肩透かしに終わった米中「巨頭」会談

1

2017年04月20日 10:54  ニューズウィーク日本版

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ニューズウィーク日本版

<注目されたトランプと習近平の初首脳会談だが、シリア爆撃の影響もあり目立った話題はなし?>


肩透かしに終わった――。今月初めにフロリダ州で行われた、ドナルド・トランプ米大統領と中国の習近平(シー・チーピン)国家主席の初会談をひとことで表現すると、そうなるだろう。トランプはかねて中国を刺激する発言を繰り返してきただけに、習との「初顔合わせ」に世界中が注目していた。


ところが習が到着したその日に、アメリカはシリアを爆撃。世界の目は一気にそちらに移ってしまった。だが、米中関係とは無関係に見えるシリア爆撃は、結果的にトランプ政権から中国(と世界)に明確なメッセージを送ることになった。


トランプと共にフロリダ入りしていたレックス・ティラーソン米国務長官は、シリア爆撃は、アメリカが化学兵器使用を許さないという世界への「警告」だと語った。つまり必要とあらば、トランプ政権は武力行使をいとわないという意思表示だ。そこに北朝鮮を牽制する意図があるのは間違いない。


だが、シリア爆撃はトランプとの初会談を意義深いものにして、その成果を中国国内にうまくアピールしたかった習の意気込みも打ち砕いた。


【参考記事】習近平は笑っているべきではなかった――米国務長官、シリア攻撃は北への警告


トランプがホワイトハウスやキャンプデービッドではなく、フロリダ州パームビーチの別荘に外国首脳を招くことについては、アメリカ国内で大いに批判されてきた。だが習との会談に関しては、必ずしも悪いことではなかったようだ。中国で汚職追放運動を進めてきた習を居心地の悪い立場に置いたのだから。


実際、トランプの豪邸マールアラーゴは、中国側にとって理想の会談場所とはいえなかった。習はこれまで「質素な愛国者」というイメージを打ち出してきたのに、きらびやかな邸宅でくつろぐ写真が配信されるのはまずい。習の側近は、習とトランプがゴルフをする案を却下したとされる。


だが、米中貿易に関するトランプのタフな発言と、朝鮮半島の不安定な情勢を考えると、習としてはこの首脳会談を何とか実現させたかった。そのためには、会場の設定など細かな部分で中国側の要望が通らないのは我慢しなければならない。


そんな習に対して、トランプは硬軟織り交ぜた対応を見せた。空港への出迎えはティラーソンに任せ、メディアの前でも当初は、習が満面の笑みを見せたのに対して、トランプはよそよそしく見えた。それでも夕食会に入ると会話が弾み、最終的には、習と「とてもいい友達になった」とトランプは評し、その関係は「最高だ」と語った。


だが、中身はなかった。会談前は、中国が北朝鮮にもっと圧力をかけて行動を自重させるべきだと、トランプが習に厳しく要求するとみられていたが、それらしい話はなかったようだ。海洋安全保障の領域でも、突っ込んだ話し合いはなかったらしい(ただしトランプは、中国による南シナ海の軍事化と東シナ海の不安定化に不満を表明したとされる)。


放置できない重要課題


首脳会談後、トランプと習が共同記者会見を開くこともなかった。代わりに会見したティラーソンは、要するに米中両国が「意見が一致しないことで一致した」ことを示唆した。


「トランプ大統領は、習国家主席と中国がアメリカの取り得る措置についてアイデアを出すことを歓迎し、中国側と喜んで協力する旨を伝えた。ただ、それが中国側に問題を生じさせることをアメリカは理解しており、両国が連携できない場合は、単独行動を取る用意がある」


この展開は決して意外なものではない。これまでトランプは何かと中国を厳しく批判してきた。それも対米貿易黒字や「為替操作」から、北朝鮮への圧力、南シナ海における軍事活動など幅広い。大統領就任を目前に控えた段階で、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と電話会談して、中国を挑発したこともある。


これに対して中国は辛抱強く様子見の姿勢を維持してきた。そしてついに、トランプは管理可能という判断を下したようだ。理由は主に3つある。


まず、蔡との会談後の騒ぎを受け、トランプはアメリカの歴代政権と同じく、「一つの中国(台湾は中国の一部である)」という中国の公式見解を尊重する姿勢を示すようになった。


【参考記事】トランプから習近平への「初対面の贈り物」


第2に、2月末に訪米した中国外交トップの楊潔篪(ヤン・チエチー)国務委員が、トランプをはじめ複数の政府高官と会談して、米中首脳会談の早期実現に向けた地ならしに成功した。


第3に、先月半ばに訪中したティラーソンが、中国に対して驚くほど柔軟な姿勢を示した。ティラーソンは、「非衝突・対立」「相互尊重」「ウィンウィン・協力」など、中国が新たな米中関係を定義するとき使う表現を、自ら口にさえした。


こうしたアメリカ側の奇妙な譲歩(意図したものではないかもしれないが)を受け、中国は、「アメリカは台湾や海洋主権など中国の核心的利益についても、従来の批判を引っ込める可能性がある」と結論付けた。


とはいえ、トランプ政権の矛盾するメッセージについては、アメリカ国内からも困惑の声が上がっている。中国専門家のほとんどは、中国の言葉遊びや「空約束」を真に受けるなと、トランプ政権に警告している。それに中国との関係では、言葉にならないことのほうが重要な意味を持つ場合がある。


また、中国との関係では1つや2つの問題だけに気を取られるべきではない。トランプが今回の会談で、北朝鮮と貿易をテーマにしたがっていたのは明白だ。どちらも重要な問題ではあるが、海洋安全保障やサイバー攻撃、中国軍の近代化といった重要課題を放置すれば、後で痛い思いをしかねない。


[2017年4月18日号掲載]



J・バークシャー・ミラー(本誌コラムニスト、米外交問題評議会研究員)


このニュースに関するつぶやき

ランキングトレンド

前日のランキングへ

ニュース設定