ボーイスカウト大会でオバマを非難したトランプに批判が殺到 - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2017年08月03日 16:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<政治的な発言はしないという不文律に反して、ボーイスカウトの全国大会でオバマを非難したトランプに批判が殺到。トランプの言動の粗さがますます目立ってきている>


トランプ大統領は、7月24日にウェストバージニア州で行われたボーイスカウト の「ジャンボリー(キャンプ大会)」に出席してスピーチしました。ところが、その内容について直後から批判が殺到した結果、27日にはボーイスカウトの代表(マイケル・サバー、チーフ・スカウト・エグゼクティブ)が謝罪に追い込まれています。


この演説、まずは「フェイク(ニュース)メディアの連中は、どうせボーイスカウト大会での演説と言っても少人数だと報じるに決まっている」と、いきなりメディア罵倒から入りました。実際は参加者4万人という大規模な集会だったので、その規模の大きさを喜ぶ気持ちが屈折して出たようでした。


さらに、昨年の大統領選に触れて「我々はフロリダで勝ち、サウスカロライナでも、ノースカロライナでも、そしてペンシルベニアでも勝った。ついでにミシガンでも勝ったが、それはヒラリーがロクな運動をしなかったからだ」と、あらためてヒラリー・クリントン氏をこき下ろしました。


【参考記事】「カオス状態」のホワイトハウス、スカラムッチ広報部長は10日でクビ


極めつけは、オバマ前大統領に対して「ボーイスカウトの大会には一度も来なかった」と非難した部分です。また、「オバマケア(オバマの導入した医療保険改革)」の撤回に失敗したら「保健福祉長官はクビだ」などという、一方的な発言もありました。


現場で収録された音声によれば拍手もあったようですが、壇上の幹部は困惑したような顔をしていましたし、同席していたリック・ペリー(エネルギー長官)は、笑っていたものの、顔が引きつっていました。


何が問題かというと、2つ指摘ができます。1つは、確かに過去にも大統領がこのボーイスカウト・ジャンボリーに来て演説をしたことはあるのですが、そこでは「絶対に政治的な発言はしない」、特に「党派的な言動はしない」というのが不文律になっていたからです。最近では、ビル・クリントンや、ジョージ・W・ブッシュもこの「ジャンボリー」で演説していますが、伝統に即して政治色は抜いていたそうです。


これは、アメリカのボーイスカウトが非常に幅広く、社会の草の根に浸透した組織であって、保護者も指導者も超党派的な広がりを持っていることもあります。そして何よりも、主たる対象が11歳から17歳の未成年者ということがあります。ですから、大統領などのゲストには「人生の先輩」として「市民の義務」とか「誠実な生き方」というような一般的な訓話が適切であり、またそのような内容が期待されているからでもあります。


もう1つは、何故オバマ大統領が「ボーイスカウト・ジャンボリー」に参加しなかったのかという問題です。それは、特にオバマ政権時代には、ボーイスカウト組織への同性愛者の参加という問題が生じていたからでした。当初は「参加禁止」であったものを、大統領も積極的に影響力行使をする中で、2013年にはメンバーとして参加が可能になり、2015年には同性愛の指導者の参加も解禁されることとなりました。オバマ大統領は、結局この自由化を待つ中で前回2013年の大会には参加できなかったのです。


では、どうしてトランプ大統領は、少年たちの前で「政治的暴言」を行うという醜態を晒してしまったのか――そこには3つの理由があると思われます。


1つは、この7月24日というのは、わずか10日余りで解任されたアンソニー・スカラムッチ前広報部長の短い在任期間中に当たります。スカラムッチは「ホワイトハウス内の情報統制」を目指す一方で「ツイッターなど大統領の自由な発言は尊重する」という姿勢を取っていました。その結果として、演説原稿のチェックが甘くなった可能性はあると思います。


2つ目は、大統領の側に「ボーイスカウト大会」しかも「ウェストバージニア州のキャンプ場」というロケーションから、聴衆は「保守系で、自分の支持者がほとんど」だという錯覚があったのかもしれません。場所は毎回ここと決まっているだけの話で、そもそも、大会自体は全国からの参加です。また保守系ではなく、完全に超党派の団体なのですが、そこを誤解したという可能性です。


3つ目は、少し前に「軍からトランスジェンダーの兵士を追放する」という暴言ツイートを行った大統領としては、「オバマの圧力」で「ボーイスカウト組織が同性愛者を受け入れた」のに「反対」すれば、保守派の人々から喝采を浴びると考えた可能性があります。ですが、全国大会の席上でそんなことを言えば大問題になるので、大会事務局か、あるいは自分の側近に「それだけは止めてくれ」と言われ、結果的に変則的なオバマ批判になったということもあり得ます。


【参考記事】トランプ政権、就任後半年間の意外な高評価


ところが、この「事件」には奇妙な後日談があります。トランプ大統領は、ウォールストリート・ジャーナル紙のインタビューに応えて、問題の「ボーイスカウト・ジャンボリー」での演説について、ボーイスカウト連盟の幹部から「ボーイスカウトの歴史上最高の演説だった」という称賛の電話があったと話したのです。


AP電によれば、ボーイスカウト連盟は「そんな電話はしていない」と言っています。そもそも、連盟としては演説の3日後に「大会の中で政治的なスピーチが起きてしまった」ことを謝罪しているわけですから、大統領に称賛の電話をかけるはずがないのです。


現在、「ホワイトハウスはカオス状態」と言われています。それは、人材がコロコロ出入りするとか、内部からの「リーク」が止められないという問題が中心ですが、それだけでなく、肝心の大統領の言動についても、ここへ来て以前よりさらに「粗さ」が目立ってきたことは指摘できます。



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