【今週の大人センテンス】旭山動物園の坂東園長が語る動物の命に対する責任

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2017年05月30日 23:00  citrus

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巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第60回 親や先生の言葉に感じた「悔しさ」

 

「動物園は人間のエゴで作ったものだから、その罪は背負い続ける」by旭山動物園園長・坂東元

 

【センテンスの生い立ち】
北海道旭川市にある「旭川市 旭山動物園」。今年2017年7月1日に開園50周年を迎える。20年ほど前から始めた「行動展示」が話題になり、2006年、2007年には年間300万人以上の入園者を集めた。5月26日、AIRDOが運営するwebサイト「Yorimichi AIRDO」にアップされた坂東園長のインタビューは、動物の命とどう向き合うかや動物園とは何かということに深く踏み込んだ刺激的な内容で、大きな話題を巻き起こしている。

 

【3つの大人ポイント】

  • きれいごとや建前ではなく本音で話してくれている
  • 飼育している動物たちへの深い愛がにじみ出ている
  • ぶっちゃけた話を通じて動物園の魅力を伝えている

 

「うちは動物の臭いを隠さないし、動物が死んだことも隠しません。生まれたことを伝えるのに、死んだことを伝えないのはおかしいでしょう」


「(動物園の)理念は『娯楽』『教育』『種の保存』『調査研究』という4つの柱がありますが、全て欧米で作られた理屈です。動物園の存在を正当化するための理論武装ですよ」


「来場者数が年間200〜300万人のときには完全にキャパシティーを超えていましたね。(中略)このときは本当に辛かったです」

 

こんな過激な発言がポンポン飛び出します。きれいごとや建前ではなく、ぶっちゃけた本音を語ってくれているのは、今や北海道を代表する観光地のひとつ「旭川市 旭山動物園」の園長・坂東元さん。1961年旭川市生まれ。1986年から獣医師、飼育展示係として旭山動物園に勤務。一時は来園者が減って風前の灯火だったこの動物園を復活させる原動力になった「行動展示」の考案者で、副園長を経て2009年に園長になりました。

 

インタビューがアップされているのは、LCCのひとつである「AIRDO」が運営しているwebサイト「Yorimichi AIRDO」。インタビュー&原稿は人気編集者兼ライターの徳谷柿次郎氏。ワクワクドキドキの全文は、こちらからお読みください。


「年間300万人の大ブームは本当に辛かった」旭山動物園の園長がいま語る真実

 

動物園は「かわいい動物と触れ合える楽しくて癒される場所」であると同時に、「人間の都合で動物を檻に閉じ込めている場所」という一面もあります。人間と動物の複雑で矛盾だらけの関係を象徴している場所と言えなくもありません。ひたすら無邪気にノンキに楽しむのも、もっともらしい理屈とわかったような顔で非難するのも、どちらもちょっと違う気がします。

 

もちろん、運営の当事者でありもっとも身近で動物たちと接している動物園関係者が、ジレンマを抱えていないわけがありません。「朗らかとした楽しい動物園運営の話は一切ありません。あらかじめご了承ください」という前置きで始まるインタビューは、考えさせられることだらけ。たとえば、坂東園長は「例えばタヌキは『なんで俺はパンダに生まれなかったのかな』なんて悩んで生きてないでしょう?」と問いかけます。命は、どれも等しく尊いはず。ほかの命と比べて優劣を付けたがるのは、人間の悪い癖です。

 

大人の価値観を子どもに押し付ける危険性についても、警鐘を鳴らします。平成に入ってラッコブームが起きたころは、相対的にアザラシが不人気になりました。旭山動物園にはラッコはいませんでしたが、子どもは純粋な気持ちで好奇心をふくらませて、アザラシをずっと長いあいだ見ています。そんな子どもたちに対して、親や先生が言うのは「これラッコじゃないんだよ、ただのアザラシだよ。次に行こうね」というセリフ。

 

ある時、坂東園長はあまりにも悔しくて、そう言った先生を追いかけて「どこがただのアザラシなの?」と問い詰めたとか。ラッコはすごいけどアザラシはすごくないと考えるのは大人だけで、子どもにとってはそんな価値判断は関係ありません。また、しばしば「一番、人気のある動物はなんですか?」と聞かれますが、旭山動物園のスタッフは「一番なんてない」と思っていると言います。「旭山動物園の根っこの精神には、命を扱っている側が『これがすごいよ』と言ってはいけない、というのがあります」とも。

 

旭山動物園が「行動展示」で全国から注目を浴び、テレビでもバンバン取り上げられて、月間の入場者が上野動物園を抜いて日本一になった頃もありました。テレビでは空中散歩するオランウータンやホッキョクグマが飛び込む姿など、派手な映像ばかりが流されるので、それ目当ての人が大勢やってきます。しかし、ホッキョクグマは延々と飛び込み続けているわけではありません。当時は「一時間並んだのに飛び込まなかった」「宣伝と違う、詐欺だ」といった苦情がたくさん来たとか。

 

こうやってインタビューを読むと、ほとんどの人は「そんな苦情を言うなんてひどい!」と感じるでしょう。しかし、ひとつ間違えれば自分だって、動物や動物園に対して、観光客としての勝手な都合を押し付けてしまう可能性はあります。動物園に限らず、ペットにせよ食べ物にせよ、動物の命と人間としてのエゴや宿命の問題は、そう簡単に答えが出たり正解が見つかったりするものではありません。

 

最近も、イカの活き締めの動画に批判が集まり、批判が集まった現象に対してもっと多くの批判が集まるという出来事がありました。人を襲うクマの駆除や、クジラやイルカを捕ることに自信満々でケチを付ける人もいます。生き物や動物のことになると、どういう立場を取るにせよ、つい感情的に盛り上がってしまいがち。後から考えると「なんであんなこと言ったんだろう」と赤面したくなる反応をしてしまうことも少なくありません。

 

「動物園は人間のエゴで作ったものだから、その罪は背負い続ける」という言葉には、坂東園長の覚悟や謙虚さが凝縮されています。動物園のスタッフではなくても、私たちは誰もが「人間のエゴ」を背負いながら、動物といろんな関わり方をしています。坂東園長の話を噛みしめて、謙虚な気持ちを持つ大切さをあらためて自分に言い聞かせましょう。

 

その上で久しぶりに動物園に行けば、今までとは違う気持ちでいろんな動物を見ることができるに違いありません。ちなみに旭山動物園のキャッチフレーズは「伝えるのは、命」。開園50周年ということで、いつも以上にいろんなイベントが目白押しです。


【今週の大人の教訓】
すべてをさらけ出しているからこそ、魅力がより深く伝わる

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