテジストのマーサ・クラークソン氏。


「客先に出向くことが多い営業系の部門のオフィスはオープンになっていますが、R&D系の部門は席が決まり、皆がフェイス・トゥ・フェイスで仕事をしたほうがいい成果が出ると考えています」(クラークソン氏)


1980年代の半ばには、個室を持つのがソフトウェア開発には最も適しているとされていた。しかし時代を経て、商品開発がスピードアップすると状況は変わったという。


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部門ごとに好きなセッティングを実行できるのが特徴だ。各人が好みで変化をつけるのもいいし、チームで統一してもいい。天井のシャッターを下ろせば空間を隔てることも可能で、人数増減のフレキシビリティも確保されている。


部署ごとにチームルームが与えられ、どう運用するかは一任される。ミーティングルームにしてもいいし、プロジェクトルームとして使うのもいい。手前の小さなエリアは電話会議などをするためのフォンルーム。


遊び心のあるカリグラフィなどが壁やドアにさりげなく施されている。


居心地の良い空間にするため、壁や天井の色・テクスチャにこだわったという。


チームスペースのドアにはワーカーの手によるデコレーションが施される。


部署ごとに異なるデザインを採用、それぞれの個性を可視化させる


「『ほかの人が何をしているか』理解することが大事になったのです。個室に分断されていると難しいですが、みんなが隣にいればより簡単です。ちょっとチェアを移動させて『これどう思う?』と意見を聞けますし、わざわざミーティングをセッティングする必要もありません。ドアが閉まってばかりのオフィスではエナジーも感じない。それではコミュニティも出来ないでしょう。ただし20チームも一緒になる必要はありません。1つの大きな場所に何百人も集まっては気が散りますからね」(クラークソン氏)


部署間の壁を取り去りオープンであろうとするのではなく、むしろ部署ごとに全く異なるデザインを採用することで、それぞれの個性が可視化され、凝集性が高まる。ネイバーフッドの狙いはこれだ。


個別に「どんなスペースが必要か」打ち合わせを重ねた結果、ある部署では壁に馬の首を模したオブジェが掛けられ、ある部署はシンプル極まりないデザインにまとめられた。色も質感もまちまちだ。各部署には「フォーカスルーム」が割り当てられ、用途を含めカスタマイズが可能だ。立ち会議室にするチームもいれば、ゲームルームに作り替えたチームもあるという。


他部署とのつながりを促すソーシャル・スペースを設置


部署ごとの個別最適を追求すると境界線上に調整しきれない箇所が生じるが、必要に応じてガレージシャッターで部署間を隔てることでカバーした。


「これによって部分最適とフレキシビリティを両立出来ます。プライバシーがあると同時に自分のチームとの所属感もあります。こうした効果は初めから分かっていたわけではありません。柔軟に対応できる壁を作るにはどうしたらいいのか。空間を仕切るには、どんなものが適しているのか。多くは運用の中で学んだことでもあります」(クラークソン氏)


他方、他部署とのコネクションを維持するソーシャルな機能をもったスペースを各所に配した。通路に面したスペースにキッチンやフォンルームを設けオフィス内に賑わいを供給する。


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(左)エントランス脇から垂直に延びる階段。同社クラウドサービス「azure」にちなんだ青のカラーリング。上下階のコミュニケーションをつなぐ。(右)キャンパス内はかなりの広さ。建物間の移動にはシャトルバスが使われる。巡回するシャトルバスは、シアトル市内のバスの数を上回るほどだ。


部署ごとにデザインされるチームスペースの一例。ソファやテーブルなどのファニチャーは設計の段階でリクエストすることができる。


受付にはマイクロソフト製デバイス「キネクト」を使い、人の動きにあわせて動くアートが展示されていた。


大人数での情報共有、ミートアップイベントなどに使えるスペース。普段はテーブルフットボール台やミニバスケットゲームなどが置かれ、リラックスエリアとして使われる。


プライバシーが欲しいとき、作業に集中したいときはワークエリアから離れて作業する。


新たな企業文化の理念を具現化したようなオフィス


明るいエントランスと、そこから垂直に延びる青い階段も象徴的だ。マイクロソフトが提供するクラウドサービス「アズール(azure/イタリア語で青の意)」にちなんだカラーリング。その明るい雰囲気は従来の企業イメージを一新する。「ワォ、これがマイクロソフトなんですか? と来訪した方が驚くほど」(クラークソン氏)


この変化は2014年にサトヤ・ナデラCEOが就任してからのこと。ナデラCEOが打ち出すメッセージをもとに、新たな企業文化が築かれようとしている。すなわち「ほかの人と一緒に仕事をしよう(Use the work with other people)」「仕事を分け合おう(Share the work)」「助け合おう(Help other people)」「共に成功しよう(Be successful)」。ネイバーフッドも、これらを体現する手法だと言える。


「当社には『人間味(humanized)』というカルチャーがあります。私たちは人間にあわせたスケール、プロポーションの環境をつくりたい。マイクロソフトは厳しいルールがある会社ではありません。自分で自分をマネジメントできますし、好きなところで仕事をしてもいいのです。でもR&Dの部署の人間は、みなここが好き。仕事もよりよく進むのです」


創業:1975年


売上高:約778億4900万米ドル(連結/2013年)


純利益:約218億6300万米ドル(連結/2013年)


従業員数:9万9000人(2013年)


http://www.microsoft.com


コンサルティング(ワークスタイル):自社


インテリア設計:ZGF Architects


WORKSIGHT 09(2016.4)より


text: Yusuke Higashi


photo: Kazuhiro Shiraishi


メイン動線に設けられたキッチンスペース。チーム間のコミュニケーションを誘発する。別棟にあるカフェテリアでは様々な国の料理を楽しめることでキャンパス内のワーカーをつなぐ。


(左)フォーカスルーム。部署ごとに割り当てられるチームルームのコンパクトバージョンだ。この部屋はソフトライティングで座っていて居心地のいい空間になっている。(右)ソーシャルエリアの様子。ここはカフェ風なデザインになっている。


グローバル・ワークプレイス・ストラテジストのマーサ・クラークソン


※当記事はWORKSIGHTの提供記事です






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