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<日本の30代〜40代の読書率が、21世紀に入ってからの10年間で大きく下がっている。全国地域別の調査でも読書実施率の低下は顕著で、まるで日本では「知の剥奪」が進んでいるようだ>
「働き方改革」をどう実現するかが社会的課題となっているが、先月の福井新聞に次のような文章が載っていた。ブラック企業問題に取り組む、福井県の弁護士の談話だ。
「長時間労働で疲弊した人は新聞を読む気力もなく、物事を深く考えなくなる。少しの情報だけで自分の意見を決める。それが世論になってしまう。欧州では家族で食事をとりながら会話をしたり、広場やカフェで自由に議論をしたりする。時間に余裕があるかどうかは、民主主義の成熟と深く関わっている可能性がある」(福井新聞、2017年3月20日)。
日々の仕事に精一杯で、知識の「肥やし」を得ることができずにいる、日本の労働者の現状を言い当てている。この記事では新聞に触れているが、国民の読書の頻度も減ってきている。その傾向は、働き盛りの年齢層で顕著だ。
過去1年間に、自発的な趣味として読書をした人の割合の年齢カーブを描くと<図1>のようになる。2001年と2011年の折れ線グラフを比べてほしい。
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どの年齢層も、この10年間で読書の実施率が下がっている。この中には電子書籍による読書も含まれるので、スマホなどの機器の普及が原因ではない。電子書籍を含め、本を読む人が減ってきている、ということだ。
グラフから分かるように、働き盛りの層で減少幅が大きい。30代後半では55.1%から44.2%と、10ポイント以上も低下している。長時間労働ゆえに、本を読む余裕がなくなっているのだろう。
【参考記事】「残業100時間」攻防の茶番 労働生産性にまつわる誤解とは?
人手不足の影響からか、この10年間で平均労働時間は増えている。2011年のデータによると、40代前半の男性就業者の平均労働時間は、平日1日あたり10時間を超える。また、35〜44歳の男性就業者の5人に1人が,1日12時間以上働いている(総務省『社会生活基本調査』)。
育児と介護が重なる「ダブルケア」の問題も生じている。晩婚化の影響で、この年齢層にも子育てに手がかかる小さい子供がいる家庭が多く、年老いた親の介護との「ダブル」の負担がのしかかっている。
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ちなみに今世紀以降、国民の読書実施率マップの色も、全体的に薄くなってきている。<図2>は、10歳以上の県民のうち過去1年間に趣味として読書をした人の割合を表した都道府県地図だ。
全国的に「知の剥奪」が進んでいる、と言ったら言い過ぎだろうか。都市部で相対的に読書実施率が高いのは、書店や大きな図書館が多いからだろう。
国を挙げて、読書を推進する取組が進められているが、現実はこの通りだ。とりわけ働き盛りの層で読書離れが進んでいるのだから、モノ言わぬ労働者が増えていることが数値的に示されている。こうした現状のなかで、やりたい放題のブラック企業がはびこることになる。
【参考記事】書店という文化インフラが、この20年余りで半減した
まとまった分量(深み)のある本を読まず、スマホのネットニュースで短いタイトル(リード文)だけを見て、自分の考えを決めてしまう。モノを深く考えない国民が増えることは、政治の方向を誤らせることにも繋がるのではないか。
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この傾向が次世代にも受け継がれるとしたら、甚だ恐ろしい。無知とは恐ろしいことで、知識を得るための学習は権利であることを子供たちに教え、政府は国民の学習権を保障する条件を整えなければならない。労働時間の短縮は、そのなかでも特に重要な項目の一つだ。
<資料:総務省『社会生活基本調査』>
舞田敏彦(教育社会学者)
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