「創業以来50年赤字なし、経常利益3%」を実現する企業が示す「経営の本質」

0

2017年08月23日 19:13  新刊JP

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

新刊JP

『エブリデイ・ロープライス 不況知らずのフランチャイズ』(ダイヤモンド社刊)
どのような状況でも売上と利益を伸ばし続け、数十年という長いスパンで成長し続ける企業を創ること。それはあらゆる経営者に課された運命ともいえる。しかし、どうすればそのような企業を創れるのだろうか?

これはかなりの難問だ。
「消費者のニーズを満たすサービスを創出し続ける」「社会のためという理念を忘れない」という回答もあれば、「運が味方をしてくれることが大事だ」と言う経営者もいるだろう。

企業が成長を続けるため必要なことは何か――その答えが、実際に成長を続けてきた企業の歴史の中に存在している。
業務用食料品卸売業の先駆者として知られる、大阪の「エンド商事株式会社」は、1965年に食料品卸売業として創業以来、50年間赤字なし、経常利益率3%を実現し続けているのだ

エンド商事株式会社・代表取締役会長兼社長の遠藤勉氏が自社の歴史を綴った『エブリデイ・ロープライス 不況知らずのフランチャイズ』(遠藤勉著、ダイヤモンド社刊)は、成長を続けるための「答え」を与えてくれる一冊である。

■好機を逃さず動く

株式会社エンド商事は、食料品卸売業として創業後、ほどなくして業務用食品卸売業に転換。さらに日本初の業務用食品のC&C(キャッシュ・アンド・キャリー)型店舗立ち上げや、一般客に重点を置いた新型店のオープンとそのフランチャイズ化など、顧客のニーズや時代を先取りして業態を革新させていった歴史を持つ。

同社の成長は、この的確な業態革新によるところが大きい。本書には、どのようなタイミングで業態を変化させていったかが書かれているが、どの事例も遠藤氏の「好機を逃さず動く」姿勢には目を見張るものがある。

例えば、「ドライブインへの飛び込み営業」。
高度成長期の日本のモータリゼーションの進展はめざましいものがあり、自動車保有数は1955年の150万台だったのに対し、1975年は2900万台にのぼった。
エンド商事が業務用食品卸売業に転換した1967年頃はまさにその真っ只中であり、モータリゼーションの進展に合わせて、広がりを見せていたのが自動車に乗り込んだまま行けるサービス施設「ドライブイン」だったのである。

外食産業が発展する兆しを掴んでいた遠藤氏は、この「ドライブイン」に目をつける。
ドライブインには毎日毎日新しい食堂ができていた。遠藤氏はそんなドライブインの食堂のメニューを観察し、どのような材料で作られているのか分析。そして見積もり書を持って「飛び込み営業」をするのである。

「これ、スパゲティーとケチャップの見積もりです。今より二〜三割は安くなると思いますが、いかがですか」(P40より引用)

2〜3割のコスト削減とは思い切った見積もりだが、材料の仕入れ先を変えるということは、食堂にとっては大きな決断であり、よほどもうかる話でないと話は聞いてもらえない。
このような大胆な提案をしながら、遠藤氏は取引先を増やしていった。
最盛期には50カ所くらいのドライブインと取引があったそうだ。また、新規出店が驚異的な伸びを見せ始めた喫茶店や、人口増加に伴い需要が増えた大学生協などにも飛び込み営業をしていたという。

社会の変化をいち早く察知する目を持ち、そこに商売の芽があれば即行動に移す。まさに「機を見るに敏」といえる判断と行動力が、エンド商事の経営基盤を築いたのだろう。

この「好機を逃さない目と行動力」は現在のエンド商事でも如何なく発揮されている。昨今の居酒屋で人気が集中している「肉バル」に注目したり、老健施設(介護老人保健施設)との取引も模索したりしている。
どちらも、社会や時代の変化をとらえているからこその視点だ。

■柔軟な姿勢で常に進化する

エンド商事の強みをもうひとつ挙げるとするならば、その「柔軟性」だろう。

1973年、同社は日本初の業務用食料品のC&C型店舗を立ち上げる。C&C型とは「現金購入・持ち帰り」式のこと。「業務用スーパー」というと今では当たり前のように存在するが、実は日本における先駆者はエンド商事だったのである。

その後、競合各社もC&C型店舗を展開し始め、一般消費者にも業務用食料品店が認知されるようになった。
その認知度の高まりを好機と見て、エンド商事では「7:3」で設定していた業務客と一般客の構成比を逆転させた新業態店舗を開設したのである。
顧客の構成を変えるという発想は、柔軟な姿勢があってこその展開だろう。

また、新規店舗の開設においても、画一的な品揃えに執着せず、出店する地域のニーズに合わせた柔軟な姿勢で臨む。例えば、周辺に飲食店が多い「C&Cエンド道頓堀店」では、飲食店の仕込み時間に合わせて営業時間を絞り込み、商品のラインナップも吟味することで効率的な運営ができているという。

「柔軟性」は経営者にとって欠かせない資質だ。
だが、どれだけ「柔軟性」を持ったとしても、「本業に徹する」ことを忘れてはならない。エンド商事の場合、「業務用食料品」という枠から出てまで売上を伸ばすという選択はしない。新たな経営の柱を築くときも、あくまで本業を軸とすることが大切なのだ。

■創業理念の継承でこれからの50年を拓く

エンド商事の経営理念は、「ハイクオリティな商品を、どこよりも安価で提供する」。これは創業時から変わらずに継承されてきたものだ。

その原点は、1973年の第一次オイルショックにある。物価の高騰により業務客も一般客も1円でも安い商品を求めた。この事態を、遠藤氏は千載一遇のチャンスととらえ、会社の総力を結集して1円でも安く売ることに死力を尽くしたという。

この理念を貫くのは決して易しいことではないはずだ。
ハイクオリティな商品を安く売るには、仕入れ価格を引き下げるしかない。そのためには大量の仕入れを受け入れ、大量に販売する許容能力が要る。エンド商事は、その売上高を拡大することで、この理念を実現し続けている。

そんなエンド商事は創業50年を超え、節目を迎えている。
遠藤氏は、これからの50年について「集団指導体制でエンド商事を発展させていく時代だ」と述べている通り、自分の理念を受け継ぎ、「新しい時代の新しいエンド」を創りあげることを、後継者たちに期待している。すでに配送センター新築計画をはじめ、新たな柱の構築を彼らに託した。

エンド商事の「これまで」と「これから」から、「経営の本質」が見えてくるだろう。それは、売上や利益が伸びずに悩んでいる多くの企業のお手本となるはずだ。
是非、本書を手にとって読んでみてほしい。

(新刊JP編集部)

    前日のランキングへ

    ニュース設定