カラスも美味い。ハンターがぶっちゃけるジビエの魅力

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2017年07月05日 18:04  新刊JP

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『これから始める人のための エアライフル猟の教科書』の著者、東雲輝之さんと佐藤一博さん
ここ1,2年で都内でも取り扱うお店が増えてきたジビエ(野生肉)料理。その魅力は何といっても、畜産物にはない強いクセと旨味が詰まったワイルディッシュさにあります。しかし狩猟で捕獲できる獲物はジビエ料理の定番のシカやマガモだけではありません。ピヨピヨかわいいスズメから、巨大で獰猛なヒグマまで、日本国内で捕獲できる獲物は48種類にものぼります。

そこで今回は、獲物の捕獲方法から解体、ソースづくり、料理方法まで手広くカバーされた本『これから始める人のためのエアライフル猟の教科書』(秀和システム刊)の著者、東雲輝之さんと佐藤一博さんに、ジビエ料理の魅力について語っていただきました。注目のインタビュー、後編です!

■カラスは肉まで黒い。2人のハンターが激白、ジビエの世界!

――自分で捕獲した獲物を調理して食べるのは格別だと思います。これまでに食べたジビエでおいしかったものを教えていただけますか?

東雲:僕は鹿肉です。しかも生の鹿肉。本当は衛生上良くないので決しておすすめはできませんが、獲れたての、まだ筋肉がビクビク動いている鹿の肉を噛みしめた時は衝撃的でした。

犬歯が肉に食い込む瞬間、それは性欲にも似た本能的な喜びが溢れだして・・・言葉で説明するのが難しいんですが、僕の体の中にある原始時代のDNAが喜んでる感じです。現代社会では忘れてしまった、『生存欲求』を満たす喜びと言っていいでしょう。

佐藤:僕はツキノワグマが一番おいしかったです。「熊の肉は臭い」っていいますけど、臭いのは、ハンターが悪いんですよ。

山の猟師は獲物を山分けするとビニール袋に入れて持って帰るんですけど、食べきれない分はビニール袋に入れたまま何日か後におすそわけするんです。ビニール袋に数日入れられた肉は中で血浸けになっているので、血生臭さがこびり付いて・・・それはもう臭いに決まっています。

――鳥で言えば、これまでの人生の中で一番おいしかったのはなんですか?

東雲:鳥の中で一番おいしいのは何かって聞かれたら・・・そりゃ、まぁニワトリですよ。だってニワトリは食べられるために生まれてきているわけですから。

佐藤:単純に旨みでいえば、ニワトリが一番おいしいというのは同感です。

――えー、それでは、ニワトリよりもオイシイ鳥っていないんですか (汗) ?

東雲:いえいえ、そういうわけではないんです。ジビエの魅力って味だけじゃなくて、「ドラマ」にあります。例えば、自分で育てた野菜や自分で釣った魚を自分で食べるのは、普段の食事とは違う特別な美味しさがありますよね?ジビエも自分で生きた動物を仕留めたという思い出が、特別な『味』になるんです。これはオイシイとかマズイといった言葉では表しきれないことです。

佐藤:やっぱり、自分で狩ったものを食べるのは格別ですね。個人的にいえば、撃ち落した鳥がまだ温かいうちに殺すということは、釣った魚を締めるよりもハードルが一つ上かなと思いますが、その分喜びも大きいのではないかと思います。

――えー・・・では、あえてニワトリ以外で美味しい鳥を挙げるなら、どうでしょうか?

佐藤:僕はカルガモかなあ。秋というか、11月(北海道は除く)に猟が解禁された直後の時期のカルガモが一番好きです。

――脂が乗ってるんですか?

佐藤:いや、特にそういうわけじゃないんですけど、ちょうど稲刈りが終わった時期で、お米を食べているので、肉からほんのり糠の匂いがするんです。それがいいんですよ。冬になるともっと脂が乗ってくるんですけど、その時期よりも秋のカルガモが好きですね。
ただ、15年猟をやっていますけど、カルガモとマガモは、肉だけ出されたら区別がつかないですね、いまだに(笑)

東雲:僕はヒヨドリです。小鳥なんですけど、だいたい1月くらいになるとミカン畑に出てくるんです。お尻に黄色い脂が乗っていて、それが甘くてすごくおいしい。

実はヒヨドリは結構珍しい鳥で、日本以外ではあまり見られないから、ジビエをよく取り入れるフランス料理でも、ヒヨドリ料理はありません。日本独特のジビエなので、ぜひ捕獲して、味わっていただきたいですね。

佐藤:それと、やっぱり野鳥なので、市販の肉のように味に均一性がないのがジビエのおもしろいところですよね。個体差が大きいですし、同じ鳥でも地域によって味が違いますし、処理の仕方でも味は変わってきます。

東雲:今、それぞれ好きなジビエを挙げましたけど、どの鳥がおいしいかっていう好みも、人によって千差万別です。いろいろ食べてみて自分好みのジビエを探すっていうのも楽しみ方だと思います。

――ちなみに、カラスって食べたことはありますか?

東雲:ありますよ。見た目の話からすると、カラスの肉は黒いんですよ。赤黒いっていうか、くすんだ色をしています。

佐藤:私もあります。カラスってすごくマッチョで肉厚な鳥なんですよ。

――臭くなかったですか?

東雲:臭みとかはないですがカラスの肉には独特のクセがあります。ただ、ニワトリにもクセがあって、それが嫌いな人もいるので好みの問題ですね。
味は獣肉にも似た濃い旨味があって個人的には大好きです。クセを消すためにバターを使うのがオススメです。

佐藤:カラスに限らずジビエは、食べているエサによって肉の味は変わってきます。うちの方はミカン畑などがないので、特別美味しいわけではないですよ。カラスの周りには、キジバトやキジなどの食べておいしい鳥がたくさんいるので、あえて獲ろうという気はないですね(笑)

――ジビエをおいしく調理するコツをお聞きしたいです。

東雲:ジビエ料理のコツはなんといっても火の入れ方です。例えばカラスの肉は火を入れすぎるとレバーっぽい臭いと食感がでます。なので、肉に熱がまわりすぎないように、かつ食中毒のリスクを抑えられるように絶妙な火加減で料理をしないと美味しくなりません。
まぁ、これぐらい難しいからこそジビエ料理はフレンチの中でも最高の技術が必要とされるわけです。

――どうしても食べられなかった鳥も聞いていいですか?

東雲:う〜ん。カワウって鳥がいるんですがニスのような脂臭さがあって苦手ですね。水鳥ってお尻から出る脂で羽をコーティングすることで水に浮いていられるのですが、その脂が化学物質っぽい臭いがするんですよ。なので今は、調理する時は羽を毟るだけでなく皮も剥いでしまってますね。

佐藤:これはうまいまずいというよりは、処理の不手際で申し訳なかったという話ですが、バンという鳥がいて、江戸時代に珍重されていた鳥なんですけど、足が早いんです。普通の鳥のつもりで冷蔵庫で熟成させて、さあ食べようと思ったら、もう腐りかけていて、アンモニア臭を発していた、ということがありました。

バンはおいしい鳥なのですが、都道府県によっては狩猟禁止の鳥になっているので、注意が必要です。

――「狩り」というと原始的な印象ですが、いかに捕獲から調理までを総合的に見ると、知的というか、文化的な要素もありますね。



東雲:僕は「トータルアウトドア」という言い方をしています。ハンティングは銃を撃つのも楽しいですし、獲物の痕跡を探す楽しみもあります。猟犬と一緒なら自然の中を一緒に歩いているだけでも楽しいですし、もちろん調理やグルメとして極める道もあります。ハンティングというなかに、いろいろな楽しみが含まれているんです。

――捕獲した獲物をジビエ料理のお店に買い取ってもらうことも可能だと聞きました。プロの猟師になってそれで生計を立てていく道も可能なのでしょうか。

東雲:それは可能だと思います。ハンターをとりまく環境はここ数年で大きく変わってきていて、これまではハンターが獲物を適当に解体して、つながりのある店に売るだけだったんですけど、今はきちんとした解体所や保存施設を設置したり、農水省がジビエの食肉利用率を倍増させるという目標を発表したり、ジビエをビジネスにしていこうという動きが加速度的に進んでいます。

さらに現在は、害獣駆除で鹿を捕獲したら1頭8,000円から18,000円の報奨金が出ますから、月に8頭捕獲すれば10万円くらいにはなりますよね。それとニホンミツバチなどの小規模高付加価値の農産物、さらにジビエの生産を合わせていくと、現状でも生活していけるくらいは稼げます。ただ、一番の問題は販売先を探すことになるので、僕は職業ハンターさんとレストランなどの売り先をつなげる仕事もしています。

1,2年後にはハンターを育成する学校やセミナーなどが行政主導で整いつつあるので、これらからはさらに、職業としてのハンターが注目されるでしょう。

――佐藤さんは銃砲店をされていますね?銃職人(ガンスミス)って仕事としてはどうなのでしょうか?

佐藤:狩猟人口の減少が叫ばれていた10年前に始めた時は「狂気の沙汰」と言われましたが、始めてみると狩猟の衰退を感じることはなくて、むしろ関心を持つ人が増えていると感じます。国内には銃を専門的に扱える人も減ってきているので、きちんとした仕事のできるガンスミスは今後需要が高まるでしょう。ちなみに、うちで働いているガンスミスには2人とも若い女性なんですよ(笑)

――最後になりますが、エアライフル猟を含めて、ハンティングに興味を持っている人にアドバイスをいただけますか。

佐藤:楽しく続けるために大切なのは「無理をしないこと」です。貴重な週末に山まで来て獲物を見つけると、「何とかものにしたい」ということで周りが見えなくなって、無理をして追いかけてケガをしてしまったり、撃っちゃいけない場所に立ち入って撃ってしまったり、警察を呼ばれたりといったトラブルになりやすいんです。

銃の所持許可は自動車免許と違って減点式ではなくて、OKかダメかしかないので、何か違反をしてしまったら所持許可は取り消しです。その時は千載一遇のチャンスと思うかもしれませんが、山には獲物がたくさんいます。絶対に次のチャンスがくるので、くれぐれも無理をしないことが長く楽しむ秘訣だと思いますね。

東雲:ハンティングを始める人の傾向として「孤高のハンター」を目指したがるんですけど、結構すぐに辞めてしまう人が多いんです。やっぱり仲間を作った方が楽しいですよ。今はSNSがあるので仲間づくりは決して難しくはありません。

エアライフル猟は一人で手軽にできると言いましたが、続けていくといろいろな人と知り合います。若い人もいるでしょうし、70代、80代の人もいる。
そういった人とチームを作って一緒にハンティングをしたり、獲物を分け合ったり、食べながら話をするっていうのは、思えば太古の昔に我々がやっていたことなんですよね。

また、普段しまい込みがちな自己顕示欲の発散という意味でも、仲間を作ってハンティングをするのはいいことなんです。獲物を捕獲したら思い切り自慢して、仲間は「すげえ!」といって一緒に喜んで、他の人が獲物を捕獲したら自分も同じようにする。そんな関係を仲間同士で作っていくと、現代社会では忘れてしまった不思議な絆が芽生えてくるんですよ。
(新刊JP編集部)

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