ゲーセンがVR(バーチャルリアリティー)で華麗に復活

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2017年06月28日 10:22  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<アイマックスのVRゲームセンターで、バーチャルリアリティーの世界に没頭してテレビやパソコンでは味わえない圧巻の仮想体験を>


ゲームセンターにずらっと並ぶアーケードゲーム全盛期に生まれた私だが、『パックマン』に熱中することはなかった。思春期になると、ゲームセンターは文字どおり「ゲームオーバー」。21世紀を迎える頃には、任天堂などの家庭用ゲーム機に撃沈されていた。


81年に80億ドルだった全米のアーケードゲーム業界の売り上げは、99年には10億ドルに激減した。ところが今、ゲームマニアが再び街に繰り出している――バーチャルに進化したアーケードゲームを求めて。


ヒッピー文化の教祖として知られた心理学者のティモシー・リアリーはかつて、バーチャルリアリティ(VR)を90年代の幻覚剤と呼んだ。90年代半ばには、セガがVRを中心とする大型娯楽施設「ゲームワークス」を米シアトルにオープン。ただし当時は画質が悪く、アーケードのVRゲームが現実の世界らしく見えるようになったのは、ようやく最近のことだ。


今年2月、ロサンゼルスにオープンしたアイマックスVRエクスペリエンスセンターは、最先端のVRゲームを楽しめる施設。だがそこで私が最初に衝撃を受けたのは、VRアーケードのあまりに味気ない姿だ。


殺菌灯を連想させる青白い照明、事務所のような地味なカーペット、白く光る壁に埋め込まれた液晶画面。SF映画のぎらつくネオンも、騒々しい機械音や銃声の効果音もない。


広い倉庫のようなフロアは14の白いブースに分かれている。3.6メートル四方の空間で、『スター・ウォーズ』のバトルシップや地上400メートルの綱渡りなど、7種類の「没入型ゲーム体験」の世界が展開する。


ブースの中で首をすくめ、身をかわすプレーヤーは、まるで電話ボックスでシャドーボクシングをしているみたいだ。おもちゃの武器を握り締める人、自分だけに見える亡霊に向かって叫ぶ人。全員が巨大なヘッドホンをかぶり、目元は配線が伸びた黒い箱で覆われている。


アイマックスで使われるヘッドセット「スターVR」は、目の前に210度のパノラマ映像が広がる。オキュラス・リフトなど既存の家庭向け製品は110度が標準だから違いは歴然だ。


ヘッドセットを装着して3D画面を見つめると、システムが頭の動きを追跡する。上を向けば画像も上にスクロールされ、反時計回りに首を動かせば目の前の画像も回転する。


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10分のゲームで汗だく


さらに、ブース内のカメラが全身の動きを追跡し、画像の動きを合わせる。今後は視線追跡システムも搭載され、例えばディスプレイ上で手前の物体にピントが合うと、遠くはぼやけて見えるようになるだろう。


ゲーム中はまさに現実世界を見ているかのようだが、楽しい経験ばかりではない。仮想と現実の物理的な境界線を確かめようとした私は、現実のブースの壁にぶつかった。


テレビゲーム同様、VRゲームも悪酔いしやすい。原因は稚拙なアニメーションや画面の更新の遅さ、動きと映像の不一致、回路の不具合などといわれる。


方向感覚を失ったり、頭痛や胃のむかつきを感じる人も多い。走行中の車内で本を読んだときの感覚に似ている。


殺し屋が復讐に燃えるアクション映画『ジョン・ウィック』を基にした1人用シューティングゲームを10分やったら、汗だくになり(ジョイスティックを動かすだけでなく、ハードな全身運動だった)、少しふらついた。ちなみに、数年前にドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のVR映像を視聴した後は嘔吐しそうになった。


ストックホルムを拠点とするスターブリーズ・ステュディオズが作成したスターVRは、オキュラス・リフトやプレイステーションVRよりはるかに低価格だ。同社のVR部門グローバル担当部長のブルックス・ブラウンは、映画『アバター』のデジタルチーム出身。ルーカスフィルムでは『レゴ スター・ウォーズ/フォースの覚醒』などのウェブゲームを手掛けた。


最新作『オーバーキルズ・ザ・ウォーキング・デッド』は、ゾンビに支配された世界を描いたドラマが原作だ。バーチャル世界でゾンビに襲われると、ゲームの最中に実際に誰かに肩をつかまれたかのように感じる。「絶えず叫び声が上がっている」と、ブラウンは言う。


ヘッドセットの中で異次元の「現実」が繰り広げられる(アイマックスVRエクスペリエンスセンター) IMAX VR


幻想と現実のはざまで


アイマックスVRエクスペリエンスセンターには、開業から3カ月で1万5000人以上が来場した。ゲームは1回最長10分、料金は最大10ドル。今後はカリフォルニアやニューヨーク、イギリス、上海などに5000以上のVRアーケードを設置する計画だ。


中国はVRアーケードが盛況で、既に大小合わせて数千の施設がある。全米でも次々に誕生している。ミネソタ州の巨大ショッピングエリア「モール・オブ・アメリカ」では、インドの起業家グループが総工費1200万ドルの施設をオープンした。ブルックリンのVRバーは、3Dペインティングやジョブ・シミュレーターが人気だ。


VRはゲームのためだけの空間ではない。映画館や美術館でも人気の仕掛けになっている。


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5月中旬までワシントンのハーシュホーン博物館で開催されていた草間彌生の回顧展『ヤヨイ・クサマ インフィニティ・ミラーズ』は、代表作『無限の鏡の間』6作品のうち3つをVRでも体験できた。鏡で囲まれた部屋の中で、水玉とLEDライトと彫刻が無限に広がるような錯覚を生み出すインスタレーション作品は、VRでの再現にうってつけだった。


デジタルが織り成す夢の世界は、幻想から現実になりつつある。ただし、84年の小説『ニューロマンサー』でサイバースペースの概念を提唱したSF作家のウィリアム・ギブスンは、発展途上のVR技術の潜在的な危険に警鐘を鳴らす。


「アメリカのテレビがコカインさながらの強烈な中毒性を持っていたように、破滅的なテクノロジーになるかもしれない」



[2017.6.27号掲載]


ゴゴ・リッズ


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