【男が痴漢になる理由】なぜ逮捕されても繰り返す? 痴漢に与えるのは厳罰か、治療か

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2017年08月29日 23:00  citrus

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私が編集を手がけた『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)は、痴漢の実態を明らかにするところからはじまります。著者の斉藤章佳氏は精神保健福祉士・社会福祉士として、東京「大森榎本クリニック」でさまざまな依存症問題に取り組んでいます。

 

アルコール、ギャンブル、薬物、万引き……。そして痴漢をはじめとする性暴力が常習化している男性の根っこにも「性依存症」という病が潜んでいるといいます。

 

本書についてのブックレビューや著者インタビュー記事が複数のメディアで掲載されていますが、「痴漢は依存症である」という説には「病気は言い訳」「甘え」「だからといって女性に性暴力加害をしていいことにはならない」という反応が多く寄せられました。

 

斉藤氏も、過度の病理化(病気だと見なすこと)は要注意だといいます。本人が「病気だから痴漢をしたのは仕方がない」「自分が悪いのではなく、病気が悪い」と言い出したら、被害を受けた側はたまったものではありません。人に加害していい理由などないのです。

 

 

■性犯罪報道を目にするたび女性は傷つき、怒っている

 

性犯罪の問題は、感情と切り離せないところがあります。私もかつては性犯罪の報道に触れると反射的に怒りが湧き「去勢すればいい」「GPSをつけて監視すればいい」と思っていました。その怒りは、恐怖とセットになっています。自分が直接加害されたわけでなくても、報道を見聞きするたびに何かしら自分も傷つけられたと感じて、根源的な恐怖心、嫌悪感、そして怒りのスイッチが入っていました。

 

しかし「性依存症だからこそ、治療によって止められる」と知ると、変わってきます。斉藤氏が所属する榎本クリニックには、多くの性犯罪加害者が通院しています。特に常習性が高い人であれば月〜土まで1日中、認知行動療法を中心とした専門の治療プログラムを受けます。

 

一見、加害者が“ケア”されているように見えるかもしれません。被害者がいわれなき暴力の影響で苦しみつづける一方で、その原因を作った側が社会に手厚く受け入れられているのは理不尽ではないかと。

 

 

■なぜ罰を与えたのに繰り返す?

 

まずは罰を重くしたほうがいい、という声もあるでしょう。それもうなずけます。今夏、改正刑法が施行されましたが、そこで法定刑の下限が引き上げられたのは強制性交等罪(従来の強姦罪)についてのみで、痴漢の多くが相当する強制わいせつ罪、迷惑防止条例違反は厳罰化の対象となりませんでした。

 

一方、法務省が公開しているデータをもとに本書でも明らかにしているように、何度か実刑判決を受けてもくり返してしまう痴漢は多いです。「彼らにとって罰とはなんの意味があるのだろう?」と思ってしまいます。

 

いうまでもなく、犯した罪に相当する罰は与えられなければなりません。が、それだけでは止められない現実をデータが示しているのです。

 

 

■「痴漢は許せない」という感情に振り回されない

 

罰を与えるだけ、重くするだけでは、痴漢は止められない。依存症としての治療教育が必要である──頭では理解しながらも、私もすぐには飲み込めないところがありました。「やっぱり許せない」という感情が先に立ってしまうのです。

 

クリニックで行われている治療は“ケア”ではないこと。目的は、再犯防止に尽きること。それによってようやく彼らは“生きがい”だった痴漢行為を手放せること。これらを順に理解し、自分を納得させるのは時間がかかる作業でした。

 

今春から夏にかけて、刑法改正を訴える性被害被害当事者の方々が主催する勉強会や集会にお邪魔する機会が何度かありました。尊厳を踏みにじられ、その後の人生を大きく変えられた当事者の方々が、被害について切々と訴えるだけでなく、性暴力、性犯罪の実態を調査し、法律を学び、それを自身の経験と照らし合わせながら現行法(当時)の問題点を突き、被害の実態を知ってもらうべくロビイングや啓発活動をつづける……真摯な活動を目の当たりにしました。感情的に訴えるだけではない戦い方が、そこにはありました。

 

 

■罰を与え、治療につなげて、やめさせる

 

痴漢問題を考えるうえでもこの姿勢が求められると感じました。感情をないがしろにするのではなく、でも冷静に考える。「去勢だ」「GPSだ」と現時点で実現が遠いと思われる“対策”を叫ぶのは、実は痴漢・性犯罪者の術中にはまっているのと同じです。しかも、それによって再犯を防止できるという明確なエビデンスはないのだとか。

 

それよりも「罰を与え、そのうえで治療につなげて、やめさせる」が最も確実な方策だろうと、やっと腑に落ちたのです。

 

具体的にどんな治療が行われているのか? その効果のほどは? そして、治療には社会的コストがつぎ込まれますが、私たちはそれをどう考えればいいのか? 本書ではすべてを明らかにしています。「痴漢にとって都合がよくない社会」へと変えていくために、いま、ひとりひとりの発想の転換が求められています。

 

【関連書籍】『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)

 


 

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このニュースに関するつぶやき

  • 『痴漢に依存』て事は、自分が相手に被害与えても反撃されない、謂わばDQNの暴力依存と変わらんて事だろう…?一方的に屈辱受ける体験を更生の中で味合わせれば理解すると思ってんだけど…?
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