豪華なドーナツ型新社屋はアップルの「墓標」になる?

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2017年05月31日 20:13  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<米ハイテクの時価総額ビッグ5のなかで、アップルだけが落ちこぼれる可能性が出てきた。豪華な新社屋を建てると社運が傾くジンクスも気になる>


アップル、アルファベット、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック──アメリカで最も時価総額の高い企業の上位5社(「ビッグ5」」だ。2025年までに、少なくとも1社がこのリストから消える確率が高い。


果たしてどこが消えるのか? 最有力候補は、総工費50億ドルをかけて宇宙船型ともドーナツ型ともいえる新本社を作り、入居を始めているアップルかもしれない。


アップルの今後の展望を「巨大建築コンプレックス」──本社を豪華にするほど成功から遠ざかる──という説を頼りに予想するのは、単純だが興味深い。


著名投資家のマーク・アンドリーセンは数年前、凋落しそうな企業を見分ける10の兆候を発表した。7番目に挙げたのは「豪華過ぎる新本社の建設に巨額のカネを注ぎ込むこと」。なぜ米小売り大手シアーズが、北米一の超高層ビルだったシカゴの旧本社を売却し、従業員を退去させる羽目になったのかも、このルールで説明できる。


だが、ビッグ5から脱落するのはアップルだと思う理由はもっと他にある。カギを握るのはデータだ。専門家がよく言うように、データはまさに未来の原油。データをいちばん多く集めた企業が勝ち残っていくのだ。


データがデータを生む


企業は集めたデータを機械学習用ソフトウエアに学ばせてさらに賢くすることで、顧客へのサービスを改善し、市場シェアを獲得し、データをさらに集める。


【参考記事】人工知能の未来を読みたければNVIDIAの動きを追え


データによるサービス改善のよい例としては、アマゾンがユーザーにおすすめ商品を表示したり、アルファベット傘下のグーグルが検索順位を決めるアルゴリズムを常時更新することが挙げられる。


市場シェアを奪った企業は、さらに多くのデータを収集し、機械学習用ソフトウエアはどんどん賢くなり、勝ち組と負け組企業の差がさらに広がる。ひと握りの米テクノロジー企業を寄せ集めた市場価値が、イギリス一国のGDP(国内総生産)を上回るほどまで成長した背景には、この好循環がある。


一見すると、ビッグ5の業種はバラバラに見える。アップルはハードウエア、アルファベットは検索エンジン、マイクロソフトはソフトウエア、アマゾンは小売り、フェイスブックはソーシャルメディアだ。だが実際は、5社ともデータ集めで熾烈な競争を繰り広げている。製品であれ、サービスであれ、人々が5社の商品を使えば使うほど、顧客データが集まる。ビッグ5の今後の成功は、顧客や世界に関するデータを、いかにたくさん吸収できるかにかかっている。


時価総額でアップルに次ぐ2位につけたアルファベットは、驚きのデータ収集サービスを張り巡らしている。グーグルの検索エンジンのシェアは90%。まるで、人類が今何に興味を持っているかをリアルタイムで表示する電光掲示板のような存在だ。


さらにアルファベットが所有するサービスや製品は、インターネット閲覧ブラウザのグーグル・クロームやGmail、グーグル・ドキュメント、ユーチューブ、グーグル・マップ、グーグル・カレンダーなど多岐にわたる。世界のスマートフォンの80%がグーグル製のアンドロイドOSを使っているから、ユーザーはアルファベットに膨大なデータを提供することになる。


フェイスブックの強みは、人間関係や人柄など、私たちがグーグルには見せない個人的な情報を把握していることだ。フェイスブックの世界全体のユーザー数は、傘下の対話アプリWhatsAppや写真共有サービスのインスタグラム、オキュラスVRヘッドセットのユーザー数を除いても、ざっと20億人に上る。


しかもフェイスブックは世界有数のニュースサービスに成長しており、数十億人のユーザーが「いいね!」や「シェア」をクリックするたびに、独自のソフトウエアを使って世の中の出来事や世論の動向、トレンドを知ることができる。


企業情報ではMSが圧倒的


顧客の購買傾向に関するデータ収集では、アマゾンの右に出る企業はない。それを可能にしたのが、データの保存・分析などを行うクラウド事業「アマゾン・ウェブ・サービス」(AWS)だ。


アマゾンは米動画配信大手のネットフリックスなど数千社の新興企業や大企業にAWSを提供することで、逆にそうした企業のデータを覗き見ることができる。


さらに今後は、自社の音声認識技術「アレクサ」がクラウド分野で欠かせない個人用の音声アシスタントとして普及し、ユーザーの生活全般に関するデータ収集が可能になると見込んでいる。


マイクロソフトはビッグ5の中では最も地味に見えるが、ウィンドウズOSやオフィス、サーバーのソフトウエアやクラウドコンピューティングを提供し、世界のビジネスで圧倒的なシェアを持つ。


マイクロソフトが提供するソフトウエアの大部分を通じて、マイクロソフトはグーグルを除く競合他社よりも多くのビジネス関連のデータを吸い上げることができる。ただし今後はパワーポイントなしで済ませる企業が増えるだろうが。


アップルは4強に追いつけるか


ではアップルはどうだろう。確かに、同社のハードウエアは人気が高く、「iPhone」や「MacBook」「iPad」といった製品は今後も売れ続けるだろう。とはいえ、アップルの強力な製品群も、最近はいささかマンネリ化が目立つ。以前なら、iPhoneの新機種が登場すると鳥肌が立つような興奮を覚えた。だが今、この秋に「iPhone 8」の発表を控えても、期待はこれまでの延長の範囲を出ない。


【参考記事】iPhoneはなぜ割れるのか?<iPhone 10周年>


さらに問題なのは、これまでに挙げた4強と比べると、アップルがデータ収集で遅れているとみられる点だ。同社のドル箱であるiPhoneおよび「iOS」がスマートフォン市場に占めるシェアは20%にすぎない。残り80%のスマートフォンユーザーに関するデータは、グーグルが占有しているということだ。


アップルには、検索やソーシャルネットワーク、大規模なオンライン小売業、クラウドなどデータ収集に役立つサービスがない。音声アシスタントのSiriも、今ではアマゾンのアレクサやグーグルの音声サービスに遅れを取っている。


【参考記事】日本でもAmazon Echo年内発売?既に業界は戦々恐々


このように、データ収集に関わるあらゆる分野で、アップルは4強に劣る。とくに機械学習が主流となった今では、絶え間なく流入するデータの量によって、勝者と敗者の差は広がる一方だ。


アップルが今後、アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、フェイスブックという4強に追いつくシナリオはなかなか見いだせない。


誰もが欲しがる優れたハードウエアを販売する事業は、今後も長きにわたり、実入りの良いビジネスとして続いていくだろう。それは、自動車や冷蔵庫の製造販売が良いビジネスになりうるのと同じだ。


しかし、データを活用し、機械学習を駆使した未来を新たに作り出していくという点では、ビッグ5のうちアップルを除く4強のほうが良い位置につけているようだ。


そんな中アップルは、1万2000人の従業員を巨大なドーナツ型の新社屋に引っ越しさせようとしている。2階建てのヨガルームを併設するフィットネスセンターが設けられており、その総面積は約9300平方メートルに達する。


米ワイアード誌はこの施設の内装について、このように伝えている。「カンザス州にある指定の石切場から切り出され、まるでウォッシュアウトジーンズのように『新品に見えないよう入念に加工された』大理石が敷き詰められている。このような加工が行われたのは、スティーブ・ジョブズが一番気に入っていたヨセミテにあるホテルの内装と、見た目を同じにするためだ」


豪華な社屋を建てたすべての企業が没落するわけではないが、そうした事例はこれまでも数多く発生し、注目を集めてきた。


シリコングラフィックスは、業績の絶頂期に広大な敷地を持つ本社を建設したが、2003年にはこの施設を当時急成長していたグーグルに売却した。


AOLタイム・ワーナーは合併したばかりの2000年に、ニューヨーク市内の一等地で巨大な本社の建設に着手したが、その直後に株価が暴落し、史上最悪の合併劇の1つとの烙印を押された。


とはいえ、アップルには優れた人材がそろっており、あっと驚くような素晴らしい新製品を発表し、他社を突き離す可能性もある。2600億ドル近い現金も保有している。これは、GE(ゼネラル・エレクトリック)やAT&T、あるいはビールメーカーのアンハイザー・ブッシュ・インベブを買収できるほどの金額だ(そうなれば「アップル・ビール」が実現する!)。


だが、アップルの壮大な新社屋がいつか、かつて時価総額が8000億ドルに達した頃の栄華を後世に伝えるモニュメントになる日がやってくる可能性も、同程度にある。


(翻訳:河原里香/ガリレオ)




ケビン・メイニー


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