米中会談、アメリカの目的は中国の北朝鮮「裏の支援」断ち切り

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2017年04月06日 07:23  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<4月6日からトランプと習近平の首脳会談が行われるが、議題となる北朝鮮問題でアメリカが望むのは、中国に北の核開発を阻止する努力を約束させることばかりではない>


4月6日と7日の両日、アメリカのトランプ大統領と中国の習近平国家主席はフロリダ州のトランプ氏の別荘で初会談を行う。この会談を前に、北朝鮮はまたぞろ中距離弾道ミサイルを発射してみせた。今回の発射はミサイルに核を搭載する技術試験ではないかと目され、北朝鮮が核開発の技術を一層向上させていることが推測される。


今回の米中首脳会談では喫緊の課題として北朝鮮問題が主要な議題となることはまちがいないが、トランプ大統領自身が「非常に難しい」議論になる見込みだとツイートした通り、現時点で米中両国が速やかに一致点を見いだし、「ウィンウィン」の関係になれるとは、到底考えにくい。


では、北朝鮮問題におけるアメリカ側の真の目的とはなにか。なにをもって会談の「成果」とするのだろうか。それは北朝鮮の核開発で中国に対して積極的に制止する努力を約束させることばかりではない。それ以上に重要なことは、中国が暗黙裡に行っている「裏の支援」を断ち切ることにある。


「裏の支援」とは、中国の多数の金融機関や企業が北朝鮮のマネーロンダリングに加担し、北朝鮮の核開発を実質的に支えていることである。この資金源を断ち切れば、北朝鮮は即座に資金に行き詰まり、核実験やミサイル開発がとん挫することは必定だからである。


ブッシュ政権時代には、米国政府は北朝鮮への制裁措置として、マカオのバンコ・デルタ・アジア銀行に金一族が持つ2500万ドルの資産を凍結したことがある。


世界の他の銀行はアメリカの金融システムから排除されることを恐れて北朝鮮との取引を自主的に停止し、北朝鮮は資金繰りに行き詰まり、ミサイル部品の購入などができなくなったことから、米国に措置の解除を懇願した。米国政府はライス国務長官(当時)らの強い要請により、北朝鮮に対して非核化を条件に、2007年、銀行口座の凍結を解除した。


だが、北朝鮮はこの約束を反故にして、今日にいたるまで核実験やミサイル開発をくり返し実施してきた。その間、中国はアメリカの金融システムに依存しない一部の銀行を介して、北朝鮮との金融取引を続行してマネーロンダリングを助長し、北朝鮮への「裏の支援」を行ってきたという経緯がある。


昨年9月、オバマ政権下で、米国政府は中国遼寧省丹東市の貿易会社「遼寧鴻祥実業発展有限公司」と創業者の富豪の女性・馬暁紅ら4人を、北朝鮮の光鮮銀行と組んで核開発のための禁止部品の輸出とマネーロンダリングを行っていたとして刑事告訴し、米財務省の要請でこの公司が中国に持つ25の銀行口座を凍結して、米国企業との取引を禁止した。馬暁紅も中国で逮捕された。


しかしながら、この公司は創業者の逮捕によって看板は外されたものの、未だに地下に潜って活動を続けていると目されている。


「裏の支援」を行う金融機関は多数ある


問題は、中国の「裏の支援」を行う金融機関が光鮮銀行以外にも、多数あるという点だ。博訊ネット(2017年4月4日付)によれば、国連安保理のプロジェクトチームが2月27日に発表した研究報告では、国連が北朝鮮に対する制裁を強化した後も、北朝鮮の金融機関は依然として国際金融システムの中で非合法な銀行業務を展開し、その多くが中国との金融取引であるという。


例をあげれば、平譲にある国際武道銀行は人民元の決済銀行として、人民元建て預金口座と融資、送金業務を行っている。同じく平譲にある国際連合銀行(The International Consortium Bank)はマレーシア企業とパートナーシップを組むグループ企業だが、北朝鮮の中央銀行から営業許可を受けて、外貨取引と企業融資を実施し、顧客数は世界に5200万人いるとされる。


北朝鮮の羅先経済特別区に開設された中華商業銀行は、2013年に中国の大連市のグループ企業との間で設立された合弁銀行で、中国と北朝鮮の貿易取引の融資を行い、役員会主席は中国丹東市の金取引所の事務所主任が兼務。中国の内モンゴルの国際貿易有限公司との合弁でできた華麗国際商業銀行はロシアと内モンゴルのレアメタル取引と融資を実施。また香港の旺福特有限公司が延辺に設立した東大銀行は、預金内容を中国政府にも北朝鮮にも報告義務がない完全な独立銀行である。


その一方、北朝鮮独自の銀行は光鮮銀行以外にも、大同信託銀行、大成銀行、東方銀行の3行が中国の丹東、大連と瀋陽に事務所をもち、米国から危険人物として名指しされている金哲三(Kim Chol Sam)が2006年から大連事務所の所長に就任。登記上は別会社だが、登記上の責任者で名前が酷似した金鉄三名義で、大量のドル送金や百万ドル単位の現金取引を行っているほか、彼が北京に開設した柳京商業銀行の顧客リストの中には、北朝鮮の武器商人も含まれている。


これらの金融機関の多くは平譲と北京に本支店を開設し、核開発やミサイル製造のための部品輸入やマネーロンダリングを行っているとみられ、ニューヨークにも銀行口座がある。


米中首脳会談では、おそらくトランプ大統領は習近平主席に対して、韓国への高高度防衛ミサイル(THAAD)の配備を巡る米中間の緊張緩和と引き換えに、こうした北朝鮮への「裏の支援」を断ち切るよう強く迫るはずである。あるいは世界貿易機関(WTO)協定上の「市場経済国」として認定するかわりに条件交渉をするかもしれない。


もし中国による北朝鮮への「裏の支援」を断ち切ることができれば、アメリカは北朝鮮の核の脅威に対して有効な手段を得たことになり、米中首脳会談の真の「成果」のひとつとなる。米中両国の貿易不均衡という目に見える交渉事の一方、水面下でそうした交渉と妥協策も同時に進行するにちがいない。


【参考記事】中国、絶体絶命か?――米議会までが中国に北への圧力強化を要求


【参考記事】サイバー銀行強盗の背後に北朝鮮が


[執筆者]


譚璐美(タン・ロミ)


作家、慶應義塾大学文学部訪問教授。東京生まれ、慶應義塾大学卒業、ニューヨーク在住。日中近代史を主なテーマに、国際政治、経済、文化など幅広く執筆。著書に『中国共産党を作った13人』、『日中百年の群像 革命いまだ成らず』(ともに新潮社)、『中国共産党 葬られた歴史』(文春新書)、『江青に妬まれた女――ファーストレディ王光美の人生』(NHK出版)、『ザッツ・ア・グッド・クエッション!――日米中、笑う経済最前線』(日本経済新聞社)、その他多数。新著は『帝都東京を中国革命で歩く』(白水社)。




譚璐美(作家、慶應義塾大学文学部訪問教授)


このニュースに関するつぶやき

  • そうだね、中国は陰で“北”のミサイル支援していたからねぇ...それで今更飼い犬に尻を咬まれて右往左往という。...“終近平 is Finished!”ですか?(笑)
    • イイネ!4
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