フィリピンが東南アジアにおけるISISの拠点になる?

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2017年05月29日 17:53  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<フィリピン南部のミンダナオ島でISIS系武装勢力が政府軍と交戦、マラウィ市を掌握した。ドゥテルテは戒厳令を敷き、戦争も辞さない構え>


フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は23日夜、南部ミンダナオ島全土とその周辺地域に戒厳令を布告した。同島南ラナオ州の州都マラウィ市で、ISIS(自称イスラム国)とつながりのあるイスラム系武装組織と政府軍の間で衝突が激化したからだ。


東南アジアにおけるISISの指導者と目されるイスニロン・ハピロンが潜伏するマラウィ市内でフィリピン軍が捕獲作戦を行った際、ISISに忠誠を誓うマウテグループの戦闘員らが政府軍に発砲して銃撃戦に発展。衝突により、周辺の住民に外出をやめるよう通達が出た。同市では27日以降、反政府勢力が病院や刑務所などを占拠している。


【参考記事】フィリピン南部に戒厳令  ドゥテルテ大統領が挑む過激派掃討


ドゥテルテが発動した戒厳令の対象地域は、ミンダナオ島全域に及ぶ。これにより司法権が一時的に停止されて、同島は軍の管理下に移行し、令状なしの逮捕や拘束が可能になった。ミンダナオ島はフィリピンで2番目に大きい島で、イスラム武装組織「アブサヤフ」や反政府組織「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)など多数の武装勢力の活動拠点になっている。フィリピンのアーネスト・アベラ大統領報道官は会見を開き、戒厳令の正当性を主張した。「ミンダナオ島の現状から反政府勢力が存在することは明らかであり、戒厳令を敷くのは妥当だ」


【参考記事】フィリピン過激派組織がISISと共闘宣言


戒厳令の期間は60日。ドゥテルテは以前から、イスラム系武装組織との闘争が続くミンダナオ島に戒厳令を敷くと公約していた。フィリピンは国民の大多数がキリスト教徒だが、2016年以降は同国南部が実質的な「ウィラーヤ」(イスラム国の支配地域)になるのではと懸念されていた。果たしてその可能性はあるのか。


マラウィで何が起きたのか?


ロイター通信によると、マラウィを掌握したイスラム系武装勢力は刑務所に火をつけて服役中の囚人を解放し、キリスト教徒を人質として拘束し、一部の建物に放火した。24日には数千人の住民が非難を余儀なくされた。


交戦に参加した武装勢力の中には、マレーシアとインドネシア出身の外国人もいた。同島のイスラム教徒自治区のムジブ・ハタマン知事は、ロイター通信の取材に対し、武装勢力はマウテグループのメンバーを含む107人の囚人を刑務所から逃がしたと語った。


ドゥテルテに随行してロシアを訪問中だったアベラは23日、ドゥテルテはこの問題に対処するため、5日間の予定だったロシア訪問の予定を切り上げて帰国すると発表した。


ドゥテルテは戒厳令下のイリガン市で26日、政府軍の兵士を前に演説した。「ISISはすでにフィリピン国内にいる」「私からテロリストに告げるメッセージは、今ならまだ対話を通じて事態を打開できるということ。もしお前たちに停戦の覚悟ができないならそれまでだ。戦争になるぞ」


【参考記事】アブサヤフのテロに激怒、ドゥテルテ大統領がまた殺害容認か


安全保障が専門のローハン・グナラトナはロイター通信に対し、今回の衝突を機にフィリピン政府は目を覚ますべきだと指摘した。「フィリピンの主要都市の1つをISISが掌握したことは、地域の治安と安定にとって非常に由々しき事態だ。ISISのイデオロギーが自分たちの国を浸食している事実を理解しなければならない。地元の武装組織がISISに変貌してしまったのだから。フィリピン国民は一致団結して立ち向かわなければならない」


ドゥテルテはミンダナオ島の最大都市ダバオの市長として頭角を現し、昨年の大統領選でフィリピンに安定と平和をもたらすという公約を掲げて勝利した。


ミンダナオ島のイスラム系武装組織の実態は?


ミンダナオ島は韓国と同じくらいの面積で、人口は2200万人。この島では近年、カリフ制国家の樹立を画策するイスラム系武装勢力がはびこってきた。


MILFはイスラム勢力による新自治政府の設立を目指す武装組織だが、40年以上紛争を続ける政府との和平達成に向けて和平協議に応じる姿勢を見せていた。


アブサヤフはISISと関係が深いとされ、フィリピン南部でイスラム国家の樹立を目指す反政府勢力を支援してきた。身代金目的の海賊行為や、外国人や地元住民を狙った誘拐や斬首などの蛮行で悪名高い。創設者のアブドラジャク・ジャンジャラニは、国際武装組織アルカイダの指導者だったウサマ・ビンラディンに感化されたとみられている。


ISISへの忠誠を誓うマウテグループを率いるのは、オマールとアブドラのマウテ兄弟だ。フィリピン紙フィルスターによれば、マウテ兄弟は中東地域で契約社員として働きながらイスラム神学を学び、「はたから見れば残酷で時代遅れも甚だしいタリバン流の司法制度」を普及させるためにフィリピンへ帰国した。


マウテグループには80〜100人のメンバーしかいないとみられている。フィリピンで活動する他のイスラム武装組織と比べれば取るに足らない数だが、イスラム過激派武装組織が扇動するハリーファ・イスラミア運動にも加わっているようだ。


懸念はフィリピンの若者の過激化


昨年9月にダバオの夜市で15人が死亡した爆弾テロや、同11月に首都マニラの米大使館付近に爆発物が仕掛けられた事件も、マウテグループの関与が疑われている。


マウテグループは麻薬取引に関与しているとみられており、今年3月にフィリピンのアルベルト・デラロサ国家警察長官は、同グループがマニラも拠点化したようだと述べた。


フィリピンのホセ・カリダ検事総長によれば、マウテグループとアブサヤフの目的は、ミンダナオ島でISISのカリフ国家を樹立すること。カリダはロイター通信の取材に対し、こう述べた。「キリスト教徒であれ、イスラム教徒であれ、彼らが異教徒とみなせば標的になる。憂慮しているのは、ISISがフィリピンにいる多数の若いイスラム教徒を過激化させていることだ」


(翻訳:河原里香)




エレノア・ロス


このニュースに関するつぶやき

  • いよいよロンドンやパリで起きたことが、対岸の火事ではなくなってきたかも知れない。アジアの中では一番欧米寄りで、テロに疎い国家は彼らにしたら愉快な標的だ。
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