AIを活用 クリエイティブ創作の未来 【特集】「良質なコンテンツ作成を巡る課題と未来」Vol.3

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2017年06月30日 15:04  mixiニュース

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膨大な情報を収集し、学習するAI(人工知能)がクリエイティブ領域でも活用されつつある。「AIに良い記事のエッセンスを学ばせれば、良い企画を考えさせたり、良い記事の作り方を提案してくれたりするのではないか」。そんな期待を抱いている人も多いだろう。AIのコンテンツ制作における未来の可能性を探っていく。

クリエイティブの世界で活躍するAI

2016年3月、AIが執筆した小説が、「星新一賞」の1次審査を通過したというニュースが世間を賑わせた。松原仁・公立はこだて未来大学教授らによる「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」がAIに書かせたショートショートである。作品の独創性にはまだ改善の余地が多分にあるものの、AIによる「コンテンツ制作」の未来が開ける予感を人々に抱かせるのに足りる成果を残したと言える。

そのほかにも、 AIを利用したコンテンツ制作の実例は枚挙にいとまがない。日本経済新聞社の「決算サマリー」をAI記者に書かせる取り組みや、静岡大学と電通が開発したAIによる広告コピー生成システム「AICO(β版)」、ベンチャー企業「わたしは」による大喜利人工知能「大喜利β」などの試みが注目を浴びている。

AIによるコンテンツ制作の未来は、今後、どのように発展していくのだろうか。テキスト分析技術などの実問題適用を多く手掛けるNECのデータアナリスト・山本康高氏に、話を聞いた。

まずはNECが開発してきた「テキスト含意認識技術」の事例について見ていこう。

テキスト含意認識技術とは、一口で言うと、「二つの文が同じ意味を含むかどうかを判定する技術」である。同じ意味なのに異なる表現が用いられている文章や、異なる意味なのに同じ単語が使われている文章なども、高精度で判定できることが、この技術の売りである。NECは、米国国立標準技術研究所(NIST)主催の評価タスクにおいて精度1位を獲得している。

コンテンツ制作に活用可能な「チェック者としてのAI」にも利用されている当技術。具体的な活用事例を紹介しよう。

一つ目は、情報ガバナンスのソリューションだ。営業職は、多くの顧客情報を収集する。時には、機密性の高い情報に触れ、文章に残すこともある。そうした文章に、厳格に管理すべき情報が含まれるかどうかの判断を、AIに任せるというシステムである。情報ガバナンスに引っかかる例文をあらかじめ学ばせておいて、それに近い意味を含む文章を検出して、注意を促す。。

二つ目は、コンプライアンスリスクの検知だ。メールをAIに読ませ、セクハラ、パワハラ、不正な作業指示などの不適切な文がなかったかをチェックし、しかるべき部門に報告する。この場合も、事例文を学習させて、同じ意味や似ている内容になっていないかをチェックさせる仕組みだ。

コンテンツ制作でAIが担う役割とは

AIといえば、「人のかわりに何でもしてくれる」というイメージを持たれがちだが、山本氏によると、現状、人の業務の一部をサポートする使われ方が多いという。そのうえで、「コンテンツ作成を支援するAI」と「創作に関わるAI」がそれぞれ発展してきていると説明する。

「コンテンツ作成を支援するAI」は、先ほども説明した「チェック者としてのAI」の一種である。コンテンツの中身の良さにはさまざまな基準がある。誤植がない、読みやすい(たとえば、難しい表現が少ないなど)といった表層的な基準から、事実と意見が区別されている、不適切な内容を含まない、論理性がある、信頼性が高いなど、より内容に踏み込んだ基準が考えられ、それぞれの基準に沿ってAIがチェックし、点数をつけるイメージである。今後、内容に対する改善方法を指摘が行えるようになっていくと予想される。また、良質さを計る基準としては、その他にも、話題性や独自性など、読者の反応、他の記事との関係によって決まるものも考えられる。

創作に関わる AIは、2つに大別される。

一つは「報告型の文書作成者としてのAI」である。この AIは、ある規定の情報に対して、その要点を伝えるための文書作成を試みるものである。たとえば、テンプレート化されたひな形文章があり、観測された事象からテンプレートを自動選択し、穴埋めすることで文章案を出す。株価の変動に合わせて、最近の動向を説明する文を推薦するイメージである。

また、決算など、ある程度書くことが定まっているような内容から、特徴的な表現を抽出して文を構成することも始められている。ある種の定型化された情報をいかにうまく要約するかが課題となる。

もう一つは「創作型の文書作成者としてのAI」である。この AIは、あるテーマに沿った文書を自動作成することを試みる。「報告型」に比べると、伝えたいことの正解が定義しづらい点が異なる。この種の AIとして、たとえば、目次の構造が決まっているような定型文章(冠婚葬祭の挨拶や行政文書など)の前半を書いたとすると、後半を「こういう文章を書いたらどうか」と推薦してくれるといったものがある。従来、情報編纂と呼ばれる領域で研究されてきたものである。

また、任意のテーマに対して文案を自動で生成するためには、テーマとなる状況に対する文生成と、その評価が行える必要がある。テーマに関する情報を収集し(取材に相当する)、それらを繋ぎ合わせるなどして評価が高くなるように文書を生成するイメージだ。かなりチャレンジングな問題設定であるし、 連載2回目でも触れたとおり、現状AIは「評価基準」を自動では決定できないため、人間が「良い」と判断する文案を大量に準備し学習させる必要がある。大量の評価データを読者から集める方法もあるが、個々人で異なる「評価基準」を揃える工夫が必要になるだろう。

近年、生成的なAIと批評的なAIのお互いを成長させる敵対的ネットワーク(generative adversarial networks)と呼ばれる機械学習が注目を集める。これは準備すべき実データ(文案)の省力化が期待できる技術であり、今後の発展が課題解決の糸口になると考えられている。

AIは独自性の高いコンテンツを作れるのか

果たしてAIが良質な記事を執筆することは、将来的に可能なのであろうか。山本氏は「事実を報告する記事は期待できるが独自性という観点が課題になる」と話す。

AIは、学習によって大量のデータの傾向をとらえ、もっとも妥当と思われる結果を出力することが得意だ。

しかしながら、大量データの傾向を学んだAIが作り出す記事は、当たり障りのないどこかで見た文章になると思われる。これを良質だと捉えることもできるが、一般に良質な「記事」を想像した場合には、時勢にあった発言や他者が触れていない独自の見解が含まれることが評価基準に入ると考えられる。つまり、過去の傾向に当てはまらない「外れ値」を高く評価する必要があるということであり、たとえば、突拍子もない意見と、良質な独自の見解を分けられるのかという困難な問題を伴う。

こうした現状を踏まえると、まずは、記事のベースとなる情報収集や、量産型記事の大量作成をAIが行い、ライターが独自の見解を追記していく、という分業によってコンテンツの質を高めていくスタイルが現実的なアプローチと考えられそうだ。

AIが、人間のあらゆる仕事を奪ってしまう−−。そんな未来予測が、巷ではまことしやかに囁かれている。しかし、執筆、編集の仕事に限って言えば、そうした未来がすぐに訪れることはなさそうである。とはいえ、まずは「“人の判断”をサポートするAI」が、私たちのクリエイティブ活動の細部に関与してくることから始まり、その範囲は今後広がっていく可能性がある。たとえば、SNSの投稿を解析して「読まれるテーマ」を予測する、ネット上のデータベースからテーマにあった著者を探してくる、といったことは、近い未来に実現していることなのかもしれない。

先端の研究をもとに、「良質なコンテンツとはなにか」を探ってきた当連載。新しい研究成果や技術の発展が大きな影響を及ぼし、変化させていくのは、どの業界も同じである。歴史を振り返ってみても明白だ。むしろ、変わった後の未来を上手く描くことができるかどうかにこそ、人間のクリエイティビティが問われることになるだろう。

●文・構成/宮崎智之

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  • 銀河鉄道999みたいに人間狩りとかにならなきゃいいけど。私なんて貧乏だから狩られる側だし
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