クックパッド、豚ユッケなど「危険なレシピ」…プロ責法から考える「運営者の責任」

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2017年04月18日 10:53  弁護士ドットコム

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蜂蜜入りジュースを与えられた生後6カ月の乳児が死亡したというニュースをきっかけに、ユーザー投稿型レシピサイトの安全性に注目が集まっている。サイト内で「蜂蜜 離乳食」などと検索すると多くのレシピがヒットするためだ。


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特に最大手の「クックパッド」は、「蜂蜜 離乳食」で100件以上のレシピがヒット。乳児の死と直接の関係はなさそうだが、ネットで物議を醸した。これを受け、同社は4月9日、レシピの再確認や一層の注意喚起を行う旨の声明を発表。しかし、その後も生肉を使った「豚ユッケ」「豚肉タルタルステーキ」(いずれも投稿者が削除)など、健康被害を招きかねないレシピが発見され、余波が広がった。


もし、こうしたレシピが原因で健康被害を受けてしまった場合、サイトや投稿者の責任は問われるのだろうか。田中一哉弁護士に聞いた。


●サイト管理者の責任が問われるのは「権利侵害」が起きたとき

「結論から言うと、クックパッドの法的な責任を問うのは難しいでしょう」。田中弁護士はこう答える。その理由は、クックパッドが情報の発信者ではなく、情報発信のための場を提供しているに過ぎないからだ。


サイト管理者の責任は、「プロバイダ責任制限法」で定められている。責任が問われるのは大きく分けて2つ。(1)他人に対する権利侵害が起きていることを知っていた(または知り得た)場合と、(2)管理者自身が情報を発信し、権利侵害をした場合だ。つまり、通常のユーザー投稿のレシピでは、クックパッドの責任は問われない。


では、問題のあるレシピがあったとして、投稿者に何らかの罰則が科される可能性はあるのだろうか。


「これも極めて困難です。レシピを投稿する行為と健康被害との繋がりが希薄だからです。プロバイダ責任制限法も、このような『情報の流通自体から権利侵害が生じていない』ケースには適用されないと解されています」(田中弁護士)


どうやら法的に見ると、レシピの利用は「自己責任」ということのようだ。


●誹謗中傷やデマ、著作権侵害などの場合は、責任を問われる

過去の裁判例では、誹謗中傷などの掲載を理由に2ちゃんねるに賠償命令が下ったことがある。サイトの信用問題という点では共通する部分もあるが、法律的に見て、クックパッドの場合とどこが違うのだろうか。


「デマや中傷文言が投稿されたケースでは、『投稿内容が被害者の権利を侵害するか』が主な争点になります。権利侵害であれば、先に述べた通り、管理者がそれを把握できただろうと認められれば、責任を負うことになります。権利侵害は著作権侵害なども含まれます。


一方、レシピの場合は、『レシピと健康被害との間に因果関係があるか』が争点です。不法行為の成否が問題になりますが、こちらはプロバイダ責任制限法には抵触しません」


●「WELQ」騒動後のサイト管理者はどうあるべきか?

昨年起きたDeNAの健康サイト「WELQ」の騒動以来、特にユーザー投稿型(CGM)のサイトの信憑性が問題視されることが増えた。仮にプロバイダ責任制限法に違反していなくても、道義的責任を果たすよう求める声は強い。


「クックパッドの一件も同一の流れにあると言えます。素材や製造過程などに向けられていた、『食の安全』に対する目が、食に関わる情報流通にまで波及してきた。今後、安全性への要求はより強くなっていくのではないでしょうか。


ただし、CGMはインターネットが生み出した最も素晴らしい成果の1つだということも忘れてはいけません。誰でも自由に情報発信できる場の成立は、私たちの生活を確実に豊かにしました」


では、今後、クックパッドも含めCGMサイトなどの管理者はどういう点に注意すべきなのか。


「事前にすべての情報をチェックすることは不可能でしょう。現行法も、CGM運営者に、投稿内容を予めチェックすることを求めていません。そのような調査の義務づけは、かえって情報の流通を阻害し、CGMの長所を損なう可能性があるからです。


ただし、ある程度の網をかけることは可能です。思想や表現行為に対する事前規制と異なり、投稿内容によっては、正誤や適否を客観的に判定できるものもあるからです(レシピなどはその例でしょう)。このような『規制すべきコンテンツ』と『すべきでないコンテンツ』を見分ける賢さがサイトの価値を左右することになるでしょう」


実際、クックパッドによると、同社には公開されたレシピをチェックする部門があるのだそうだ。主な業務は、利用規約やガイドラインに照らし、投稿者に注意したり、レシピ内に注意喚起ページへのリンクを貼ったりすること。悪意があるものや著しく問題があるものについては、投稿者に連絡の上、非公開とする場合もあるという。同社は今回の騒動を受け、チェック体制をより強化するとしている。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
田中 一哉(たなか・かずや)弁護士
東京弁護士会所属。早稲田大学商学部卒。筑波大学システム情報工学研究科修了(工学修士)。2007年8月 弁護士登録(登録番号35821)。現在、ネット事件専門の弁護士としてウェブ上の有害情報の削除、投稿者に対する法的責任追及などに従事している。
事務所名:サイバーアーツ法律事務所
事務所URL:http://cyberarts.tokyo/


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