ロシア疑惑はロシア人にどう伝えられているのか

1

2017年06月30日 20:22  ニューズウィーク日本版

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ニューズウィーク日本版

<大統領当選の頃のトランプ熱はすっかり冷めて、代わりにアメリカがダメになった理由の分析が盛んな今日この頃>


アメリカのテレビは今もロシアの話題でもちきりだが、ロシア・メディアのアメリカ政治の扱いは、数カ月前の盛り上がりからは程遠い。


ドナルド・トランプ米大統領の一挙手一投足が連日のように報じられたのは昔の話。トランプが米大統領選に勝利した当初こそ歓迎ムードが高まったものの、今は、アメリカ的なものはすべて両国関係の行き詰まりの元凶にされている。


【参考記事】プーチン、トランプ狂想曲を笑う----「政治的な統合失調症」とも


ロシアの政治家が米政府の発表に怒って反論することもある。「マイク・ポンペオ米CIA長官のロシア批判は、フェイクニュースでありロシア恐怖症だ。アメリカ人を怖がらせようとしているのだ」と、ロシア連邦下院のイリナ・ヤロバヤ副議長は月曜に言った。


問題になった米MSNBCとのインタビューで、ポンペオはこう言った。「アメリカの民主主義を転覆させようというロシアの試みはもう数十年来のものだ。そう意味では(ロシアによる米大統領選介入は)新しくもないが、その気になればロシアにはアメリカを止める力がある、と脅す意図があるのは間違いない」


アメリカが仕掛けたロシア疑惑


ロシアの反応のもう一つのパターンは、アメリカを世界の変化についていけずにもがく年を取った大国として描き出すことだ。トランプもしばしば、アメリカを世界の中心とみる国内の勢力をもてあます大統領として紹介される。


「アメリカ政治では、アメリカの国益についてせめぎ合う2つのアプローチがある。現実主義者は、アメリカは世界に手を広げ過


ぎたと考えている。その代表格がトランプだ」と、ロシア連邦院(上院)のアレクセイ・プシュコフ情報委員会議長は言った。「そしてもう一方には、アメリカは世界唯一の支配者だと考える人々がいる」


後者は、ロシアもトランプも両方攻撃する、とプシュコフは続けた。その彼らが、トランプがロシアの味方に見えるような政治的な罠を仕掛けた。それが今のロシア疑惑だという。


「トランプがロシアとの対立を避けようとすればロシアとつながっていることになり、最後はロシアの手先ということになる。それをアメリカのメディアが繰り返し報じることで、疑いは確信に変わっていく」と、プシュコフはロシアのトーク番組「サンデー・イブニング」で語った。


【参考記事】トランプはプーチンの操り人形?


番組司会のウラジーミル・ソロビエフとプシュコフが議論していたテーマは、「オバマ政権はなぜロシアにサイバー爆弾を仕掛けたのか?」だ。


これは明らかに、6月23日の米ワシントン・ポスト紙の記事に基づいたテーマだ。ロシアが米大統領選にサイバー攻撃を仕掛けたことに対する報復として、バラク・オバマ前米大統領がロシアのインフラにサイバー爆弾を仕掛けることを承認したという記事だ。ただし、記事の脈絡やロシアに対する疑惑には一切触れられない。ロシアの視聴者は、アメリカが正当な理由もなくロシアを攻撃した、という議論を見せられたわけだ。


ロシアのアメリカに関する報道の仕方は変わった。だが海外のニュース偏重で、国内問題を犠牲にする体質は変わらない。


ロシア人の大半は、国際舞台でのロシアの成功を誇りに思う。ウラジーミル・プーチン大統領が人気なのは、景気対策や格差是正が評価されたからではない。プーチンがロシアの至る所で称賛されるのは、「外交大統領」として優れているからだ。米調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、プーチンが「世界の問題について正しい行動を取り」、ロシアは国際舞台で名声を得たかという問いに対し、そうだと答えたロシア人の割合は87%に上った。


【参考記事】プーチンをヨーロッパ人と思ったら大間違い


ロシア人は外交を他のどんな分野より重視する。ただし外交でも、具体的な政策について尋ねると、必ずしも評価は高くない。


例えばウクライナへの軍事介入については、プーチンのやり方を支持した割合は2年前の83%から現在は63%に低下している。経済政策への支持率は55%だ。


強い祖国はロシアの無形財産


圧倒的に大多数のロシア人が、物価上昇や政治家による汚職、求人の不足を重大な問題と考えている。だがプーチンが抜群の外交指導者である限り、どんな不満も全体的な支持率には影響しないのだ。


だが、ロシアがウクライナ南部のクリミア半島を併合した2014年以降、ロシアの国際的地位を押し上げる指導者としてのプーチンへの評価は高いままだが、経済をよくしてくれる指導者としての期待は下がってきている。


外交政策と国内政策の重要な相違点は、それらの政策を国民がどのように体験するかだ。物価上昇は買い物に行けば肌でわかるし、道路整備の状況も車を運転しバスに乗ればわかる。外交政策はそれが何であれ、テレビや新聞を通じて経験するしかない。それでもロシア人にとっては、外交政策が成功し、国際社会におけるロシアの地位が高まることは、目に見えない無形の財産なのだ。


だからこそ、アメリカが大国化するロシアの封じ込めに苦戦しているというロシアメディアの報道が、ロシア国内で大きな関心を集める。ロシアが目指す偉大な国の概念は、トランプの言う偉大な国の真逆だ。トランプは国内の雇用拡大に偉大さを求め、海外の問題にはほとんど関心を示さない。


プーチンとトランプが、正反対の偉大さを国民に売り込むため互いを利用しようとしたのは皮肉なことだ。


(翻訳:河原里香)


This article first appeared on the Wilson Center site.



マクシム・トルボビューボフ(米ウッドロー・ウィルソン・センター/ケナン研究所上級研究員)


このニュースに関するつぶやき

  • ロシアでは国内問題は報じられず、都合の悪いことは報じられず、反プーチンの動きも報じられない。幻想の中で人々は、だが、現実的に生きている。
    • イイネ!0
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(1件)

前日のランキングへ

ニュース設定