【Vol.15 6代目・日産スカイライン2000RS】
排出ガス規制の対策にある程度の目処がついた1970年代終盤の日産自動車は、80年代に向けた高性能車の開発を本格的に推し進めるようになる。なかでも“走り”の伝統を持つスカイラインに関しては、開発陣も大いに力を入れていた。6代目となる新型スカイラインの開発主管は、初代モデルから設計に携わってきた櫻井眞一郎氏が務める。櫻井氏を中心とした開発チームは走りのスカイラインを復活させるために全精力を注ぎ、シャシーとエンジンの徹底的な進化や内外装のスポーティな演出、そしてアジャスタブルショックアブソーバーやドライブガイドシステムといった先進技術の導入を積極的に実施する。さらに、6代目のイメージリーダーに位置するモデルとしてS20型以来となる“4バルブDOHC”エンジンを搭載するスポーツグレードの設定を画策した。
■スカイラインの“走り”のイメージを再構築
新しい4バルブDOHCエンジンの企画は、旧プリンス自動車工業の本拠地だった荻窪工場(東京)の技術陣が参画しながら、日産のグループ会社である日産工機(神奈川県高座郡寒川町)をメインに設計・開発が進められる。基本レイアウトには排気量をボア89.0×ストローク80.0mmの1990ccとした直列4気筒を採用し、剛性を高めるためにディープスカート型のブロック形状を導入。肝心のヘッド機構は1気筒当たり吸・排気各2個、計4個のバルブを60度の角度で配し、2本のカムシャフトに組み付ける。さらにバルブ駆動は高回転時の追従性に優れる直打式を、カムシャフトの駆動にはベルトではなく2段式のタイミングチェーンを採用した。
赤いヘッドカバーにDOHC16VALVEの文字が躍る
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開発陣は内外装の演出にもこだわった。外装ではツートンのボディカラーに“4VALVE DOHC RS”のエンブレム、横桟基調のフロントグリル、丸型4灯のリアコンビネーションランプなどを装着して精悍さを強調。内装では3本スポークステアリングやバケットシートといったアイテムでスポーティ感を創出した。
■RSの登場は「羊の皮を被った狼」の復活と歓迎
4バルブDOHCのFJ20E型エンジンを搭載したスポーツモデルは、6代目スカイラインのデビューから2カ月ほどが経過した1981年10月に発売される。型式はDR30で、グレード名は「2000RS」。RSはレーシング・スポーツの略で、クルマの性格をストレートに表現していた。ちなみに、当時の日産スタッフによると「営業サイドなどからの要望で“GT-R”のネーミングの復活も検討されたが、DR30は新しいコンセプトのスポーツモデルで、しかも4気筒エンジンということで、最終的に新ネームのRSの採用が決定された」という。
キャッチコピーに「あの名車から、新しい名車が生まれた」と冠した2000RSは、車種展開でも注目を集める。2ドアハードトップのほかに、4ドアセダンを設定していたのだ。スカイラインで4枚ドアの本格スポーツ仕様が用意されたのはハコスカのPGC10型GT-R以来のことで、コアなファンからは「“羊の皮を被った狼”が復活した」と評された。
■伝説の“鉄仮面”は83年に登場
日産の4バルブDOHCユニットに対するこだわりは、自然吸気だけでは終わらなかった。次は量産車史上初の4バルブDOHC+ターボチャージャーの開発に取り組んだのだ。
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83年のマイナーチェンジでグリルレス&薄型ヘッドライトの独特の顔つきに。鉄仮面の誕生だ
出来上がったターボエンジンはFJ20ET型と称し、1983年2月にDR30型系スカイライン2000ターボRSに搭載されて市場に放たれる。キャッチフレーズは「史上最強のスカイライン」。FJ20ET型のパワー&トルクは190ps/23.0kg・mを誇った。
FJ20ET型エンジンの登場から半年ほどが経過した1983年8月、R30型系スカイラインのマイナーチェンジが実施される。このなかで2000RSシリーズは、スタイリングを大胆に変更。グリルレスのフラッシュサーフェスフードに薄型異形ヘッドランプ、大型エアダムスカート、大型前後バンパー、チッピングプロテクター&シルモール付きサイドシル、グレーメタリックのインナーベースを組み込んだスモークレンズカバー付き丸型4灯リアコンビネーションランプなどを装着し、スポーティ感をいっそう引き上げた。このモデル以降、2000RSはその独特な顔つきから“鉄仮面”と呼ばれるようになった。
赤と黒のツートーンがRSのイメージカラー
スタイリングのほかにも、2000RSシリーズは様々な変更を受けた。内装では可動式サイドサポート機構付きバケットシートや水平指針6連メーターなどを採用。さらにターボRS系の足回りには、205/60R15・89Hタイヤ+6JJ×15・スポークタイプアルミホイールを装着する。また、充実装備の最上級仕様としてRS-Xグレードを新たに設定した。
1984年2月になると、早くもFJ20ET型エンジンの改良版が登場する。ターボチャージャーの吸入空気の冷却系には空冷式のインタークーラーを装着。最大過給圧も0.53kg/cm2にまで引き上げた。また、各部のセッティングも変更し、低中回転域におけるトルクの増大やエンジンレスポンスの向上を実現する。
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水平指針の6連メーターでスポーティなコクピットを演出
■レースシーンに復活したR30型系スカイライン
R30型系は“走り”の伝統を回帰させたモデルとしてスカイライン史に刻まれる1台だが、もうひとつ、重要なトピックを提供したモデルでもあった。レースシーンへの復活だ。
1982年、スカイラインの名を冠したレースマシンが約10年ぶりにサーキットに登場する。車名は「スカイライン・スーパーシルエット(KDR30)」。フォーミュラカーのシャシーの上にR30型風のボディを被せた、当時のスーパーシルエット・カテゴリー(FIAグループ5)に属する競技車両だった。搭載エンジンはFJ20E型系ではなく、レース専用のLZ20B型2082cc直列4気筒DOHC+エアリサーチ社製ターボチャージャーで、パワー&トルクは570ps/55.0kg・m以上を発生する。スカイライン・スーパーシルエットは長谷見昌弘選手がステアリングを握り、1982年シーズンは2勝、1983年シーズンは4勝をマークした。一方で、改造範囲の少ない全日本ツーリングカー選手権のグループAでもR30型系スカイラインは大活躍。1986年シーズンでは、スカイラインRSターボCを駆る鈴木亜久里選手がシリーズチャンピオンを獲得している。
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