3人に1人が栄養不良!? 途上国の食と栄養を守る、日本の取り組みとは?

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2017年07月27日 17:23  スタディサプリ進路

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もうすぐ夏だしダイエットしなきゃ! カロリーが高いお菓子は避けとこう! なんていう会話、よくしてない? でも、実は今、世界では3人に1人が「栄養不良」の問題を抱えている。 世界の5歳未満の子どもの死亡原因は、なんと45%が栄養不良によるものというショッキングなデータも! 世界と日本の状況は、大きく違う。 では、世界のこの状況を解決するには、どんな方法があるんだろう? そこで今回、世界の栄養分野の第一線で働く人に詳しく聞いてみた! お話をうかがったのは、外務省の国際協力局・国際保健政策室の鈴木亜紀さん。 開発途上国への援助に携わる専門家だ。 1.途上国の栄養の問題は「少なすぎる」と「多すぎる」の二極化 (https://shingakunet.com/journal#a1) 2.では、日本はどんな支援をしているのだろう? (https://shingakunet.com/journal#a2) 3.国際会議にも出席。栄養改善分野の交渉の最前線にいる! (https://shingakunet.com/journal#a3) 4.獣医師と栄養分野は、どんなつながりがあるの? (https://shingakunet.com/journal#a4) 5.高校生の皆さんへ (https://shingakunet.com/journal#a5) 途上国の栄養の問題は「少なすぎる」と「多すぎる」の二極化 3人に1人が栄養不良!? 途上国の食と栄養を守る、日本の取り組みとは? (https://journal.shingakunet.com/wp-content/uploads/2017/07/suzuki09.jpg) ―――途上国の栄養の問題というと、骨が浮くほどガリガリになった子どもの姿を思い浮かべる人が多いのでは? 「それは、貧困で食糧が足りないために起こる『栄養不足』の問題です。 一方、途上国では肥満も問題になっています。 経済的に豊かな都市に住み、ある程度の収入を得た人で、移動手段を車だけに頼っていると、運動不足になります。 また、お金に困らないため食べ物を好きなだけ買って食べるという環境になり、肥満や生活習慣病にかかる人、すなわち『栄養過多』が急激に増えているのです。 こうした栄養過多の問題は日本を含める先進諸国においても問題になっています。 こうした問題をまとめて『栄養不良』と呼びます」 食べ物がないために起きる「栄養不足」と、肥満や生活習慣病を起こす「栄養過多」があるのだという。 「この2つは、『栄養の二重負荷』と呼ばれていて、世界が一丸となって改善するべき問題です」 3人に1人が栄養不良!? 途上国の食と栄養を守る、日本の取り組みとは? (https://journal.shingakunet.com/wp-content/uploads/2017/07/suzuki08.jpg) ※大学院時代、インドネシア大学へ留学した鈴木さん。写真は現地での研究活動中の一コマ。小学生に携帯を利用して映像を見せているところ ――栄養に問題があると、どんな影響があるの? 「『栄養不足』の場合、特に影響を受けるのは子どもたちなんです。 必要な栄養が摂れないと、体に抵抗力がつかないので病気になるリスクが高くなります。 病気になると治りにくく、命を落とすことにもなってしまう…そうなると、生産活動を行う人材が足りなくなり、途上国の産業は停滞してしまいます」 ――では、「栄養過多」によって、生活習慣病になる人が増えると、どんな影響があるの? 「生活習慣病の治療のため病院に通ったり、薬を飲みますよね。日本だと健康保険制度があり、国が医療費の一部を負担してくれます。 でもそういう制度がない途上国では医療費はすべて自分の負担。 家計が苦しくなり、洋服や家電製品などを買う余裕がなくなります。 人々がモノを買わなければ景気が悪くなり、国の経済が発展していかなくなってしまいます。 もちろん、日本をはじめとする先進国でも『栄養過多』による生活習慣病は大きな社会問題になっています。栄養が多すぎても人はパフォーマンスを発揮することはできないのです」 人々の栄養不良は、途上国にとって大きな損失になっている。 では、日本はどんな支援をしているのだろう? 3人に1人が栄養不良!? 途上国の食と栄養を守る、日本の取り組みとは? (https://journal.shingakunet.com/wp-content/uploads/2017/07/suzuki07.jpg) 支援の方法は、次の2つ。 ・国連機関に対して資金を提供し、栄養を改善するための支援プログラムを実行してもらう ・特定の国や地域に対して、モノや技術での支援を行う いずれの方法でも幅広い支援が行われている。 いくつかの例を紹介しよう。 ●農業支援・・・自分たちで作物を育ててもらうための技術指導や、農業で安定して収入を得てもらうための「モノを売る仕組み」を整備する。 「途上国の人に食料を配布するだけでは、根本的な問題は解決されません。自分たちで作物を育て、自給自足するのはもちろん、収穫物をきちんとした流通経路で売って収入を得ることで、生活水準を確保していきます」 ●学校給食の運営の支援・・・給食の提供や、栄養が偏らない献立を提供する。 「栄養不足の子どもは、学校に通わなくなったり、集中力が欠けて思ったように力を発揮できないのです。 給食を配ることで、学校に通い、さらに空腹がしのげるので勉強に集中できるようになります」 3人に1人が栄養不良!? 途上国の食と栄養を守る、日本の取り組みとは? (https://journal.shingakunet.com/wp-content/uploads/2017/07/suzuki01.jpg)※研究のためにインドネシアへ留学していたときに訪れたボゴール県の高校で、生徒たちと一緒に記念撮影 ●栄養教育・・・途上国の保健所などに栄養士を派遣し、「栄養バランスのとれた食事がなぜ大切なのか」や、食材の効果的な調理法などを教える。 「途上国の人への栄養教育は一度実施したら終わりではなく、続けていくことが重要。 そのため、現地で栄養士の人材を育てる支援も行っているんですよ」 ●水と公衆衛生の改善・・・水道設備の整備や、手洗いの指導などを行う。 「途上国の5歳未満の子どもの死亡原因で多いのは、下痢。 もともと栄養が足りていないうえ、せっかく摂った栄養分が出ていってしまい、命を落としてしまう…そんな悪循環を断つためには衛生環境を整えることが大切です。 きれいな水が飲めるよう水道の設備を整えたり、手洗いをする習慣をつけてもらうための指導をします」 ●母親と小さい子どもへの支援・・・妊娠中や出産後の女性、子どもが十分な栄養を確保できるよう、栄養価の高い食品を提供したり、食事の献立の指導を行う。 「特に、子どもがお母さんのお腹の中にいる胎児のころから生後2歳までの最初の『1000日間』は、子どものその後の健康と成長に大きな影響を与える時期。 この期間に栄養不良が生じると、その後の子どもの健康や成長が大きく損なわれ、回復が難しくなると知られています。 この『1000日間』は、特に力を入れて支援しています」 このように栄養改善のさまざまな支援が行われている。 3人に1人が栄養不良!? 途上国の食と栄養を守る、日本の取り組みとは? (https://journal.shingakunet.com/wp-content/uploads/2017/07/suzuki02.jpg) ※研究の詳細について、インドネシアのボゴール農科大学獣医学部教授とボゴール県畜産水産局(Dinas Peternakan dan Perikanan Kabupaten)職員との打ち合わせの際に撮った写真 国際会議にも出席。栄養改善分野の交渉の最前線にいる! 「途上国の人の能力を最大限に引き出すのに、鍵を握るのは栄養不良の改善。経済効果にたとえると、『栄養改善のために100円を投資すると、1600円の利益が出る』といわれています。 支援をして日本にどんなメリットがあるのか、今すぐにはみえていなくても、問題が解決して途上国の人の能力が発揮できるようになれば、国の経済を発展させることが可能になります。 将来的に、日本の製品を買ってくれたり、ビジネスのパートナーになってくれる可能性があります」 3人に1人が栄養不良!? 途上国の食と栄養を守る、日本の取り組みとは? (https://journal.shingakunet.com/wp-content/uploads/2017/07/suzuki03.jpg) ※インドネシアでの研究に協力してくれたボゴール県の公立小学校の職員たちと。鈴木さんから職員にお礼の盾(インドネシアの習慣)を贈った ――そのなかで、鈴木さんは外務省でどんな仕事をしているの? 「日本政府の栄養支援策を決定するために、国連機関や外国政府、NGO、食品会社、研究機関など、多くの関係者と会って意見交換をしたり、世界の専門家が集まる国際会議にも出席します。 そうした交渉の最前線にいられることはとても刺激的です」 3人に1人が栄養不良!? 途上国の食と栄養を守る、日本の取り組みとは? (https://journal.shingakunet.com/wp-content/uploads/2017/07/suzuki04.jpg) ※2017年4月に行われた「世界栄養報告セミナー」の様子。鈴木さんが外務省での仕事を始めて最初に出席したセミナー。国際栄養の改善に取り組む国内外の関係者が多数参加した 獣医師と栄養分野は、どんなつながりがあるの? そんな鈴木さんが大学で学んだのは獣医学で、なんと獣医師の国家資格を持っているのだという。 「獣医師は動物の健康を守る仕事だと思われていますが、実際はそれだけに限らず公衆衛生にも携わり、人の健康を守るのも仕事です。 鳥インフルエンザなど感染症対策や、食肉や、外国から輸入される穀物の細菌検査、食中毒の調査といった知識と技術を身につけています。 食品の安全を守ることにつながるので、今の仕事にとても生きています」 国際協力に興味をもったのは、幼少期を途上国で過ごした経験からだった。 「生まれてからの6年間、インドネシアで暮らしました。日本に帰ってとてつもなく感動したのは、水道の水が飲めること。インドネシアでは水道水は飲めませんでした。 その経験から、日本となぜ違うのか、その違いをなくすためには環境をどのように整えればいいのかなと、公衆衛生の改善に関心をもったのです」 外国と日本の環境の差に触れたことが、将来を決めるための大きなきっかけになったのだという。 高校生の皆さんへ 3人に1人が栄養不良!? 途上国の食と栄養を守る、日本の取り組みとは? (https://journal.shingakunet.com/wp-content/uploads/2017/07/suzuki06.jpg) そこから、外務省で仕事を始めて国際支援に携わることになった。 食や栄養の分野での国際協力に対し、興味をもつ高校生にメッセージをもらった。 「高校時代、公衆衛生で世界に貢献したいと思ったのですが、目指したい職業が何なのかわからなくて悩みました。 かかりつけの医師と、わが家の愛犬がお世話になっている獣医師にも相談し、『獣医師になる道がある』と教えてもらえたことがきっかけになったんです。 獣医師以外にも医師、看護師、栄養士になるなど、いろいろな可能性があるので、視野を広くもってやりたいことをみつけてくださいね」 幼少期の経験から、進路を決めた鈴木さん。 将来なりたいものを決める方法はたくさんあるけど、一つの参考にしてみては? 3人に1人が栄養不良!? 途上国の食と栄養を守る、日本の取り組みとは? (https://journal.shingakunet.com/wp-content/uploads/2017/07/suzuki10.jpg) (プロフィール) 鈴木亜紀 外務省 国際協力局 国際保健政策室 生後10カ月のとき、父親の仕事の関係でインドネシアのジャカルタへ。 小学校入学時に日本へ帰国。 国際協力や公衆衛生に興味をもち、高校時代に獣医師を目指す。 大学は獣医学部へ進学し、卒業と同時に獣医師国家試験に合格し、国家資格を取得。 専門的に国際協力を学びたいと思い、大学院で国際保健学を専攻。 大学院在院中、2015年7月からインドネシア大学へ交換留学。同校ならびにボゴール農科大学と鳥インフルエンザに関する共同研究を行う。 2017年3月に大学院修了。 4月より、経済協力専門員として外務省国際保健政策室に勤務 *宝物&仕事の必需品* 3人に1人が栄養不良!? 途上国の食と栄養を守る、日本の取り組みとは? (https://journal.shingakunet.com/wp-content/uploads/2017/07/suzuki05.jpg) <大学院修了のときに研究室の仲間が寄せ書きしてくれた色紙と、研究で使っているパソコン> 「大学院時代は個性的な仲間に恵まれて、すごく楽しかったんですよ。 研究室の学生の約半数が海外からの留学生で、途上国出身者も多く、アラビア語、タイ語などもみられます。 パソコンは大学院時代から使っていて、インドネシア留学のときも持っていきました。 ステッカーは留学先のインドネシア大学のものです」

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