北朝鮮問題を解決するのはノルウェーなのか?

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2017年05月11日 18:23  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<米朝の緊張を憂慮してローマ法王がノルウェーの仲介による解決を提案。確かにノルウェーには世界各地の紛争で和平交渉を仲介してきた実績があるが>


4月末、テロ組織ISIS(自称イスラム国)によってキリスト教の一派コプト教の教会が相次いで爆破された事件を受けて、ローマ・カトリック教会の法王フランシスコはエジプトを訪問し、暴力を批判する姿勢を示した。


そんなローマ法王は4月29日、ローマに戻る特別機の中で記者会見を行った。アメリカと北朝鮮の緊張が「あまりにもヒートアップしている」と語り、「私は常に外交的手段で解決するようを訴えている」と主張した。そして交渉を仲介できる第三国として、ノルウェーを挙げた。


なぜローマ法王が、ノルウェーを名指ししたのか。その理由は、北欧の小国ノルウェーは世界各地で紛争を仲介してきた実績があるからだ。


昨年、南米コロンビアのフアン・マヌエル・サントス大統領がノーベル平和賞を受賞した。サントスは、1964年から政府と内戦を続けてきた国内最大の左翼ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)との内戦終結にこぎつけ、和平案に合意したことが評価されたのだが、この紛争の解決にノルウェー政府が関与していた。


【参考記事】中国とノルウェーの関係正常化、鍵は「ノーベル平和賞」と「養殖サーモン」


交渉は、2012年からキューバも巻き込んで行われた。ノルウェーの首都オスロで第1回の公式交渉が始まってから、ノルウェーの和平プロセス特使が5年近くにわたってコロンビア政府とFARCの間に立って、交渉を続けた。もちろんノルウェー以外にも様々な国がからんで内戦終結に向けた取り組みが実施されてきたが、最終的にはノルウェーの交渉力が大きかったと言われている。


ノルウェー政府は、コロンビアで見せたような、世界的な和平交渉をノルウェー政府の大事な役割だと考えている。特に1990年代から「和平仲介人」の乗り出し、1992年には中東和平問題の交渉を行って、翌1993年に「オスロ合意」を実現し、パレスチナ暫定自治政府の誕生の道筋をつけた。1996年には中米グアテマラの内戦で、政府と左翼ゲリラである統一組織グアテマラ民族革命連合(URNG)の和平協定調印に導き、36年続いた内戦を終結させた。


南アジアのスリランカでも、ノルウェーは26年にわたり続いたスリランカ政府と反政府武装組織「タミル・イーラム解放の虎」(LTTE)の内戦終結に重要な役割を担った。1983年に始まった内戦だが、1997年からノルウェーが関与して停戦に合意を実現した。またフィリピンでも、政府とフィリピン共産党など反政府勢力との和平交渉に関わっている。アフリカでは、スーダンや南スーダンの混乱にも深く関与してきたし、そのほかにも世界の紛争で存在感を見せている。


なぜノルウェーはあちこちの紛争に首を突っ込むのか。


そもそもは学者など外部から政府に交渉が持ちかけられたりするなかで、交渉に乗り出すようになり、オスロ合意など実績を積んでからは各地から声がかかるようになったという。そしてその交渉術は「ノルウェーモデル」と呼ばれるようになっている。


その特徴は、長い目で密接に関係を作り、自らの利害を排除し、重要人物とNGOなどを結びつけることだと言われるが、実際には交渉に際しての柔軟性こそがノルウェーモデルだという声もある。またアメリカなどのような大国ではないので、紛争当事者たちも安心して交渉に望めると分析する専門家もいる。


ちなみにノルウェーはノーベル平和賞も担っている。基本的にノーベル賞受賞者はスウェーデンのノーベル委員会によって決められるが、平和賞だけはノルウェー・ノーベル委員会が決める。その選考委員会のメンバーは、ノルウェーの議会によって任命されている。そんな平和の使者のような印象の一方で、NATO(北大西洋条約機構)のメンバー国として、内戦状態のリビアなどに軍を派兵し、多くの爆撃を実施している。


【参考記事】文在寅とトランプは北朝鮮核で協力できるのか


ではそんなノルウェーが北朝鮮の核問題で仲介役となれる可能性はあるのか。実際2006年に、ノルウェー紙で北朝鮮政府が核開発問題で国際社会との仲介を求めたと報じられたことがあった。また現在、北朝鮮のサッカー代表チームの監督は、ドイツなどで活躍した元ノルウェー代表のヨルン・アンデルセンが務めている。


ノルウェーと北朝鮮がなんらかの形で接触を取れるようなことになれば、アメリカとの緊張緩和に向けた交渉の糸口になれるかもしれない。サッカーの代表監督から繋がる可能性もなくはない。


そしてノルウェーが絡んで休戦中の北朝鮮とアメリカが和平合意すれば、金正恩・朝鮮労働党委員長とドナルド・トランプ大統領が仲良くノーベル平和賞を受け取るという「歴史的」な光景が見られる、なんて冗談みたいな話が起きる可能性も否定はできない。


ただ現実にはその可能性は限りなく低いだろう。アメリカや日本だけでなく、中国やロシアなど利害と思惑がからみあう大国がにらみを利かす中での仲介は相当に困難なものだ。北朝鮮が仲介をノルウェーに持ちかけたとされるのは、故金正日総書記の時代のことで、いくらスイス留学経験がある金正恩でもノルウェーに仲介を要請するようなことは考えにくい。


残念ながら、ローマ法王のアイデアは現実的ではないと言わざるを得ない。


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山田敏弘(ジャーナリスト)


このニュースに関するつぶやき

  • どうりで、平和賞だけが違和感だと思った。朝鮮人の仲介をできる国家は恐らくないよ。だって、後で必ず恨まれるからw
    • イイネ!23
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