アメリカに大邸宅ブーム再来、住宅バブルの兆候も

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2017年07月05日 21:02  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<世界金融危機の前に全盛だった「マック・マンション」が戻ってきた。大邸宅を建てるために借金を競った住宅バブルの再来を防ぐため、すぐにも利上げをすべきだと専門家は警告する>


アメリカに「マック・マンション」が戻ってきた。サブプライムローン(信用度の低い個人向けの住宅融資)の全盛期、マクドナルドの店のように画一的な大邸宅をそう呼んだ。2007〜2008年のサブプライム危機と金融危機を加速させたマック・マンションが復活し、再び住宅バブルを膨らませている。


「住宅価格の高騰は本物だ。完全に行き過ぎだ」と先週、投資家向けリポートに書いたのは、米MUFGユニオンバンクの主任エコノミスト、クリス・ラプキーだ。「今の住宅価格の上昇は、前回住宅バブルが起きた時と同じくらい急速で厄介だ」


【参考記事】なぜか再びアメリカで銀行がつぶれ始めた


金融危機の後約10年、休眠状態にあったマック・マンションの価格は昨年、金融危機以前の水準まで持ち直し、今年に入ってさらに急上昇している。


マック・マンションの目玉は、何と言ってもその広さ。床面積は最低でも約280平方メートルで、広々とした玄関ホールとシャンデリアが特徴だ。豪華な印象を与えるが、安い建材で作られているところがいかにもバブルっぽい。


過熱市場の象徴


マック・マンションと呼ばれるような大型分譲住宅はアメリカ郊外の至る所で量産されてきた。1980年以降に建てられた住宅の4分の1はこの範疇に入る。


金融危機の直前は超大型のマック・マンションが流行り、平均床面積は約650平方メートルに達した。アメリカの過熱する住宅市場の象徴的存在になったが、住宅バブルの崩壊で大不況に突入した。


そんなマック・マンションが今、住宅市場に復活した。マック・マンションの価格の上昇は良い知らせではないと、専門家は言う。


「住宅価格の暴落が金融危機後の世界大不況に拍車をかけた」とラプキーは指摘し、アメリカの中央銀行であるFRB(米連邦準備理事会)は、人々がマック・マンションを建てやすくなる今の低金利政策を早々に見直すべきだと言った。


そもそも金融危機は、巨大銀行や証券会社がリスクの高いサブプライム住宅ローンを証券化し、金融機関や投資家に売りつけたことから始まった。住宅バブルがはじけて人々のローン返済が滞ると、証券化商品の価格は暴落し、金融機関を通じた損失の連鎖が世界経済を呑み込んだ。


【参考記事】サブプライムショックで世界同時株安


だが米住宅メーカーは今、マックマンションの建設ラッシュに沸いており、今年5月の販売件数は79万4000件に達した。米不動産サイトZillow(ジロウ)のデータによれば、昨年、マック・マンションの価格は急上昇している。


金融危機の前、マック・マンションが最も売れていた時期の中間価格は51万9500ドルだった。大不況の最中はそれが36万1574ドルまで下落した。それ以降、全般に住宅価格は上昇してきたが、マック・マンションの上昇率は他を上回る。


英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の経済パフォーマンスセンター(CEP)のクレメント・ベレ研究員が今年の春、マック・マンションの建設が増加すると周辺の住民は小さい自宅への不満を募らせる、とする論文を発表した。マック・マンションが増えるほど、周辺住民はもっと大きな家を建てたくなり、借金に走るのだという。


ベレは米国勢調査局が実施した1984〜2009年のアメリカの住宅調査を分析し、住宅所有者は「近所に大型の家が建った後、相対的に自宅の価値が下がったように感じた」経験を持っていることを発見した。


低金利で拍車


アメリカ人は、金融危機が起きる直前まで大型の家を追い求めていた。「近所の人に負けじと見栄を張った」結果だったというのがベレの分析だ。「所得に占める住宅ローンの割合は、1945年の20%から2008年には90%まで上昇した」と、ベレは指摘する。住宅ローンの膨張とともにマック・マンションも巨大化し、それに負けないよう、さらに多くの人がマック・マンションを建てた。


「住宅所有者が見栄を張らなければ、所得に占める住宅ローンの割合は金融危機の直前より25%は低かったはずだ」とベレは言う。「マック・マンションが嫌がられるのは、周辺住民の持ち家に対する満足度を下げるからだ」と、ベレは本誌に語った。


マック・マンションが建って裕福な住民が引っ越してくることで、周辺施設や環境が改善し、地域の評判が上がることもある。だが全体としては、マック・マンションは住民の自宅に対する満足感を減退させ、より大きな家を建てる競争を煽っていた。


だからこそFRBは今、利上げで住宅価格の高騰にブレーキをかける必要があるのだとラプキーは言う。


だがFRBは、まだ大不況以来の逆風が残っており、利上げペースを上げることはできないと言っている。2017年の第一四半期のアメリカの経済成長率も1.2%止まりだった。


「住宅価格は高騰し、市場では新たなバブルが生まれている」とラプキーは言う。インフレは「FRBがもっと速いスピードで利上げを行うまで」止まらないと彼は見る。「今のような住宅価格の上昇に、自然な点は一つもない」


(翻訳:河原里香)


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