アマゾンが「最安値要求」のMFN条項削除…ECサイトの価格競争は活発になる?

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2017年06月02日 10:24  弁護士ドットコム

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公正取引委員会は6月1日、アマゾンジャパンが契約の際に設けていた「最恵待遇(MFN)条項」(同等性条件)を削除するとの申し出がアマゾン側からなされたことを受け、アマゾンに対する調査を終了することとしたことを発表した。MFN条項は、様々な物品を販売する「マーケットプレイス」の出品者などと契約する際に、競合するECサイトにより安い値段で出品することを制限するものだったが、今回の対応により、アマゾンの最安値保証の仕組みが変わることになる。


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公取委の発表や報道などによると、公取委は昨年8月、独占禁止法違反の疑いで立ち入り調査を開始。納入業者や消費者の選択肢がアマゾンだけになってしまうのであれば、独禁法違反を認定する可能性もあったという。欧州委員会も同様の疑いで調査し、アマゾンが方針を変更することになったという。アマゾンの今回の対応を受けて、公取委は「独占禁止法の疑いを解消するものと判断」したとしている。


MFN条項とはどのようなものなのか。アマゾンが、グローバルな巨大ECサイト化する中、今回の対応をどう評価すればいいのか。籔内俊輔弁護士に聞いた。


●MFN条項とは?

「公取委は、今回、アマゾンの『マーケットプレイス』での販売価格が、ライバルである他の通販サイト等での出品価格よりも高くならないこと(アマゾンで買うのが一番安いか、少なくとも他で買うのと同じ価格であること)や、その他の取引条件に関しても『マーケットプレイス』におけるものが他の通販サイト等と同等以上に良いものであることを、すべての出品者に対して約束させていたこと等を問題視していました。


このような定めは、『最恵国待遇条項(most-favored-nation clause)』(「MFN条項」)等と呼ばれていますが、公取委は、これを価格等や品揃えに関する『同等性条件』と表現しています」


MFN条項は、独禁法上問題があることなのか。


「MFN条項は、一般的に、競争にとって良い場合もあれば、悪い場合もありうるもので、前提となる事実関係をよく見てみないと、独禁法上問題があるかどうかは判断が難しいと言われています。 一般論として、たとえば、出品者が様々な通販サイトを通じて実際に販売しており、また、出品者間での価格競争が活発であるという前提ならば、競争の維持促進を目的とする独禁法からみても望ましい効果が生じる場合もあります。


MFN条項があることで、アマゾンを利用する一般消費者は同じ出品者が別の通販サイトでより安く販売されていないかチェックする手間も省けますし、別の通販サイトでの価格競争による価格引下げがあればそのメリットも享受しうるといった点です」


●競争が機能しにくくなる影響

では、どのような点が問題となりうるのか。


「公取委は、アマゾンが行っていた価格等に関する同等性条件について、次の3つの点で、市場での競争に悪影響を与えることが懸念されるとしていますが、少し推測も交えつつ説明すると、次のような内容といえます。


まず、1つ目は、(1)出品者による他の通販サイトにおける商品の価格の引下げ等を制限するといった懸念です。


アマゾンの「マーケットプレイス」は日本の電子商店街において有力なサイトとなっていると推測されますが、そうした状況で、たとえば、出品者が他の通販サイトでアマゾンよりも安く販売しようしたときには、これをアマゾンに知られると、アマゾンでも同様に値下げが義務付けられることになります(実際にアマゾンは調査を行っていたそうです)。


そのため、出品者は、他の通販サイトではアマゾンより安く出品するのを差し控える可能性があります。


2つ目は、(2)アマゾンが、出品の手数料を安くして良い商品の出品を確保する努力や、「マーケットプレイス」の利用者に向けてより良いサービスを提供する努力を、仮にしなくなっても、価格等に関する同等性条件があることによって「マーケットプレイス」における出品価格を最も安くできるようになっているため、現状のアマゾンの優位性がアマゾンの継続的な努力によらず維持される可能性もあります。これは、電子商店街における現存のアマゾンのライバルを不当に競争上不利にすることになってしまいます。


さらに、3つ目として、(3)電子商店街における将来的な競争を考えると、(2)のようなアマゾンの優位性が不当に維持されれば、アマゾンのライバルが出品者向け手数料の引下げ等の努力を行ったとしても、より安くてより良い商品の出品の拡大につながらなくなってしまうなど、アマゾンのライバルが競争をしていこうという意欲や、新規に電子商店街に参入しようとする者の意欲を低下させることも懸念されます。


公取委は、このような競争上の悪影響が生じる疑いがあると考えて調査を行ってきました。実際にこのような悪影響が生じていると、独占禁止法違反となる不公正な取引方法の1つである『拘束条件付き取引』として、問題になる可能性がありました」


今回のアマゾンの対応をどう評価すればいいのか。これによって、市場環境がどう変わることが想定されるのか。


「今回のアマゾンの対応は、欧州委員会の調査を踏まえて、アマゾンが欧州の独禁法違反の疑いを払しょくするためにとった改善策の一環のようであり、電子商取引は国境を越えて行われていますので、日本でも同じ対応を取ることとしたものと推測されます。


これにより、たとえば、アマゾンの『マーケットプレイス』への出品者は、他の通販サイト等において、アマゾンで売るより安い価格で販売することも可能になります。出品者側の自由度がより高まり、他の通販サイトも出品条件で競争して良い出品者を確保する競争を活発に行っていくことも考えられます。


アマゾンも、(現状でも努力はされていると思いますが)これに対抗して出品者や電子商店街の利用者向けの競争をしていくことになるでしょう」


【編集部より】公正取引委員会の調査内容について、当初、電子書籍も対象に含まれているとした記事を掲載していましたが、調査対象に電子書籍は含まれていませんでした。アマゾンジャパンからの指摘を受け、修正いたします。(6月5日)


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
籔内 俊輔(やぶうち・しゅんすけ)弁護士
弁護士2001年神戸大学法学部卒業。02年神戸大学大学院法学政治学研究科前期課程修了。03年弁護士登録。06〜09年公正取引委員会事務総局審査局勤務(独禁法違反事件等の審査・審判対応業務を担当)。
事務所名:弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
事務所URL:http://www.kitahama.or.jp


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