ハンドスピナー大流行に教師は困惑 ADHDへの効果も実証されていない

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2017年05月17日 19:33  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<ADHDに効くというハンドスピナーの宣伝は科学的根拠はなし。持ち込み禁止に踏み切る学校もある話題のグッズ>


アメリカでブームに火が付き、社会現象にまで発展している「ハンドスピナー」。三角形の手のひらサイズで、用途はベアリングを「ひたすら回す」こと。アメリカの中学校では、くるくると回し続ける生徒が続出し、授業を妨げるとして問題視されている。


ハンドスピナーはそもそも、科学エンジニアのキャサリン・ヘディンガーによって90年代初めに発明されたが、爆発的にヒットしたのは最近になってから。昨年12月にフォーブス誌で「オフィスで使えるおもちゃ」として紹介されたのをきっかけに、米ソーシャルニュース掲示板のredditや、YouTubeで情報が広がった。宣伝文句にADHD(注意欠陥多動性障害)への効果をうたうプロモーションが多く、ADHDの子供を持つ親の関心を引き付けた。


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ADHDに効果ありは疑問


アメリカでは600万人以上の子供がADHDと診断されている。最近になってブームが飛び火した日本でも、アマゾンでハンドスピナーを検索するとADHDの症状を和らげる効果を強調するような商品説明が目につく。このほか、不安、自閉症にも効き目があるというので、症状で苦しむ人にとっては魅力的に見えるが、本当に効果があるのかといえば疑問だ。


デューク大学で臨床心理学を教えるスコット・コリンズ教授は「ADHDを患う人向けに販売されている他のゲームや製品がたくさんあるように、基本的には(ハンドスピナーの効果について)科学的証拠はない」と、米公共放送ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)でコメントしている。


さらにカリフォルニア大学デービス校神経発達障害研究所のジュリー・シュワイツァーも、ADHDの症状に効くという証拠はないとしている。地元紙の取材に、「確実に効果がないと言いきる訳ではないが、裏付けはない」と話し、「明らかなのは、気を散らすこと」と宣伝とは逆の効果がもたらされる可能性を示唆した。


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教育現場は混乱


こうした専門家の見解を裏付けるように、アメリカの中学校の教室ではハンドスピナーのせいで授業に身の入らない生徒が続出している。


オンラインメディア「WORKING MOTHER」は、4月21日付けで教育現場の教師の「ハンドスピナーは最悪だ」という意見を掲載した。多くの子供が両手にハンドスピナーを持って遊ぶため、授業中にノートを取ることができないという。ニュージャージー州の小学校教諭は「子供たちは鼻の上で回して遊んでいる」という教室の現状を明かした。


YouTubeより


学校側も「ADHDの子供の支援ではなく、気を散らせるだけ」というコメントを正式に発表。ニューヨーク州、イリノイ州、ケンタッキー州、インディアナ州などの学校で、ハンドスピナーの使用が禁止されたのをはじめ、他州でも何らかの規制を進める動きがある。


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対抗する子供たち


しかし大人たちに最新グッズを奪われた子供たちは黙っていない。デジタルネイティブ世代の彼らが、抗議の手段として選んだのはYouTube。自分の学校でハンドスピナーが禁止された男子児童が抗議動画を投稿すると、コメント欄は、同じ境遇の子供が書き込んだと見られる不満の声で溢れた。一度火がついたブームを抑え込むのは、なかなか難しいようだ。


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ニューズウィーク日本版ウェブ編集部


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