デモにシリアに内憂外患、プーチン大統領再選に暗雲か

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2017年05月08日 00:23  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ロシア大統領選を1年後に控えて大規模な反政府デモが発生。野党指導者ナワリヌイは「台風の目」になるか>


盤石と思われていたロシアで、プーチン大統領の足元が液状化してきた。


筆者が所用で首都モスクワに着いた3月下旬、数都市で不正蓄財など「メドベージェフ首相の特権乱用」に対するデモがあり、ロシア全土で1000人近くが拘束。4月3日にはロシア第2の都市サンクトペテルブルクの地下鉄で爆破テロが起きた。


親ロと言われてきたトランプ米大統領はシリアの化学兵器使用に対して、6日に空軍基地を爆撃。アサド大統領を守ってきたプーチンの面目をつぶした。


14年3月のクリミア併合、15年9月のシリア爆撃でオバマ前米政権の鼻を明かした「世界最強の指導者」プーチンは失速。アメリカが強腰に転ずれば、実はロシアに打てる手はないことを白日の下にさらけ出した。


ロシアはあと1年で大統領選挙がある。無風でプーチンが再選確実と思われていたシナリオはにわかに崩れた。きれいごとを国民に説教する裏で、特権を乱用する政権の二枚舌を世論は問題にしている。


【参考記事】大規模デモで始まったプーチン帝国の終わりの始まり


3月上旬、メドベージェフの特権乱用を糾弾するビデオがYouTubeに登場。その後、シベリア・トムスクでの抗議集会で12歳の少年が抑圧的な政治を批判したスピーチもYouTubeで100万人以上が見た。


集会参加者は口々に、当局は「回答」(ロシア語で「責任を取る」の意味も持つ)すべきだと言っているが、メドベージェフは答えない。代わりに地方の知事を不正で逮捕して、世論の目をそらすお決まりの小手先の工作を行ったが、逆に支持率は急落した。プーチン大統領に対しても、「回答」を迫る材料はいつでも出てくるだろう。


地下鉄テロも以前なら、これを契機に国内の締め付けを強めたものだが、今回はこれもしない。米軍のシリア爆撃についても御用系マスコミは一斉に非難を始めたが、ロシア政府はアメリカに対抗するより話し合う姿勢を崩さない。4月末に予定していた毎年恒例の「国民との直通問答」(全国からの質問に、プーチン1人が数時間にわたりテレビで答える)は数カ月延期。内外とも想定外のことが増え、政権は機能停止したかのようだ。


ソ連を知らない世代が20代後半になった今、社会と政治の潮目は変わる。ソ連のぬくぬくとした生活を知らない若者は、当時を知る老年世代のように「自由よりパンを」とはならない。石油収入を老年保守世代にばらまいて手なずけ、批判は締め付けて権力を維持する現在の政権には反感しか持たない。その上、お偉方が公私混同では、もうやっていられまい。


ペレストロイカと酷似?


モスクワはもう春。晴れると美しいし、生活は「便利で安全」になったと筆者の友人は言う。だから暴力デモなどする気はさらさらないが、政府の連中には責任を取ってほしいという。こんなまともな市民に「アメリカの陰謀」「イスラムテロ」などの脅しはもう賞味期限切れだ。


3月の抗議集会のように、ソーシャルメディアで自発的に集まられたら、当局は手の出しようがない。安定した生活と恐怖政治の後退で権利意識を増した市民――これは、85年にゴルバチョフ書記長がペレストロイカ(改革)を始めたときと酷似している。当時の「上」からの変化と違って今回は、下からの変化に上がかさぶたのように覆いかぶさっているが。


【参考記事】ロシアの地下鉄爆破テロに自作自演説が生じる理由


メドベージェフの特権乱用をビデオにした野党指導者アレクセイ・ナワリヌイは、知名度を上げた。今後は大統領選に向けて当局がナワリヌイに嫌がらせでもしようものなら、逆にその人気に火が付く。「特権を貪る共産党に抵抗して迫害された」というイメージを演出してのし上がったエリツィン元大統領の再来になりかねない。


こうして内政混乱となるのか、アメリカとの対決を口実に締め付けが進むか。どちらも日ロ関係にはマイナスだ。だが、「ロシアはいつも荒れ模様」と言われる。4月末の日ロ首脳会談も綱渡りでいくしかない。


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[2017.4.25号掲載]


河東哲夫(本誌コラムニスト)


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