まるで踏み絵!閣僚全員がトランプを礼賛 米史上最も醜悪な閣議

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2017年06月13日 19:03  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<人に称賛されることを必要としているアメリカ大統領は、「思ってもない褒め言葉」でもご満悦。驚くのは、テレビカメラも回る前で、閣僚全員が真顔で褒めきったことだ>


昨日、ホワイトハウスで開かれたトランプ政権の初閣議では、テーブルを囲んだ閣僚たちが一人ずつ、アメリカを再び偉大にすると豪語する暴君ドナルド・トランプ大統領を、まるで踏み絵のように、居並ぶ記者やカメラの前で、べた褒めさせられる異様なものだった。まるで旧ソ連のスターリン時代だ。なにより驚きだったのは、全員が真顔でやり切ったこと。その光景がどれほど異常か、当人たちが気づかなかったはずはないのだが。


Pres. Trump claims historic success at Cabinet meeting, also blames "obstructionist" Democrats for slowing agenda https://t.co/ZLrMr4uYHy pic.twitter.com/fUEEWbVEJN— NBC News (@NBCNews) 2017年6月12日


(トランプ政権の初閣議。政権はこれまで歴史的な成功を収めている、とトランプ)


終始ご満悦だったのはトランプ一人。トランプは、閣議の冒頭を自分が大好きなこと──自画自賛──から始めた。「大恐慌への対処に追われたフランクリン・ルーズベルト大統領など少数の例外を除き、かつてこれほど多くの法案を通過させ、多くのことを成し遂げた大統領はいなかった」と、トランプは切り出した。その後一人ずつ指名された閣僚は、トランプを褒めるしかなくなった。


Here's the full, 11-minute video of Trump going around the table listening to each of his Cabinet members praise him https://t.co/ZNJgIab2yL— Bradd Jaffy (@BraddJaffy) 2017年6月12日


(米閣僚全員が一人ひとりトランプを礼讃する模様を映した11分の動画)


忠誠心が好きなトランプ


政治部の記者や専門家がすぐさま指摘した通り、トランプの発言は事実ではない。それにもかかわらず閣僚が次々とトランプを称賛した。政権発足から半年も経たないのに、まるで任期終了直前に成果をねぎらい合う最後の閣議のようだった。いくらメディア向けの見世物だといっても、現代アメリカ史で、今回ほど大統領へのおべっかで埋めつくされた閣議は例がない。


米CNNのコメンテーター、クリス・シリザは「史上最も醜悪な閣議」と酷評し、そのコメントはすぐさまソーシャルメディアに拡散した。知っての通り、トランプは忠誠心が大好きだ。だが、閣僚が一人残らずメディアの前で忠誠を誓う様子には、心底あきれかえった。スターリン主義を風刺した喜劇でも見ているようだ。


【参考記事】米政権幹部に襲いかかる、トランプの執拗な怒りの病


ただしこれは喜劇でなく、現在のアメリカ政治のリーダーシップそのものだ。


トランプ礼賛の口火を切ったのは、マイク・ペンス米副大統領だ。トランプと一緒に仕事ができることは「人生最大の名誉」だと言った。他の多くの閣僚もトランプに奉仕することの「名誉」や「誇り」を連発した。


【参考記事】「ペンス大統領」の誕生まであと199日?


ロシアとの接触をめぐりますます疑惑が募るジェフ・セッションズ米司法長官は、トランプ政権が犯罪者や法執行当局に対して「正しいメッセージ」を送っている、と持ち上げた。続いてトランプと、アメリカのギャング集団MS-13を撲滅するという話で意気投合した。「奴ら全員を、すぐに排除できる見通しだ」と、トランプは言った。


アレクサンダー・アコスタ米労働長官は、トランプが「アメリカの労働者に奉仕」していると称賛したが、具体的にどう奉仕したのかには触れなかった。


リック・ペリー米エネルギー相が、アメリカが脱退を表明した地球温暖化の国際的枠組み「パリ協定」を「出来損ないの行政命令のようなもの」とこきおろすと、トランプは満足げな表情を浮かべた。


「あなたの姿勢に脱帽する」と、ペリーはトランプを称賛した。トランプがパリ協定離脱を表明した演説で、「私はピッツバーグのために選ばれたのであって、パリのためではない」と述べて国内産業の保護を優先する姿勢を鮮明にしたことを指したのだろう(ピッツバーグの市長はトランプの演説に反発し、独自にパリ協定の指針に従うと約束した)。


助けを必要とする人々のためになれた


ミック・マルバニー米行政管理予算局長は、「トランプの指示のおかげ」で「本当に助けを必要とする人々のためになること」ができるようになったと謝意を伝えた。マルバニーが3月に公表した2018会計年度の予算案の概要には、高齢者や身障者に食事を提供することで好評な連邦政府のプログラム「ミールズ・オン・ウィールズ」への歳出カットが含まれていたのだが。


「大統領選中に掲げた公約を着実に実行するあなたを支えるチャンスを得られて、私はわくわくしている」と言ったのは、ウィルバー・ロス米商務長官だ。そうした公約には、大多数の経済学者が疑問視する中国との貿易戦争も含まれている。


「先週のインフラ週間は素晴らしい1週間だった。運輸省まで足を運んでくださり感謝申し上げる」と礼を述べたのは、イレーン・チャオ米運輸長官だ。チャオは大統領就任式で聴衆の規模に執拗にこだわったトランプの性質を察するかのように、こう続けた。「大勢の参加者が興奮した様子で一堂に会し、式典を見守っていた」


インフラ週間は実態が乏しいという理由で散々な評判だった。しかも先週は、トランプに電撃解任されたジェームズ・コミーFBI前長官が米上院情報特別委員会の公聴会で証言することにすっかり話題をさらわれた。


【参考記事】FBIコミー長官解任劇の奇々怪々


だがトランプに対するおべっかでは、駐ギリシャ米大使としてもうすぐ左遷という噂があるラインス・プリーバス大統領首席補佐官の右に出るものはいなかった。


「大統領、あなたの周りにいる上級スタッフ全員を代表して、あなたの政策とアメリカ国民のために仕える機会と祝福を与えてくれたことに感謝申し上げる」とプリーバスは言った。


ソーシャルメディアで笑い者に


プリーバスと最もいい勝負で、近代アメリカ史上最も不人気な政権を大げさに褒めまくったのは、ソニー・パーデュー米農務長官だ。「私はミシシッピ州から戻ったばかりだが、あそこの人々は大統領が大好きだ」。それを聞いたトランプは、見るからに嬉しそうだった。


トランプに批判的なリベラル派は、当然のことながらソーシャルメディアでこれを嘲笑の的にした。米MSNBCのスティーブ・ベネンは「驚くほど気味が悪い」と切り捨てた。


民主党のチャールズ・シューマー米上院院内総務は、閣議でのトランプ礼賛を揶揄して、事務所の若手スタッフが自分を褒めちぎる芝居の動画を公開した。


GREAT meeting today with the best staff in the history of the world!!! pic.twitter.com/ocE1xhEAac— Chuck Schumer (@SenSchumer) 2017年6月12日


(スタッフに自分を褒めちぎらせるパロディ動画を作った民主党のシューマー米上院院内総務)


(翻訳:河原里香)


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アレクサンダー・ナザリアン


このニュースに関するつぶやき

  • ロシア化するアメリカ。とんだ喜劇だ。いや、アメリカにとっても世界にとっても悲劇か。
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