<気温50度近い熱波のせいで欠航が続出。運航再開後も一部の乗客が搭乗できない事態に>
アメリカ西部を記録的な熱波が襲った今年6月20日、筆者はアリゾナ州フェニックスを訪れる予定だった。だがフェニックスのスカイハーバー国際空港では、48度を超える気温で飛行機が離陸できなくなり、欠航や遅延が相次いだ。
ようやくフェニックス入りできた6月21日の夜には気温は40度をやや下回り、最悪の熱波は去っていた。だがフェニックスを去る段階になって、デルタ航空から連絡があった。300ドルのクーポンと引き換えに、予定より後のフライトに変更してもらえないかというのだ。
気温は約45.5度。予約したフライトは満席だが、定員オーバーではないから離陸は許可されるはずだが、「重量制限」が課されるという。
気温が高いと空気が薄くなり、離陸に必要な揚力が十分に得られない。そのため、乗客か貨物か燃料を減らして機体を軽くする必要があるのだ。
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フライト変更に快く応じる客はそうそういない。搭乗ゲートに向かう頃にはクーポンの額は600ドルに引き上げられ、最終的に1000ドルで11人が変更を了承。飛行機は無事飛び立った。たった1日の猛暑で、航空会社は多額の損失を被るわけだ。
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重量制限が当たり前に
こうした事態は今後、頻繁に起こりそうだ。コロンビア大学の研究チームは地球温暖化による異常高温が航空機に与える影響を分析し、7月半ばに結果を報告した。
それによると、今世紀半ばから終わりまでに世界中の空港で、1日のうち気温が最も高い時間帯に離陸する航空機の10〜30%が重量制限を迫られるようになるという。特に高温地域の空港や滑走路が短い空港、もともと空気が薄い高地の空港が影響を受けやすい。
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航空業界は既にこの問題を経験済みだと、法律事務所コンドン&フォーサイスのマーシャル・ターナーは言う。対応策はいくつかある。より強力なエンジンを搭載するか、より涼しい時間帯にフライトスケジュールをずらすか。それが不可能なら重量を減らすしかない。
機体の軽い新型機を導入する手もあるが、少なくとも当面は乗客が減らされることになるだろう。コロンビア大学チームの予測では、減らす必要があるのは積載重量の0.5〜4%。大した量ではなさそうだが、同チームの試算では「いま運航している平均的な旅客機で重量を4%減らすには、定員160人に対してざっと12人か13人乗客を降ろす必要がある」という。
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同チームによると、ニューヨークのラガーディア空港は滑走路が短いため暑さの影響を受けやすい。アラブ首長国連邦のドバイ国際空港は、滑走路は長いが酷暑地域にあるためさらに深刻な影響を受ける。例えばボーイング777−300が最高気温の時間帯にこの空港から飛び立つには、55%の確率で積載重量を最高6.5%減らさねばならなくなるという。
長年、温暖化対策に及び腰だった航空業界が、今になって温暖化によるコストアップに苦しめられるとは何とも皮肉な話だ。
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