フランス大統領選、勝者マクロンは頼りになるのか

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2017年05月08日 18:43  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<極右ルペンがフランスの大統領になるという悪夢は避けられた。では、ルペンを大差で破った中道右派のマクロンとは何者で、フランスとEUをどうするつもりか>


フランス大統領選の決選投票が日曜にあり、中道のエマニュエル・マクロン元経済産業デジタル相が極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン候補に圧勝。リベラルな社会と国際協調を重視する政策が、孤立主義や排外主義を掲げる極右を退けた。


仏内務省の集計(開票率99%)によると、マクロンの得票率は65%、ルペンは35%だった。


世界が固唾をのんで見守ったフランス大統領選は終わったが、今後フランスはどうなるのか。このマクロンの圧勝は何を意味しているのだろうか。


【参考記事】仏大統領選、中道マクロンの「右でも左でもない」苦悩


本当の戦いはこれから


去年はイギリスが国民投票でまさかのEU離脱を決め、アメリカの大統領選でも泡沫候補と思われていたドナルド・トランプが勝利した衝撃から、今回の仏大統領選でも何が起こってもおかしくない、という緊張感があった。事前の世論調査でいくらマクロンの優勢が伝わっていても、なかなか信じるのは難しかった。


【参考記事】マクロン新大統領の茨の道−ルペン落選は欧州ポピュリズムの「終わりの始まり」か?


だが実際は第1回投票が終わった時点で、中道右派のマクロンが大統領に選ばれる見通しは疑いようがなかった。彼が率いる政治運動「アン・マルシュ(前進!)」の支持者はずっと前から、本当に厳しい戦いの舞台は6月11日と18日に行われる国民議会(下院)選挙になると覚悟していた。


仏大統領の権限の多くは議会で首相の支持を必要とする。しかも首相の任命は大統領の政党単独で国民議会の過半数の支持を得られなければ、連立を組むしかない。マクロンが1年前に立ち上げたばかりの「前進!」は現有議席がゼロ。それが今や、国民議会定数577議席のうち過半数の289議席を占める必要がある。


【参考記事】フランス大統領選挙―ルペンとマクロンの対決の構図を読み解く


マクロンはそれが不可能に近いことを認めており、勝利演説の中で「真の多数派、強い多数派、変革のための多数派」を築くと誓った。


だがマクロンに敗れた対立候補たちも、そうした事情を心得ている。


中道右派の最大野党・共和党はフランソワ・フィヨンを大統領候補に選出したものの、選挙戦では妻子の架空雇用疑惑が足かせとなり、決選投票に進めなかった。フィヨンは、6月の国民議会選挙に向けた党内の指導的立場から退く意思を表明。けじめがついたと見るや、共和党はすぐさま国民戦線に対抗するホームページを立ち上げて存在感を見せた。


「屈しないフランス」という政治運動を率いた急進左派のジャンリュック・メランションは、第1回投票で敗退して以降も決してマクロンへの支持を表明しなかった。彼は決選投票の結果が出るとすぐにルペンの敗退を喜ぶコメントをした。マクロンについても、フランスの社会保障制度に「宣戦布告」するような「大統領君主」だと切り捨てた。


議会での戦いは、今回の大統領選と同じくらい激しくなりそうだ。


それでもルペンは強い?


ルペンと国民戦線にとって今に至るまでの道のりは長く、その過程で党内の亀裂も生まれた。


2011年に党首の座に就いて以来、ルペンは古臭い極右の党というイメージを振り捨てるため、国民戦線のイメージ刷新に精力的に取り組んだ。党内から反ユダヤ主義的な発言を締め出し、反移民の訴えと同じくらい声を大にして、大きな政府による経済政策を推進すると強調した。


だがすべての党員がルペンの手法を支持したわけではない。日曜のルペンの得票率は、2002年大統領選の決選投票で父親のジャンマリ・ルペンが獲得した17.8%の得票率の2倍には僅かに届かなかった。国民戦線は今後、ルペンの路線の正しさを証明できるほど、今回の得票率が高い数字か否かを見極める必要がある。


党内でルペンに異を唱える代表格が、姪のマリオン・マンシャル・ルペンだ。彼女は敬虔なカトリック教徒で、政府主導の経済政策よりも保守的な価値観により重点を置く。


日曜に仏テレビ局「フランス2」の番組に出演したマリオンは、大統領選から「教訓を学んだ」と述べ、党が唱えるユーロ離脱の実現可能性について、有権者を説得しきれなかった点を敗因の一つに挙げた。彼女は今後、党の現行路線に対して一層批判を強める可能性がある。


白けた有権者


フランスは伝統的に、自国の民主主義に熱心な国だ。投票日になると、アメリカを凌ぐ割合の有権者が投票に行く。大統領選となれば、投票率80%台というのが当たり前だ。


だから日曜の投票率の低さは衝撃的だ。世論調査会社イプソスが予測した今回の投票率は74%で、1969年以来最も低い。


しかも投票所に現れた有権者も皆が皆、熱狂していたわけではない。イプソスによると、マクロンに投票した有権者の43%は、ルペンの大統領選出を阻止するためだけに投票したという。


マクロンは勝利演説でその点も認めた。「実際に我々の考え方を信じていなくても票を託してくれたすべての国民」に語りかけ、それが正しい選択だったと確信させてみせると約束した。一方で明確な計画は示さず、「フランスを守るためにやらなければならないことをすべてやる」と誓うのみだった。


マクロン陣営としては、もし選挙戦で掲げた経済改革が軌道に乗れば、白けていた有権者も熱意を取り戻すと期待しているはずだ。だがそこにたどり着くまでには多くの戦いが待ち受けており、マクロンはすぐ国民にそっぽを向かれる恐れがある。


親ヨーロッパ票


フランスの三色旗が激しく振られるマクロンの集会では、常に多くのEU旗も共に振られていた。1年前、イギリス国民がEU離脱を決めた後、これはEUの終わり始まりではないかと考えた人もいた。だが日曜の投票は、EUはまだまだ終わっていないことを再び示した。


フランスを率いるマクロンは、ドイツと共にEUの頂点に立ち、EUの未来を形作る上で大きな役割を果たすことになる。


イギリスの政治家は、イギリスがEUと離脱のための条件交渉に入る前に、マクロンの立場を知りたがっている。これまでの言動から判断する限り、マクロンは対英強硬派で、イギリスはEUを脱することで何らかの罰を受けなければならないと考えいる。「私は強硬なイギリス追放派だ」と、彼はモノクル誌に語っている。


ロシアに対するEUの経済制裁を緩めることはなさそうだ。ロシア政府はマクロンの勝利を喜ぶまい。マクロンは決戦投票に残った4人の候補者のなかで唯一人、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との関係改善に反対していた。


同時にマクロンは、EUは改革すべきだと考えている。ユーロ導入国同士の連携を支持し、財政政策の調和を図るためにEU財政相も置くべきという立場だ。


盗まれたメール


米大統領選では、民主党候補のヒラリー・クリントン陣営や民主党のサーバーがハッカーに侵入されたというニュースが次々と、何日も、話題になった。


マクロン陣営も似たようなハッキング被害に合い、何者かがそこかだ盗み出された電子メールを電子掲示板に公開した。だが、効果は極めて限られていた。


一つの原因は、フランスの選挙管理委員会がメディアに対し、盗まれたメールの詳細を報道すれば刑事罰に問われることになると警告していたから。フランスの選挙法は、投票直前に選挙結果を左右しかねない政治的な報道をすることを厳しく制限している。


またマクロン陣営によれば、メールには本物に混じって相当数のまがい物も混じっていた。


だが投票が終わった今、ジャーナリストたちは改めてメールを隅から隅まで調べることだろう。もしスキャンダルの種がそこにあれば、総選挙の日までマクロンを苦しめることになる。


(翻訳:河原里香)



ジョシュ・ロウ


このニュースに関するつぶやき

  • マクロンなら毛糸洗いに自信が持てるんじゃないか?。冗談はさて置き。フランスは小党乱で立連体制だからね。その中でも国民戦線は孤立してる形だろ。それぞれの支持者が居るから極端は起きづらいんだろうね。現在、日米英仏の軍事協力体制が進んでるし、当たり障りの無い奴の方が有利だと思うよ。
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