母乳に因子が含まれると予測
画像はリリースより
「腸内フローラ」という言葉をご存知ですか?人の腸内には善玉菌と悪玉菌、どちらにも属さない日和見菌など600兆個以上の細菌が生息しており、小腸から大腸にかけてそれぞれの細菌が種類ごとにグループを作っています。顕微鏡で腸内をのぞくと、まるで植物が群生する“お花畑(フローラ)”のように見えることから、腸内フローラと呼ばれています。
腸内細菌の種類や数は、年齢や人種、生活習慣などで異なるため、腸内フローラの状態も人によって違います。例えば、授乳中の赤ちゃんの腸管には善玉菌の一種である「ビフィズス菌」が優勢な腸内フローラが形成されますが、離乳と同時に消滅してしまいます。このことから、人の母乳にはビフィズス菌を増やすなんらかの因子が含まれていると予測されますが、メカニズムは解明されていません。
このほど、京都大学生命科学研究科の片山高嶺教授らの研究グループは、完全母乳で育てられた赤ちゃんの腸管内にビフィズス菌が優勢な腸内フローラが形成される仕組みの一端を解明。それに関わる母乳オリゴ糖の分解酵素「ラクト-N-ビオシダーゼ」の立体構造と機能を明らかにしました。
完全母乳の赤ちゃんで特に多く
研究グループは、ビフィズス菌のみが、人の母乳に含まれる母乳オリゴ糖を利用するための酵素を持っていることに着目。京都府内の助産院の協力を得て、完全母乳で育てた赤ちゃんと混合乳で育てた赤ちゃんの糞便を解析したところ、完全母乳の方がビフィズス菌の数とラクト-N-ビオシダーゼの遺伝子数が多いことがわかりました。
ラクト-N-ビオシダーゼは、母乳オリゴ糖に多く含まれる「ラクト-N-テトラオース」に作用する酵素。ラクト-N-テトラオースは、霊長類の中でも人の母乳にのみ多い成分で、ビフィズス菌は乳児に多く生息することから、人は乳児期にビフィズス菌と共生するという進化をとげ、それを支えたのが母乳オリゴ糖であることが推察されます。
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ヨーロッパなどでは人工的に合成した母乳オリゴ糖を人工乳に添加しようという動きがあり、母乳オリゴ糖のビフィズス因子としての機能が解明されたことで、科学的根拠に基づいた食品添加物や栄養補助食品の開発に弾みがつくとみられます。研究グループでは「乳児期にビフィズスフローラが形成されることの人にとっての生理的意義を理解するため今後も研究を続けたい」としています。(菊地 香織)
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