台湾からパナマをかすめ取った中国、寝返ったパナマ

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2017年06月14日 20:03  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<台湾と国交を結んでいる国は台湾の被援助国だ。パナマも例外ではなかったが>


パナマは6月13日、台湾との国交を断絶し、中国と国交を結んだことを明らかにした。その背景には、中国からの投資の拡大がある。だが、中国がパナマを味方に引き入れた真の動機は、おそらく政治的なものだろう。台湾に残された数少ない友好国のひとつを掠めとることで、独立に心を残す台湾総統を懲らしめようとしているのだ。


パナマのフアン・カルロス・バレラ大統領は13日に、台湾から中国への「乗り換え」を発表した。


一方、中国の王毅外相は記者会見で、両国は貿易、投資、観光で協力していくことになると語った。またパナマに対して、シルクロード経済圏構想「一帯一路」への参加を促した。一帯一路は、中国の習近平国家主席が提唱する曖昧だが広大な構想で、世界中で貿易協定やインフラ開発を行い、中国のソフトパワーを強化することを目的としている。


近年、中国政府が世界中で貿易協定を積極的に結んでいるのに伴い、中国によるパナマへの投資も大きく拡大している。特にターゲットになっているのがパナマ運河だ。パナマ運河は、太平洋と大西洋を結ぶ事実上唯一の海上貿易路だ。


2016年には、中国国営のランドブリッジ・グループ(嵐橋集団)が、パナマ最大の港であるマルガリータ島港の管理権を99年間にわたって租借するという契約に署名した。この港では、パナマ運河の大西洋側の物流が処理されている。中国の国営企業各社は、パナマ運河周辺の約1200ヘクタールに及ぶ土地の開発にも目を向けている。


残るはたった20カ国


これまでパナマとの正式な国交がなくても、中国の投資の妨げにはなっていなかったようだが、ビジネス上の結びつきの拡大が、パナマに対する中国の利害を深めたことはたしかだ。


だが、中国政府を突き動かしたのは、おそらく経済ではなく政治だろう。台湾の蔡英文総統にとって、外交上、味方となる国の喪失は大きな痛手となる。パナマとの断交で、台湾が外交関係を持つ国はバチカン市国を含めた20カ国にまで減ってしまった。


【参考記事】「台湾は中国の島」という幻想を砕いた蔡英文の「血」


中台関係は、蔡が総統に選出された2016年から緊張が続いている。2016年の総統選では、中国寄りの国民党が政権を失い、独立志向の強い民進党の蔡が勝利した。


中国政府は2016年6月、「1992年合意」を蔡が明確に認めなかったことを受け、台湾との公式な対話を中断した。1992年合意とは、「一つの中国」原則を中台間で確認したとされるものだ。


【参考記事】だから台湾人は中国人と間違えられたくない


中国にとって、貿易取引を餌に、台湾の友好国を味方に誘い込むことは簡単だろう。とはいえ、いくつかの国が台湾との関係を維持するのを黙認するのも、中国の目的に適っている。台湾が一線を越えたときに、政治的な交渉の切り札として使えるからだ。


中国は、国際舞台における台湾の存在感を着実に切り崩し、国際機関や委員会への台湾の参加を妨げている。最近では、中国の圧力を受け、世界保健機関(WHO)が総会から台湾を締め出した。つまり、2009年から続いていた台湾のオブザーバー参加が認められなかったのだ。


パナマが台湾と縁を切り、中国と国交を結んだことは、台湾にとってはさらなる衝撃だ。パナマも含め、台湾と外交関係を結んできた国は、台湾の開発援助の受益国。開発援助を通じて、台湾は発展途上国の忠誠を中国と奪い合ってきた。だが、次第に中国に押されつつあり、国交のある国は1990年代の約30カ国から数を大幅に減ってしまった。


【参考記事】台湾ではもう「反中か親中か」は意味がない


中国はパナマ以前にも、西アフリカの小さな島国であるサントメ・プリンシペを自陣に引き入れている。このときは、蔡と大統領就任前のドナルド・トランプが電話会談したことに対する報復だった。


「外交の買収戦には参加しない」


アメリカ大統領または次期大統領が台湾のトップと公式に電話会談をしたのは、1979年以来初めてのことだった。アメリカは台湾と正式な国交を結んでいない。中国にすれば、この電話会談は米台の接近し過ぎと映った。


そして今、パナマが台湾を見捨てて出て行った。蔡は6月13日、パナマとの断交を発表する会見で、「我が国の国家安全保障チームは、この状況を前もって察知し、できる限りの努力をしてきた。この結果はきわめ遺憾だ」と述べた。


「我が国は外交上、味方となる国を失ったが、外交上の買収合戦には参加しないという我々の方針に変わりはない」


パナマの心変わりは、中米における台湾の他の友好国も中国にシフトしかねない危うい状況を示唆している。例えばニカラグアは今のところ台湾との外交関係を維持しているが、中国から多額の投資も受けている。


2013年には、中国の億万長者、王靖が、ニカラグアを貫く運河の建設に関して、400億ドル規模の契約を結んだ。全長270キロに及ぶこの運河は、深さも広さもパナマ運河を凌ぐ。ニカラグア国内の反対と官僚主義のおかげで進展はしていないが、それも時間の問題かもしれない。


(翻訳:ガリレオ)




ベタニー・アレン・イブラヒミアン


このニュースに関するつぶやき

  • 国交はなくても 日本人は台湾を応援してるよ 災害の時は真っ先に支援にいくから
    • イイネ!1
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