シリア情勢、北朝鮮情勢に対して米世論が冷静な理由 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2017年04月11日 15:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<シリアと北朝鮮をめぐる情勢は緊迫しているがアメリカ世論は至って冷静。シリア空爆以降、トランプ政権がこれ以上の軍事行動に出ることはない、という見方が広がっているため>


トランプ政権は、先週6日にシリアのアサド政権の空軍基地を突如空爆した一方、同時に行われていた米中首脳会談を終えると、北朝鮮危機に対処すべく、空母USSカールビンソンを母艦とする空母打撃群を朝鮮半島に向けて派遣しています。


シリア情勢も、北朝鮮情勢も、「風雲急を告げている」ようなのですが、週明けのアメリカでは、実はどちらのニュースも関心が薄れつつあります。例えば、今週10日月曜の夕方のニュースのヘッドラインは、


(1)カリフォルニア州の小学校へ担任の夫が乱入して銃で無理心中を図り、生徒が巻き添えで負傷


(2)アラバマ州のベントレー知事が公金を使った不倫隠しが露見して辞任


(3)ユナイテッド航空が、オーバーブックしたフライトから降機指名した乗客を強制的に引きずり出して、ネットで大炎上


というニュースが上位に来ています。この中で(1)は、起きた場所がサンベルナルディーノ市という、2015年末に14人が犠牲になったテロ事件の舞台だったこともあり、また惨事の起きた教室が特別支援学級だったこともあって衝撃が走っていますので、トップ扱いになるのは分かります。


ですが、(2)や(3)というのは、それぞれに「ひどい」事件ではあるものの、緊迫した国際情勢に比べて、「今、どうしてこの事件が?」という疑問を感じるのは事実です。とにかくシリアについても、北朝鮮についても、週末を挟んだことで関心が薄れているのです。


【参考記事】「軍事政権化」したトランプ政権


まずシリア情勢ですが、空爆の直後は衝撃が走ったものの、その後の動向を見てアメリカの世論には「これは深刻な事態にはならない」という、安堵感のようなものが出てきています。


一つには、ロシアの反応に一種の「抑制」が見られることです。ロシアは、攻撃を受けたアサド政権と密接な関係がありますから、アメリカの空爆を強い口調で非難しています。ですが、その非難は「少し遅れて」発信されていますし、そもそも空爆の直前にトランプ政権はロシアに対して「事前通告」を行っており、結果としてロシア兵に被害は出ていないことも報じられています。


もう一つ、ロシアとの関係では、イタリアでのG7外相会議でティラーソン国務長官とロシアのラブロフ外相の会談が行われるのに続き、そのティラーソン長官がモスクワを訪問する予定を「キャンセルしていない」ことがあります。本稿の時点では、ティラーソン長官とプーチン大統領の会談が行われる見通しから、全体として米ロ関係が危険なほど悪化することは「なさそうだ」という見方が広がっています。


米ロ関係が大破綻に陥らないというのは、別に悪いニュースではありません。ですが、その一方で、「空爆は一回限りのもので、アメリカはアサド政権を政権交代に追い込むことはできないだろうし、しないだろう」という見方が出てきています。


もっと言えば、トランプは「空爆をしたことで、オバマとは違う果断なリーダーシップを見せつけた」つもりかもしれませんが、反対に今回の空爆が「これ以上のことは不可能だし、する気もない」ことを明らかにした一面もあります。


一部には、今回の空爆に反対した「アメリカ・ファースト」主義者のスティーブン・バノン首席戦略官の影響力が低下しているという報道があります。それは事実かもしれませんが、一方で、今回の空爆という行動が起こした後の現在も、依然としてトランプのアメリカが「グローバルな世界とは距離を置き、アメリカのことだけを考えて閉じこもっている」という点では、そんなに変化していないのかもしれません。


【参考記事】シリア攻撃 トランプ政権の危険なミリタリズム


例えば、ティラーソン国務長官は「シリア空爆は北朝鮮へのメッセージだ」というようなことを「わざわざ説明して」います。そのようなメッセージ性というのは、言わなくても伝わるものであって、それを「わざわざ口に出して言う」ということ自体が、空爆という行動が国際社会に与えたインパクトが速やかに薄れつつあることの証明だとも言えます。


北朝鮮に関しても同様です。これは推測の域を出ませんが、フロリダにおける米中首脳会談では、北朝鮮に対する「現状の枠組みは維持」しながら、「これ以上の核開発をさせない」ように最大限の政治的圧力をかけることで、相当のレベルで米中が合意したように見えます。仮にそうであれば、空母打撃群の行動も抑止目的に限定されたものであり、アメリカの世論としては「すぐに危機が到来するものではない」という感触なのでしょう。


米軍のシリア空軍基地への空爆は、衝撃的な軍事行動でした。ですが、週明けのアメリカの世論は極めて平静です。そのこと自体は、例えばシリアという国、あるいはシリア人に対する無責任な側面はあるものの、アメリカの世論としては「トランプ政権がこれ以上の危険な賭けに出ることはなさそう」だと見ている、そう判断して構わないと思います。



このニュースに関するつぶやき

  • おおむね、その通りじゃないかな。ただ、シリアはもう少し違う展開があるかも。
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