SUGEEE!けどトゥーマッチ…10歩先を行ってしまう技術大国ニッポンの悲しさ

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2017年05月12日 11:00  citrus

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■後発の米国技術に負ける、先発の技術オタク日本の悲哀

アップルのiPhone5Sに指紋認証が搭載された頃、2ちゃんねるで流行ったコピペがあります。
 

Apple「iPhoneに指紋認証つけたよ! 使ってみて!」
ユーザー「きゃーかっこいいー! 素敵ー! 抱いてー!」
富士通「あの……僕の方がArrows(アンドロイドスマホ)で先に指紋認証つけてたんですけど……」
ユーザー「は? ダッセェこっちくんな、発熱でもしてろ」(当時Arrowsは充電池の発熱トラブルが多発していたため)


また、その後こんなコピペも流行りました。
 

最近のスマホ、実はSONYよりも富士通がパクられてる

富士通「指紋認証つけました」

Apple「touch IDつけました」

富士通「画面が下に降りてくるようにしました」

Apple「画面が下に降りてきます」

富士通「感圧式タッチパネルをらくらくフォンに搭載しました」

Apple「感圧式タッチパネルをiPhone6s / Plusに搭載しました」

富士通「目を認証に使う虹彩認証つけました」 New!! ←今ここ


iPhoneよりも前に、同じ先進技術を搭載し商品化しているのに、全く話題としての規模も市場からの歓迎度も異なる、かわいそうな富士通。テックにファッション性をまとった派手なスター(米国マインド)と、自己アピールが苦手で地味な技術オタク(日本気質)の典型ケースのような明暗に、涙を誘われたのは私だけではないでしょう。

そう、日本企業はどうもテック・ギーク(技術オタク)であり、海外企業のような派手なマーケティングの陰に隠れてしまう。携帯テレビや電子マネーなど、日本が早すぎて海外が10年ほど経って追いつき、しかも後発の方がウケるというケースは珍しくありません。日本ってば、ついオタクマインドを追求して10歩先を行ってしまい、時代に早すぎて勝機を逃しまくる子なのです。


■英国人「なんでお尻を洗うの? 拭けばいいじゃない!」温水洗浄便座のニーズ、全否定

先日、欧州に日本発の「トイレ革命」を起こそうと、TOTO、LIXILが温水洗浄便座をひっさげ、いよいよ欧州での市場開拓に本腰を入れ始めたと伝えられました。

LIXILの瀬戸社長が「文化的な下地はあり、欧州でも浸透する可能性は高い」と語るように、広い化粧室に便器とビデが据えられるなど、トイレの豪華さやデザインのこだわりには定評のある欧州文化。以前スイスと英国に住み、欧州中を旅行で回るなどしていた私は、特にドイツデザインのトイレのスマートさや機能性には惚れ惚れし、「きゃぁ素敵!? 日本に帰国したら、自宅トイレをドイツメーカーの製品でリフォームしよう」と夢見ていました。

ただ、欧州には悲しいくらいに温水洗浄便座が存在しなかったのです。そりゃ日本特有だって知ってたけどもさ、そんな完膚なきまでに存在しないだなんて思わなかったわけですよ。で、日本で洗い慣れた暮らしをしていたもので、欧州に移ったばかりの頃はいまいち気持ちが悪くて、スーパーで探したらあるんですねぇ、「お尻拭き用ウェットティッシュ」! まるで赤ちゃんのお尻拭きがそのまま大きく分厚くなったような、ちゃんと大人用のお尻ふき、使用後は水に流せます。「コレだっ!」。周りの日本人にレコメンドしまくりました。

ところが……。温水洗浄便座って、ないならないで体が、いやお尻が慣れていくものなんですよ。欧州のトイレって、もともと家屋自体が石とかレンガとか漆喰とかで出来ているので、トイレも寒々しいんです。だから初めは、「ここに温水洗浄便座があれば、暖かくて清潔なのになぁ……」なんてふるさとに思いを馳せましたが、寒々しいトイレに何年も体が慣れると、トイレとはそういうものだと思うようになる。ヒヤリぺたりと冷たいお尻拭きで十分、シャワーで十分と思うようになるのです。

当時、日本に住んだことのある英国人女性と、温水洗浄便座の話をしたことがありました。「あれ、すごいわよねー、ザ・日本の技術って感じするわ」と彼女。でも、「ロンドンであれをつけようとすると、大変なのよね。新たにトイレに専用電源を設置しなきゃいけないし、電気代や水道代も気になるわ。だから結局、こっちではつけてないわよ。気になるなら拭けばいいのよ!」。そう、電気代や水道代を気にするエコ思想が強く、頻繁に水不足や配管漏れ、配管詰まりが起こるインフラの古い欧州では、温水洗浄便座はとても贅沢をしているように思えるようで、「トゥーマッチ(やり過ぎ)」なのです。

それで先ほどの話に戻りますが、私も「日本に帰国したらドイツデザインのスマートでシンプルなトイレにしよう!」と決めていました。

さらにところが! 帰国すると「ふぉぉ、温水洗浄便座最高〜〜。もうキミなしでは生きられない、一生いっしょだよ☆」と手のひらクルー(返し)ですよ。リフォームは「デカくてゴツいドイツ製品なんか要らねー」と、痒いところに手の届く細やかな機能満載の日本のパナソニックでオールセレクトしました。

思うに、この手のひら返しはまさに「郷に入れば郷に従え」なのですね。日本では、豊富な水資源や止まらない電力供給のおかげで、水も電気も潤沢に使える(ように思える)。そして、カラッとした気候の欧州と違って湿度が高いので、体を清潔に保つ必要も需要も高い。温水洗浄便座は、日本だからこそ、一般の庶民の暮らしにも浸透して80%の普及率を誇るわけなのです。


■日本製品がガラパゴスたる理由は、ガラパゴスマーケティングだから

日本の製品開発は、もともと日本が人口1億3000万人の大きめの市場であることや日本語という分厚い語学的障壁も手伝って、基本的にマーケット照準を国内に定めていて、初めからまず世界で売るためのプランニングはあまり見られません。はなっからガラパゴス内で使うことを前提としているのです。

すると日本の場合、ガラパゴスの中で消費者も進化しているので、教育が行き届きすぎてボトムラインが高い。洗練された技術を、どんなに田舎のおじーちゃんおばーちゃんでも日常的に使いこなすのが普通という土壌があるので、例えばまさかの「電子レンジで猫チン事件」──濡れた猫を電子レンジで温めて乾かそうとしたアメリカ人のようなトンデモ事件(都市伝説との噂もありますが…)──が起きにくいのです。すると、商品開発をする側にとってはそういうテクノロジー慣れしたレベルの高い消費者が前提となり、どこかそれに甘えて、先進技術を磨き続け、フツーの製品に最新技術を盛り盛り乗っけちゃうこととなります。日本の一般向け商品は、海外ではすでにハイエンド商品レベル。それが、世界の(フツーの、電子レンジで猫チンしちゃうような)市場ニーズとの乖離につながるのです。私はそれを、「先進技術の地産地消状態」と呼んでいます。

日本の技術は、もちろん世界では「SUGEEEEEE!」と思われてはいます。ほぼ魔法使いレベルとして、どんな不可能も日本人なら可能にすると冗談交じりに語られるほどです。日本のゲーム機などが海外の少年たちに夢を見せ、その彼らが日本に憧れて留学してきて、科学技術者となって日本で起業、なんてケースも多数。「便利〜」「国に持って帰りた〜い」。だから家電製品が爆買いされるわけですね。

インドネシアの高速鉄道建設入札のときも、技術はもちろん高かったのに「そこまでは今のインドネシアに必要じゃない」との理由で、結局中国に負けました。日本は、海外からは「いますぐウチらには要らないけれど、面白い」と思われ、生暖かく見守られて(一部からは憧れられて)いる、技術オタクなのです。

10年先の世界のニーズが、既に日本で供給されていること自体が、「不思議の国」と称される日本らしさでさえあるのかもしれません。ですからいま噂されている通りiPhone8に虹彩認証が採用されたら、みんなで富士通に向かって「よくやった」と手を合わせて拝みたいものですね。
 

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